〈奇妙な味〉が存分に楽しめる『街角の書店 (18の奇妙な物語)』の続編的作品『夜の夢見の川』が発売となりました!
簡単に言うと、選りすぐりの〈奇妙な味〉なお話が十二編も収められたアンソロジー、というわけです。最高、ってことです。
不思議な物語が好き!、奇妙な味ってなに?、怪しげなお話が好み、という方にぜひオススメしたいので簡単にご紹介させてくださいな。
いや、むしろそんなの興味なくても、この機会にぜひ読んでハマっていただきたいくらい良い作品集なんですわ( ゚∀゚ )
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『麻酔』クリストファー・ファウラー
ブラジル・ナッツを歯で割ろうとしたら、逆に臼歯が真っ二つに割れてしまったサーロウ。
強烈な痛みに耐えながら歯科医に行くと、いつも治療してくれる人がいなくてマシュウズという初見の歯医者さんが担当してくれることになった。
まあいいか、とさっそく麻酔をしてもらって治療を始めるんだけど何かおかしい。
「しまった」歯科医は大声でいう。「ミスってしまった。手もとをよく見ていなかったものだから。このところ、いささか気の張ることが多くて」
P.20より
スーパーサイコパスです。しょっぱなから飛ばしてきますね。
〈奇妙な味〉であり、ひたすらに「痛い」お話。
ちょうどいま歯医者に通っている私には最悪のお話でした(泣)勘弁してください。
『バラと手袋』ハーヴィー・ジェイコブズ
子供の頃からあらゆるものを収集するクセのあったヒューバーマン。
そんな彼のクラスメイトだったわたしは、子供の頃に「オートバイのおもちゃ」を彼に売った。
あれから二十年たち、「オートバイのおもちゃ」が欲しくてたまらなくなったわたしは、やっとの思いでヒューバーマンの居場所を突き止める。
見た目はほとんど変わっておらず、彼の家は収集したものに彩られた巨大な倉庫のようだった。
どうしてもおもちゃを取り戻したいわたしはヒューバーマンに交渉を始めるが……。
「俺は館長だぜ」ヒューバーマンはゆっくりといった。「いま作ってるのは、美術品と工芸品の博物館だ。貴重な美しい品物にかこまれて暮らしてる」
P.42より
前回ご紹介させていただいた『街角の書店』に収められていた、ジェイコブズの「おもちゃ」という作品に似ているようで異なるお話。
〈お金では買えないもの〉を売ってくれるお店とは、なぜこんなにも魅力的なのでしょうか。
『終わりの始まり』フィリス・アイゼンシュタイン
十三年前に死んだはずの母親から「今夜七時に夕食においで」と電話がかかってきた。
なんの冗談か、と思ったリーア。しかし、母が死んだことを知っているはずの夫や兄も親友も、「何を言っているの?リーアの母親は死んでなんかいないでしょ?」と逆にリーアを心配する始末。
何が起こっているのか。わたしは十三年前、確かに母の死を看取ったはずなのに。
母の最後の日々の記憶が、どっと脳裏によみがえってきた。母の寝室の消毒液のにおい、もっとモルヒネをくれと懇願しているおちくぼんだ目、喉を鳴らす死の喘鳴、そして、葬儀。黒、黒、黒の喪服の人々。
P.86より
死者から電話がかかってくる、というと怖い話のように思えますが、これは実に心にしみるお話でした。
このタイプの〈奇妙な味〉も良いですね。かなりお気に入り。
『銀の猟犬』エドワード・ブライアント
夫が会社をクビになったので、家を売って家族みんなで農場で暮らすことになった主婦ローズ・エレン。
ちょうどその頃から、彼女を二匹の犬が付きまとうようになる。
最初見たときは「綺麗な犬だなあ」くらいにし思わなかったが、あまりに付きまとわれるため気味悪がるようになる。
しかし周りの人に訴えても、「たかが犬だろう」「美しい犬じゃないか」と相手にしてくれない。
この犬は一体なんなのか。ローズ・エレンの悩みは深まっていき……。
「シッ、シッ!行って」犬が見つめている。「家に帰って!」
膨れ上がる恐怖を、ローズ・エレンはいらいらと払いのけた。なにも怖がることはない。二匹ともうなるどころか、威嚇する気配もなく、黙ってそこにいるだけなのだから。
P.156より
なにもせずにただ見ているだけ、というのが逆に不気味ですよね。。
『アケロンの大騒動』フィリップ・ホセ・ファーマー
アケロンの街の酒場で、二人の若者の一人がもう一方の若者ジョニーを拳銃で撃ち殺してしまう。一人の女性を争って喧嘩になったようだ。
街の人々がジョニーの死体を葬儀屋に運んでいると、見慣れない、そして奇妙な格好の男と出会う。
ドクター・グランドトゥールと名乗るその男は、医者にジョニーが間違いなく死んでいると確認させたところで、「これからジョニーを生き返らせる」という。
なにを言っているんだ?と街人が顔をしかめている中、グランドトゥールは怪しげな装置を使い本当にジョニーを生き返らせてしまったのだ!
「故人に血清を注射したところです。体内を流れる電気と合わされば、命をとりもどすはずです。」
P.203より
死者を蘇らせるという怪しげな話ですが、読んでいて非常に楽しい作品でした。
〈奇妙な味〉と言ってもいろいろな作風が楽しめるのが今作の良いところです。
他にも本当に面白い作品ばかり。
だってG・K・チェスタトンの「怒りの歩道──悪夢」とかが読めるんですよ!
チェスタトンってアレです。海外古典ミステリ〈ブラウン神父シリーズ〉でおなじみのチェスタトンです。彼の〈奇妙な味〉が楽しめるんですよ。ああ歓喜!
表題作「夜の夢見の川」も当然の面白さですし、怪奇小説の巨匠・エイクマンの「剣」、なんとも言えない後味を残すシオドア・スタージョンの「心臓」とか、前作同様に豪華すぎる作品集なんですわあ(ノ∀`*)
さあ、奇妙な味を堪能しよう!
最初にも述べましたが、『夜の夢見の川』は奇妙な味を集めた『街角の書店 (18の奇妙な物語)』の第二弾的な作品集です。
しかも収録されている十二編は、初訳作品が五編、雑誌などに一度載っただけの作品が五編、現在では入手しにくい作品が二編、で構成されているといいます。
うわー!サイッコウですね!これを読めるなんて本当にありがたいことです。
さらに編者の中村融さんは、
読み応えのある中編を要所に配し、比較的に新しい作品を交ぜ、グラデーションのような配列を排し、「理屈では割り切れない余韻を残す」作品を前作以上に重視した、
と、あとがきで述べています。
特に「いろいろな解釈ができ、真相がはっきりしないモヤモヤが残る作品」を多めにしたのだとか。
んもう、どこまで素晴らしいんですか!
みなさま、モヤモヤしましょう。存分にモヤモヤを味わいましょう。
ストン!と綺麗なオチがある作品も良いですが、「結局どうなったんだろう!?」と想像を掻き立てられるモヤモヤ作品も楽しさ極まりないんです。
そんな奇妙な味のお話が十二編。この機会に読むしかないのでは?(*´∀`)
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