主人公のトマは現在ニューヨークで小説家として多忙な日々を送っていました。
そんな彼の元に、南フランスのコート・ダジュールニアル母校の名門高校で創立50周年の式典がおこなわれるという知らせが入ります。
その式典を最後に体育館は改築されるということを知ったトマは、慌てて故郷へ帰ることに。
トマが学生だった25年前、その母校では魅力的な少女ヴィンカの失踪事件が起きていました。
ヴィンカは教師と駆け落ちしたとされ、捜査も打ち切られ未だに彼女は発見されていません。
その秘密を知るトマは、当時の親友であるマキシムと一緒に奔走します。
彼が知っている秘密とは何なのか、ヴィンカの失踪事件の真相はいかなるものなのか、フランスの人気ナンバーワンの作家がスリリングに描きます。
過去と現在が目まぐるしく交差するスリリングな展開
物語はトマの現在や50周年記念の式典の様子と、25年前のヴィンカの失踪事件を交互に描きながら展開していきます。
現在と過去の入れ替わりがスピーディーで、次々に謎が明らかになり物語が展開していきます。
そしてただ真実が明らかになるだけでなくさまざまなスパイスもくわわり、ラストは予想もできない展開に。
次に何が起きるのか想像することもできず、ジェットコースターに乗せられているようなスリリングな体験ができるでしょう。
たった一つの事件がきっかけで多くの人々の行動や考えが変わり、そのために本来なら起こらなかったはずのトラブルも引き起こしてしまいます。
大掛かりなトリックや仕掛け、場面があるわけではありませんが、その分次のアクションが読めない不気味さがあり、古典ミステリーのような重厚さを楽しむこともできます。
この作品が出版されたのは2021年ではありますが、古い純文学を読んでいるような文学性もあります。
さらに南フランスの豊かな風景描写も多く、ちょっとした旅行気分を味わえるのも本書の魅力の一つではないでしょうか。
フランス国内では当たり前に通用するものの日本ではなじみのない言葉も多様されているので、その点には注意しつつじっくり読み進めていきましょう。
家族愛と不気味な雰囲気が絶妙に合わさった一冊
本作のテーマの一つには家族愛があります。
それはトマの家族であったり、親友のマキシムの家族であったり…。
家族の形はさまざまで、その家族によって愛情の示し方も大きく違います。
すべてには共感できないかもしれませんが、作者であるギヨーム・ミュッソ氏が思い描く家族観のようなものが垣間見える一冊でもあります。
また、本作に登場する創立50周年の名門高校の描写も巧みです。
何か不気味なことが起こりそうな古い校舎や主人公たちの過去の記憶などにも思いを馳せながら読み進めることができます。
ミステリー小説にはさまざまなジャンルがあり、中にはエドガー・アラン・ポーのような古典的でおどろおどろしい雰囲気を楽しめるミステリー小説が好きな方も多いですよね。
そのような方にも、今作「夜と少女」は独特な雰囲気を感じられるのでおすすめです。
トマの同級生やかつての教師、いまだに母校で働き続けている司書などさまざまな人物が登場し、すべての人物が25年前の事件をきっかけにさまざまな行動を起こしたり心に傷を負ったりしています。
彼らの心情の描写も丁寧で、その分より一層25年前の事件や学校の描写がミステリアスなものに仕上がっています。
フランス随一の名作家が描くサスペンス
作者のギヨーム・ミュッソ氏は10年間連続してフランスでナンバーワンと称される大人気の小説家です。
小説を発表すればサッカーチームが勝ったのと同じくらい大々的に取り上げられ、フランス国内ではもちろん世界中でも新作を楽しみにしているファンは多いです。
35か国で彼の小説は翻訳されており、もちろん日本でも話題作であった今作はすぐさま翻訳、出版されました。
ギヨーム・ミュッソ氏はミステリーやサスペンスといった小説が得意で、主人公は小説家だったり事件の鍵を握る真犯人だったりといった設定が定番です。
そんな定番でありつつも毎回新鮮に楽しませてくれるのは、毎回まったく違う展開が待っているからでしょう。
今作も事件の鍵を握る主人公とその友人が事件の隠ぺいを図るのかと思いきや、思わぬ方向に話が転んでいきます。
さらに作者のフランス人らしい一面として、恋愛における感情表現の豊かさにも注目です。
フランスの作家の小説はあまり読んだことがないという方の最初の一冊としても、ギヨーム・ミュッソ氏の作品はおすすめですので、この機会にぜひ!(๑>◡<๑)
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