本編が『人差し指』『中指』『親指』『小指』『薬指』と、それぞれ異なる指が章題となった不穏な5部構成ミステリー作品となっている、凝った作りの本作。
綾鹿市(あやかし)シリーズ最新作となっていますが、前作との繋がりもないので本作から読んでも全く問題なく楽しむことができますのでご安心を。
奇想トリックの第一人者と呼ばれる作者・鳥飼否宇氏が放つ、読者を翻弄する謎が満載の本格ミステリーとして話題を呼んでおります。
人の心の奥底に潜む深い闇の部分を描く展開はとても中毒性があるため、謎解きをしながら本格的なミステリー小説を読むことができるというのが一つの魅力となっています。
しかし登場人物たちは互いに矛盾や謎を抱えていて、同じ事件から受ける彼らの印象も一致しません。
物語の前半では登場しなかった新たな事実が後半で明らかにされるなど、読み進めていく中で予想の斜め上をいく展開が待ち受けています。
最後まで読んだ時点で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
読み進めるにつれて本格ミステリーの渦に呑み込まれていく読者自身
『“彼”は悩んでいた。』の一節から始まるプロローグでは、少年が思い悩んだ末に「やるしかない」と、実父の遺品である短刀を鞘から抜き取るシーンで締め括られているため、最初から不穏な空気を漂わせており、これから始まる恐怖を予感させます。
続く本編はメンバーが全員動物好きという強みを活かし、全国の動物園でミニコンサートを行う女性アイドルユニット『チタクロリン』のメンバーである飯岡十羽が、撫でようとしたレッサーパンダに指をかみ切られてしまうという衝撃的な指切り事件から始まります。
物語が進むごとに関係者が一人また一人と襲われて指を切断される緊迫感溢れる展開、連続した事件か、それとも不連続事件なのかもわからないまま物語は進んでいくため、迷宮に迷い込んだような不安の中でひしひしと迫りくる恐怖に怯えること間違いなしです。
そして事件が進むにつれて「嘘つきは誰なのか……」という謎に、読者はハラハラさせられるというわけです。
登場人物によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになります。
本格ミステリーの渦に呑み込まれながら、話に振り回されるような楽しさを感じられます。
本格ミステリー小説としての面白さと舞台設定を生かした破壊力
事件の舞台である動物園のチーフ警備員・古林新男が刑事・谷村の聴取に応じるうちに、なし崩し的捜査に協力していくいう設定も、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。
読者はこの2人と共に推理していく形になるのですが、奇妙な指切り事件の数々と動機の謎が最大の読みどころであり、トリックやロジックなど、動物園という舞台設定が、本格ミステリーの面白さをより際立たせます。
張り巡らされた伏線の数々や、タイトルさながらパズルのように全ての謎がピタリと嵌まる意外な真相は、本格ミステリーのために作られた奇禍に端を発する『指切り』という設定が存分に活かされており、ミステリーの面白さを存分に堪能することができます。
最後までこの設定ならではのストーリーが展開していくため、奇想トリックの第一人者と呼ばれる作者ならではの人を食ったようなトリックは、謎が解明されていくと共に騙される快感を感じられ、ラストの切れ味に驚かされることになるでしょう。
こういった雰囲気を動物園という舞台で、ミステリーと同時に味わえる“本格ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
騙されたいミステリーならコレ!
本格ミステリー・ワールド・スペシャルの最新作として、新刊が出されることとなった本作。
発売されたばかりですが、すでに本格ミステリーファンの趣向を詰め込んだ傑作として絶大な評価を得ており、本格ミステリー好きはもちろん、ある種のトリックを堪能したいという方にとってはもはや必読のミステリー小説と言っても過言では無いでしょう。
ミステリーとしての軸はブレずにラストは全体を通した謎を解き明かしながら、作者らしい趣向を凝らした謎とトリック、動物園という舞台だからこそ成立する展開が見事。
そのためミステリー小説に興味が無くても引き込まれるほどに、本書はトリックものとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
ミステリー好きの方、本格的なトリックに興味が湧いた方、ただただ読み応えのある本格ミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないハズ!
新刊が出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください(*´∀`)♪