『こうなったらあとは運任せや。いや……ヒキタの怨霊の気分次第や。せやろ』
(P.14)
この作品は今まで読んだミステリともホラーとも全く違う新しいジャンルを見せてくれます。
それでいて、ミステリとしても、ホラーとしても、申し分ないクオリティに!
そんな夢のような作品が『予言の島』です。
予言が残された島で予言どおりに人が死んでいく——王道の展開です。
王道の展開なのに、私は最後まで騙されていたことに気がつくことが出来ませんでした。
ミステリをホラーに変える謎が最初から最後まで散りばめられています。
ページ数は300と少し。面白さに熱中してしまうので、その長さを感じさせない長編になっています。
澤村伊智『予言の島』
一世を風靡した宇津木幽子という霊能力者が予言を残し倒れた島——霧久井島。
彼女の死から20年経った年に、霧久井島で『霊魂六つが冥府へと堕つる』と言われていた。
瀬戸内海にあるその島に慰安旅行で訪れた涼と宗作、春夫の三人。
三人とも幼い頃、宇津木幽子に熱中していた。その思い出をなぞるように島を訪れた三人は、不思議な風習が残る島を旅することになる。
しかし島へたどり着くと、予約していた旅館に泊まることができないという。
どうにか宿泊施設を確保した先で出会ったのは奇妙な人たちだった。
怨霊に怯える島民たちを不思議がる淳たちを不幸が襲う。
これが予言の始まりだった。怨霊の正体を探るうちに淳たちは島に隠された秘密に迫ることになる。
霧久井島で起きる連続死は殺人か、それとも呪いか。
最後まで一瞬たちとも目を話すことができないミステリ!
どんな小さな情報も見逃すことはできないストーリー展開が見事!
『怨霊が下りてくる。早く逃げないと死ぬ』
(P.196)
——初読はミステリ、二度目はホラー。
読み終えて、帯の言葉が目に飛び込んできました。
まさしくその通り!最初から最後まで、読者を飽きさせることのない展開が続きます。
最後まで読者を騙し続ける筆力に脱帽としか言えません。
ミステリとして読んでも面白いし、ホラーとして読んでもジワジワと迫るものがあるお話です。
何よりこの小説が恐ろしいのは、すべての題材がとても身近だというところ!
アラサー以上ならば、聞いたことのある名前や現象に懐かしく思うことでしょう。
懐かしさを感じさせつつ、登場人物や社会背景には現在の問題を色濃く映し出しています。
特に共感できるのはパワハラでうつ状態に陥ってしまった宗作です。
残業、ブラック企業、働き方改革などなど、働き方に注目が集まっています。
まさにその最中に置かれた人間がどうなってしまうか、殺人事件という特異的な状況を通して、さらに印象的に私達に教えてくれます。
フィクションだとわかっていても「もしかしたら」を考えずにはいられないストーリー展開でした。
最後まで展開を予測させない面白さに満ち溢れています。
怨霊の正体、予言の真実、社会に隠された闇と物事を表面だけで見る愚かさを教えてくれます。
見えるものと隠されたもの、その両方を知ることで初めて現実が理解できるんだなと教えてくれるような作品です。
ワクワクするミステリの謎が、現実の恐ろしさへと変換し、さらにホラーへと変貌を遂げていきます。
そんな体験ができるのは、この一冊だけでしょう!
人間についても深く考えさせられるお話でした。
ミステリ好きもホラー好きにも呼んでもらいたい作品
「ミステリがホラーになる? どういうこと?」
私が最初にこの本を手にとった時の感想です。
ミステリとホラーは殺人や呪いなど、似た雰囲気の単語が数多く使われる隣接ジャンル。
その割にストーリー展開から受ける印象は百八十度違います。そこが面白いところですよね!
ミステリはとにかく理詰めでなければなりません。読者が納得できるように状況を説明できなければな話が成り立たないですから。
それに対して、ホラーはとにかく怖ければいいわけです。人間不思議なもので、完全に訳が分からないものより、ちょっとだけ理解できるくらいが一番恐怖を感じます。
無差別だと怖がりようがないですが、ある一定の条件——「何かを触った・見た」ということで、恐怖が煽られるわけです。
この少しだけ理解できるというのが重要です。全部完全に理解できてしまうと、ホラーは全く怖くなくなってしまいます。
『予言の島』はそんな正反対の性質を持ったジャンルを上手く融合させた作品になります。
全部わかってしまったからこそ、さらに怖い。そんな気分になる小説でした。
初見では気づかないような小さなことから、全ては仕組まれているんです。
それに気づいた瞬間にミステリとしての面白さから、ホラーとしての面白さへと印象が変化することでしょう!
最後まで読んだら、あなたは絶対にもう一度読み返したくなるーー。
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