『ザリガニの鳴くところ』-2021年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位作品!

アメリカ南部に暮らす少女は、貧乏だからという理由で周囲からも受け入れられず、暴力を振るう父から母も兄弟も逃げてしまいます。

父もやがて行方不明になり、少女カイアはついに一人ぼっちになってしまいました。

カイアに優しいのは、周囲の森や湖などの自然だけでした。さらに兄の友人だったテイトはカイアに文字や世界を教え、彼女を成長させていきます。

そんなテイトもやがてカイアの前から姿を消し、カイアは何度も孤独を味わうことになります。

カイアが成長するまでの物語と、沼地で見つかった変死体の謎が同時に進み、真犯人へ続く道が徐々に見えてきます。

厳しい世界と向き合う一人の少女の気高い精神に思わず魅了される、全米で大ヒットしたミステリー小説です。

ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』

ただのミステリー小説ではなく、今も世界のどこかで起きている貧困や差別、貧困、DVといった問題が本筋に大きく関わっています。

アメリカの人種差別問題は近年でも世界的に知られる大事件が起きていますが、それは白人と黒人の間で起きた問題ばかりです。

今作では、白人から差別される白人の様子がリアルに描かれています。

これらの問題をすべて一人で背負うことになった少女カイアの気持ちは、日本で生きている私たちにとっては想像しにくいかもしれません。

それでも、一つ一つの問題に向き合い、まっすぐに生きるカイアの生き様には心を打たれることでしょう。

カイアの周囲のひどい人間たちの言動には心が痛みますが、同じだけ彼女に優しくしてくれる人間の存在も描かれており、カイアがどう成長していくのかが本書の見所の一つでもあります。

自然や動物への愛に溢れた描写も美しく、カイアと一緒に私たちの心も成長していくような感覚を楽しめます。

殺人犯は一人ですが、その人物についての感想は読む人によって大きく違うでしょう。

読み返す度に違った感想が出てくる作風でもありますので、一度読み終わったあとも時間を開けてまた読んでみてください。

「ザリガニの鳴くところ」という不思議なタイトルがつけられていますが、そんな身近な自然についてもよく描かれています。

アメリカではザリガニは貧困層の食べ物という認識があり、そういった意味でもこのタイトルがつけられているのかもしれません。

ミステリー小説としての面も非常に優れています。映画のような緊張感のあるシーンも楽しめて、海外の小説はあまり読まないという方でもすぐに世界観に浸れるでしょう。

ラストも一般的なハッピーエンドとは呼べない展開になっていますが、それでも胸に深く残る美しい物語に仕上がっていました。

成長すること、人を愛すること、自然と一緒に生きることを深く考えさせられる作品です。

作者のディーリア・オーエンズ氏はアメリカの動物学者です。現在もアメリカのアイダホ州に在住し、絶滅が危惧される動物の保護に尽力しています。

今作はそんなオーエンズ氏が69歳のときに執筆した小説です。

過去にもノンフィクションの書籍を執筆していますが小説の執筆は初めてでした。

そしていきなり今作が全米で大ヒットします。

アメリカだけで500万部売れた今作は世界中で翻訳され、日本でも話題になりました。

動物学者ならではの観察力で描かれた動物たちや自然界の厳しさ。

さらにアメリカが直面している差別問題、貧困問題についても真摯に向き合い、丁寧に描かれています。

ミステリー小説はあまり読まない、海外の作家の小説は読まないという方でも、濃密なメッセージや臨場感のある謎解き部分に思わず夢中になってしまうことでしょう。

名作として今後も長く愛されそうな、読む人の心を豊かにしてくれる一冊です。

読み終わったら、ぜひ誰かと感じたことを語り合ってみてください。

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