『妖異』日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集④が好みの作品ばかりで嬉しい

この『妖異』は「日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集」というシリーズの第四弾。

その名の通り、各時代から選りすぐりの短編を集めた作品集となっていて毎度楽しみにしているのですが、先日6月15日に発売された『妖異』がとてもタイプでした。

収録作品は

1.綾辻行人さんの『人形』
2.石川喬司さんの『エーゲ海の殺人』
3.大下宇陀児さんの『魔法街』
4.大坪砂男さんの『零人』
5.加納一朗さんの『ギズモ』
6.香山滋さんの『ソロモンの桃』

の計6編。

ミステリあり、SFあり、奇妙な味あり、の極上の短編集でございました。ごちそうさまでした。

今回は、特にお気に入りの短編を三つだけご紹介です(´∀`*)

目次

綾辻行人『人形』

作家である「私」は、体調を崩したことを機に実家へ帰った。

仕事をしようとしたけどあまりの暑さに執筆が進まず、気分転換として、飼っている柴犬・エルの散歩を始める。

河原に着き、リードを離してエルを遊ばせていると、エルがどこからか「人形」を口にくわえてこちらにやってきた。

身長は三十センチくらいのものだろうか。マネキン人形を縮小したような作りの品で、いくらか土で汚れてしまっているけれど、まだ新しそうな黄色い半袖のポロシャツを着、ストーンウォッシュの黒いジーンズを履いている。手の指も足も、なかなか精巧にできているようだ。ところがーー。

それにしてはおかしな部分が、ひとつあるのだった。

P.17より

この人形を拾ったことをきっかけに「私」の周りで奇妙な出来事が起こり始める、という綾辻さんらしい奇妙極まりないホラー。こういうの大好きです。

※この短編『人形』は、綾辻行人さんのホラー短編集『眼球綺譚 (角川文庫)』にも収録されています。

 

加納一朗『ギズモ』

雷鳴の轟く夜。テレビをつけようとしたら、映像が映らない代わりにテレビから”声”が聞こえてきた。

「誰だ?どこにいるんだ?」と、ぼくは思わず口に出した。

「君の前だ」と、声は云った。「電子流が強くなってきたぞ。ますますいい」

「出てこい」と、ぼくはどなった。

「出るわけにはいかない。パルスが同調した以上、ここに住まわしてもらう」と、相手の”声”はぼくの脳で炸裂した。

P.147、P.148より

なんと雷をきかっけに、ちょうどいい電子流を発生する熱源があったからここに落ち着いた、といいます。

それから「ぼく」と「声」の奇妙な共同生活が始まるのですが……。


というような、テレビの中に謎の生命体が侵入してしまった、という話。

設定もいいしストーリーも良い。雰囲気も抜群でオチもピリッと決まっているかなり好みな短編。

 

大下宇陀児『魔法街』

M市で起きた奇妙な事件が三つ語られていきます。

①『怪電車事件』

営業を停止している午前二時半から三時半までの間に、運転手も乗客も乗っていない電車が一台走り回っているという噂がたった。

目撃者も何人かいますが、市の局長曰く「そんなことはありえない」とのこと。

そんな奇妙な噂が立つ中、とうとう一人の女性が殺されてしまうという事件が発生した。あの空電車と何か関係があるのでしょうか。

②『怪ラジオ事件』

深夜、M市のラジオから奇妙な放送が流れ始めた。

なんと、市会議長夫人とその令嬢が、何者かに監禁されてるようなのです。

お待ちください。お待ちください。只今からして、JーーK特別プログラム、某所に於ける狂想劇、『血みどろの一夜』を中継放送致します。

P.84ページより

突然の出来事に、ラジオを聞いている人々は「何が起こっているんだ??」という感じでした。が、ラジオの向こうで行われた出来事に誰もが驚愕します。

そう。おこなわれたのは、まさかの殺人生中継。

③『怪救世軍事件』

人々の安らぎとなっている海に浮ぶカフェー『浮城』が、突然真っ二つに裂けて沈没してしまったという事件。

 

この三つの事件が起きた後、その真相がわかったという「B」と名乗る人物が現れて……。という作品です。

これの面白いところは推理小説のようで推理小説ではないってところですよね。ホラーファンタジー寄りな作品なんですよ。いや、そういうオチに持っていくかい!って感じで、作品の雰囲気も合わせてすごく好きな作品。

読後に残る奇妙な味わいが最高です。

 

妖しい世界をご覧あれ。

まさに『妖異』というタイトルがぴったりな短編集でした。

この「日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集」というシリーズ、現在までに

①『金沢にて(双葉文庫)
②『雪国にて 北海道・東北編-(双葉文庫)
③『隣りの不安、目前の恐怖-(双葉文庫)
④『妖異』
⑤『幻異 (双葉文庫)』(『妖異』と同時発売)

とあるんですが、今回の『妖異』の雰囲気が一番好みでしたね(このシリーズはどれも面白いんですけど)。「恐怖」とまではいかない「妖しい」世界観がよかったです。

特に海野十三や乱歩、甲賀三郎あたりの時代の作品が好きな方には最高なのではないですかね。1900年代前半〜中盤の香りがプンプンします。

このような古き良き作品を今になって楽しめるって本当に素晴らしいですね。これから6弾、7弾とどんどん出版していっていただきたい!

というわけで、この機会にぜひ『妖異』を含めた〈日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集〉シリーズを読み漁ってみてくださいな。ホントに名短編揃いですので、きっとお気に入りの短編を見つけていただけるでしょう(*´∀`*)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

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