『米澤穂信と古典部』という古典部ファンなら絶対買ってしまう書物が発売されたのですが、これはどう読んでも、古典部ファンだけでなく、
「ミステリ小説が好きな全ての人」に読まれるべき素晴らしいものだったので、内容をちょっとご紹介させてください。
まだ古典部シリーズを読んだことがない、という方も、これを読めば一作目から一気読みしたくなります。
もうすでに好きな人は、もう一度一作目から読み直して、アニメ版ももう一周してしまうでしょう(私のことです)。
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見所1.北村薫さんとの対談
「日常の謎」といえば真っ先に思い浮かぶのが北村薫さんの〈円紫さんと私シリーズ〉。
米澤穂信さんの『氷菓』もいまや日常の謎を代表する人気シリーズなわけで、その二人が「日常の謎」についてとことん語ってくれています。
私がミステリを読むようになった頃にはもう「日常の謎」は所与のものとしてありました。いろいろ読み進めていくなかで、北村先生の『六の宮の姫君』を拝読して驚いたんです。
芥川龍之介の短篇をめぐる話ですが、そうしたものに対してこんなに真摯にミステリとしてのアプローチができるんだと思いまして。私自身が「日常の謎」を描くようになった一番のきっかけとなった作品です。
P.34より
〈覆面作家シリーズ〉では主人公の一人称代名詞が一度も出てこないことを米沢さんが絶賛して、北村薫さんが「気づいてくれてありがとう」なんてやりとりも。
この対談で米澤さんは、日常の謎の一番の見せ所は「謎に気づくところ」だと述べています。こんなところから謎を見つけてくるのか!、そこを不思議に思うのか!、という他のミステリにはない快感がある、と。
そう。そうなんです。この快感は、『氷菓』などの日常の謎を読んでいていつも思います。
他の人だったらスルーしてしまいそうなところに謎を見出し、あえて首を突っ込んで解決していくのが良いんですよね。
見所2.恩田陸さんとの対談
恩田さんとの対談では、「こんなミステリを書きたい!」をテーマに対談していました。
いま米澤さんはクイーンの『九尾の猫(ハヤカワ・ミステリ文庫)』のようなミッシングリンクものでやろうとしているらしいのですが、なかなか終わらないという。
それに対し恩田さんもミッシングリンクやりたいねえ!と。でもミッシングリンクものってかなり難しいそうで。
で、最近ミッシングリンクで成功した作品を聞かれて、麻耶雄嵩さんの『まほろ市の殺人 秋―闇雲A子と憂鬱刑事 (祥伝社文庫)』を答えていましたね。
あとは恩田さんが、最初はミステリとしてはなるべく殺さない方向に考えていたけど、『ユージニア (角川文庫)』でいっぱい殺しちゃったからもう平気になっちゃったとか、『インシテミル (文春文庫)』が実はキングの『死のロングウォーク (扶桑社ミステリー)』をやりたかったとか、まだやっていない「密室殺人について」とか、とにかくニヤニヤしてしまう小話がたくさん。
見所3.米澤穂信に30の質問(読者編)
古典部シリーズのなかで一番お気に入りの謎はなんですか?
古典部シリーズのなかで誰が一番タイプですか?
シリーズの青春を描くとき、自身の体験が反映されていますか?
小説を選考するときどのような点を重視していますか?
折木奉太郎の名前の由来は?
奉太郎はえるのことが好きですか?
千反田さんは家族のことをどう呼んでいますか?
日常の謎はどのようにして思いつきますか?
小説を書く上でどれくらいリアリティを意識していますか?
などなど、真面目なものやマニアックなものまで幅広い質問に米澤さんが答えます。
これも内容が濃くてとっても面白かった!終始ニヤニヤ。
見所4.古典部メンバー4人の本棚
これも最高でしたね。
折木、千反田、福部、伊原、の古典部メンバー4人の本棚の一部(30冊)を米澤さんが考えて紹介してくれています。
非常に「らしい」本棚になっています。ああ、確かに千反田さんならこの本読んでそうだなあ、とか、折木の本棚に意外な本があったりとか、とにかく眺めているだけで楽しい。
見所5.綾辻行人さんとの対談
本格的にミステリを読み始めたのは大学以降なんですが、綾辻先生の作品だけは中学生の頃から読んでいました。ミステリという意識もなく、面白そうに見えた『十角館の殺人』を買って「カー」や「エラリイ」の名前を初めて見たんです。
P.109より
こんな二人の対談、面白いに決まっているでしょ!
「ミステリへの想い」から「それぞれの好きな作品」を語ったりしてますし。
綾辻さんは、米澤さんの作品では『儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)』が一番好きとのこと。米澤さんは綾辻さんの『時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)』に思い入れがあるとか。
余すことなく面白いこの対談ですが、特に「読者をその気にさせる技術」の話はミステリー好きなら必見かと思います。
もう誰が犯人でも驚かなくなってしまった今、いかにして意外性を演出させるのか。
深い。そしてさらにミステリを好きになる。
見所6.大崎梢さんとの対談
米澤さんと同じく、『配達赤ずきん』という「日常の謎」でデビューされた大崎さんと対談。
最新作『いまさら翼といわれても』についてアレやコレしています。楽しい。
見所7.米澤穂信に30の質問(作家、声優、漫画家編)
これも最高でしたね。
質問者は、
道尾秀介さん
辻村深月さん
谷川流さん(『涼宮ハルヒの憂鬱』でおなじみ)
賀東招二さん(アニメ氷菓のシリーズ構成担当、ハルヒの脚本など)
声優・佐藤聡美さん(氷菓・千反田える、けいおん!田井中律などの声を担当)
漫画家・タスクオーナさん(氷菓のコミック版を連載中)
という豪華っぷり。
ドラえもんの道具で欲しいものを二つ教えてください、
自分の文体はこの方に影響されているなあ、という作家さんを教えてください、
心から笑うことのできた特に愉快な小説を教えてください、
故人となったミステリ作家を一人蘇らせて、一冊書いてもらえるとしたら誰の魂を召還しますか、
最後の一撃を効果的に働かせるために必要なものはなんだと感じておられますか、
米澤さんにとって、千反田えるという女の子はどんな存在ですか、
など面白い質問がたくさん。
特に道尾秀介さんの質問が面白くて笑いっぱなしでした( ´∀`)
ミステリを愛する全ての人へ。

他にも古典部シリーズの隠れネタや、細かな設定、執筆資料など、古典部ファンなら絶対テンションが上がってしまうものばかり。
本当に見所しかない内容でしたが、特に講演録「物語のみなもと」が絶品でした。
米澤さんが行った講演を文章にしたものなのですが、16ページほどに渡って「物語とはどういうものか」「どうして人は物語を必要とするのか」が綴られています。
古典部ファンとか関係なしに、「物語を読むことが好きな人」にはぜひ読んでみてほしい。物語を作ることが好きな人、作家を目指している人は特に必見かも。
この講演録を読むだけでも買う価値がある、と言えるほどに素晴らしいものでした。
正直、書き下ろしの短編『虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人』が目当てで購入したんですけど、その他の対談や小ネタが面白すぎて興奮しています。
すごい一冊ですよこれ。
確かに古典部ファンのための一冊であることは間違いないのですが、これが古典部ファンにしか読まれないなんて非常にもったいない。
古典部ファンに限らず、ミステリを愛する人すべてに読んでほしい書物です。
というわけで、私はこれから古典部シリーズをもう一周してきまーす!(゚∀゚*)

買おうと思ってたら学校の図書館にあったので読みました。面白かったですね。中でも短編の折木の読書感想文みんなで読むのがおもしろかったです。思わずにやにや。
そうそう、私も脳内で映像化しながらニヤニヤしてました。やっぱり古典部メンバーのやりとりは良いですよねえ。
というか、学校の図書館に『米澤穂信と古典部』があるとか、どんだけ素晴らしい学校なんですかそれ。羨ましすぎるんですけどー(ノω`*)