二階堂黎人『巨大幽霊マンモス事件』-蘭子シリーズらしい奇跡の密室殺人がここに誕生

二階堂黎人さんの「二階堂蘭子シリーズ」、そして巨大幽霊マンモスとくれば読まないわけにはいかないでしょう。

なんですかこの魅力的なキーワードは。

『巨大幽霊マンモス事件』という変わった題名だが、これは、巨大な、幽霊マンモスが出て来る、事件、という意味だ。

実を言うと、この題名は、島田荘司先生の『ロシア幽霊軍艦事件』(二〇〇一年)という題名を見た瞬間に、頭の中に降って来たものである。

P.316より

という事だそうです。

 

そうなんです。巨大幽霊マンモスが出てきちゃうんです。

じゃあホラーなの?ファンタジー小説なの?と言いたいところですが、これはガチのミステリ小説です。素晴らしい。これぞ蘭子シリーズ。

ロマンだ。これはロマンだ……。

巨大幽霊マンモスなんてものをどうやって本格ミステリに絡ませてくるのよ?という点にも注目しながら読んでいきましょう。

 

関連記事

➡︎「世界最長」のミステリー小説、二階堂黎人『人狼城の恐怖』を読破せよ!

➡︎『ラン迷宮 二階堂蘭子探偵集』-五重密室、雪の足跡、毒殺、怪人。蘭子シリーズの魅力が詰まった名作集が文庫化

目次

『巨大幽霊マンモス事件』

毎月一回開かれる〈殺人芸術会〉の月例会では、様々な謎や不可解な事件が問題として出され、皆でワイワイ解き明かすという遊びを行っておりました。

今作はその例会で、シュペア老人が書いた小説、〈死の谷〉で起きた〈巨大幽霊マンモス事件〉を読んで、蘭子が解決していくというスタイルです。

蘭子が実際に巨大幽霊マンモスに遭遇するわけではありません。ですが、これは、非常に面白い展開です。

だから、この原稿ーー記録と、私は読んでいるがーーの結末を除き、全体の九割を問題編として、皆さんに提出したいと思う。

これを順繰りに読んで、謎解きし、来るべき例会の時に、おのおのの推理を発表してくれたまえ。

P.51より

 

ロシア革命から数年後のシベリア奥地が舞台。

ルカ・フロロール隊長率いる〈小隊〉は、逃亡貴族たちが身を隠す〈死の谷〉と呼ばれた辺境へと向かっていた。

そこには、たくさんのお宝が眠っている。しかし、〈死の谷〉には「巨大幽霊マンモス」がいて、来るものを追い払うという噂があった。

冷静に考えて、そんなものいるわけがない。が、実際に巨大マンモスに襲われた人たちもいる。

はたして、「巨大幽霊マンモス」は本当に存在するのか……。

 

ぜひ目にしたい、奇跡の密室殺人

というわけなんですが、メインとなる謎はマンモスだけではありません。

〈死の谷〉へと向かう道中、仲間が次々に何者かに殺害されていきます。

誰が〈小隊〉の仲間を殺しているのか。という謎にも注目なのですが、やはり今作の見どころは密室殺人でしょう。

フロロール隊長率いる〈小隊〉は、このあと二つの密室殺人、「ラージン家での密室殺人」「〈赤い家〉での密室殺人」と出会う事になります。

マンモスよりこっちが本番ですね。

雪の足跡問題です。犯人は、雪に足跡を残さず、犯行現場から消失してしまったのです。

特に二つ目の密室殺人では、「犯人はなぜわざわざ死体を〈赤い館〉から〈礼拝堂〉へと運び、どうやって足跡を残さず消失したのか」という謎に迫るわけですが、これが絶品なのです。

蘭子シリーズでしかまず味わえないような、思わず「そんなのあり!?」と叫んでしまいたくなるような、驚異の密室です。

ーーこれはある種の奇跡でした。こうした一連の凄惨な出来事によって、〈犯人の足跡なき殺人〉が成立してしまったのですから。

P.281より

と、蘭子も言っていますが、奇跡です。前代未聞の、そんなバカなトリックです。

私は絶賛しますよ。こうまでして密室を生み出してくれた二階堂さんに感謝です。

 

あ、もちろん巨大幽霊マンモスの謎も解決しますので、お楽しみに。

まずは「ロシア館の謎」から

であるからして、できれば、この長編を読む前に、短編集『ユリ迷宮』(講談社文庫)所有の「ロシア館の謎」を読んでおいていただけると、楽しみが倍増すると思う。

P.316より

と、二階堂さんご本人が述べているように、『巨大幽霊マンモス事件』は「ロシア館の謎」の続編的作品です。巨大幽霊マンモスの前に『ユリ迷宮 (講談社文庫)』に収録されている「ロシア館の謎」を読んでおきましょう。

「ロシア館の謎」は、シベリアの吹雪の中で巨大な館が消失する、という、蘭子シリーズの中でも特に面白い名作です。

 

ミステリとしてももちろんですが、特に『巨大幽霊マンモス事件』は「物語そのものが面白い」というのも大きな魅力。

雪の中、〈死の谷〉へと向かう小隊。

しかし一人、また一人と何者かに殺されていくスリリングな状況。

そんな中で驚異の密室殺人の巻き込まれる小隊。

〈死の谷〉に出現するという巨大幽霊マンモス……。

魅力的な要素が満載です。これらの要素の絡ませ方にも注目し、ロマン溢れる壮大なストーリーを心から楽しみましょう。

あわせて読みたい
「世界最長」のミステリー小説、二階堂黎人『人狼城の恐怖』を読破せよ! 今回ご紹介させていただく、二階堂黎人(にかいどうれいと)さんの『人狼城の恐怖』という作品。 ミステリ小説として面白いのはもちろんのこと、実は世界で最も長いミス...

蘭子シリーズの読む順番など

あわせて読みたい
【二階堂黎人】二階堂蘭子シリーズのオススメと読む順番について 二階堂黎人作家生活25周年記念(おめでとうございます!)、ということで「二階堂蘭子シリーズ」を振り返ってみましょうか。   映画女優のような豊かな巻き毛が特...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • anpo39さんのベスト10企画をぜひやってほしいんだけど、如何でしょうか。。。たとえば、anpo39さんの「好きな新本格ベスト10」とか「好きな本格シリーズベスト10」とか。好きすぎる作品がいっぱいありそうだし、しかも読書網羅率がすごく高いanpo39さんがベスト10をやるのは大変な作業だとは思うんだけど、、、どうでしょう?難しいでしょうかね・・・
    psわたしは基本、いままでは新本格のすべての作品を発売日に買っていたのですが、最近、二階堂さんの新作を全く買わなくなってしまった。二階堂さん、人狼城を出していた時と今現在では、作品の質がメッチャ落ちてしまったな~って。人狼城のときは、あんなに「ワクワク」して読めたのに、、、、、いとさびし

    • おおお、私のベスト10企画……!逆に良いんですかそんなのやって……!
      確かに好きな作品ありすぎて、大変かもしれないですが、ぜひやってみたい。。。ありがとうございます、ちょっと時間がかかるかもしれませんが、ぜひ参考にさせていただきます。ありがとうございます。
      そうなんですよねー、蘭子シリーズも人狼城までとっても好きだったんですけど、悪魔のラビリンス、魔術王事件、双面獣事件あたりからちょっと変わってきてしまって……。
      人狼城以上の作品なんてそう簡単にあるものじゃないのもわかっていはいるのですが、私も、いとさびし。

コメントする

目次