青木知己『Y駅発深夜バス』は絶対にもっと読まれるべき傑作ミステリ短編集なのです

今日わたしがイチオシしたい作品がこれ。

青木知己さんの『Y駅発深夜バス』です。

2017年はこのミステリーがすごい面白かった!私のベスト20』では5位にランクインさせてます。

なんで本家の「このミス」トップ10に入っていなかったのか今でも謎です。

5編が収められた短編集なのですが、そのどれもがクオリティが高く、それぞれミステリとして一級品なのだからおすすめしないわけにはいかないでしょう。

 

目次

『Y駅発深夜バス』

 

「帰りが遅くなってきたら、これで帰ってきたら?」

終電に乗れなかった坂本は、妻に教えてもらった深夜バスを利用することにした。

午前1時10分発のバスになら乗れそうだ。

5分ほど過ぎた後にバスはやってきて、坂本を乗せてくれた。

乗ってみて不思議に思った。

今日は日曜日。ほとんど客はいないかと思ったが、車内は50%ほどの乗車率だった。照明は絞られ、ひっそりしている。乗客は目を閉じて眠っているように見えた。

 

目がさめると、バスはパーキングエリアに停車していた。

休憩だと判断した坂本はトイレに立つが、そこで奇妙な体験をする。

トイレ以外の照明が全て消えていたのだ。売店はわかるにしろ、休憩所の明かりも全部消えていることなんであるのだろうか。

不思議に思い、真っ暗な休憩所に足を踏み入れた坂本は驚きの光景を目にする。

暗闇の中。窓際の席に数十人もの人間がひしめいていた。座っているのは最前列の数人だけで、残りに人間はその後ろに寄り添うように立っている。

何より異様なのは、だれもが坂本に背を向け、窓の外を凝視していることだ。一人として坂本を振り返るものはない。なにかにとりつかれたかのように、全員が窓の外に視線を投げかけている。

P.16より

完全にホラー。

しかも無事に家に帰ってきた坂本に、さらに追い討ちをかける事実が判明する。

そもそも、日曜日にはそんなバスは走っていなかったのだった。


表題作、流石の面白さです。

パッとあらすじを読んだだけでは完全にホラー小説。

でもこれをしっかりとミステリ短編にしてみせる青木さんの巧さよ。

そして後味の悪さ。わたし的には大好物なオチですが……。

『九人病』

旅行雑誌の編集をしている和久井は、秘湯を探るという企画で取材にやってきた。

なにを記事にしようか迷っていたところ、相部屋の男から奇妙な体験談を聴かされることになった。

それは〈九人病〉と呼ばれる感染症の話。

〈九人病〉に感染してしまうと、全身がぬらぬらしてきてなめこのような粘液で身体が覆われ、四、五日たつと、腕や足が抜け落ち消しまう、という内容だった。

一度発生すると、決まって九人の人間に感染することから〈九人病〉と名がつけられたらしい。

なんとも信じがたい体験談であるはが、男の話には妙に説得力があり……。


完全にわたしのどストライクな短編。

この雰囲気、この世界観。ホラーじみたタイプの物語が好きで仕方ありません。

今邑彩さんの『よもつひらさか』や米澤穂信さんの『満願』に収められている『万灯』や『関守』のゾクゾク感、ショートショートなら阿刀田さんが書きそうなタイプのオチ。最高。

『Y駅発深夜バス』に収められている中で一番好きな短編です。

これほど粒ぞろいの短編集には滅多に出会えない

この2編のほか、

隣人の不可解な行動がまさかの展開を迎える『猫矢来』

読者への挑戦状がついた本格犯人当て『ミッシング・リンク』

電車を使ったアリバイトリックを利用し、一人の女性を殺害しようと試みる倒叙もの『特急富士』

など、本当に良質な短編ばかりが収められています。

ホラーであったり、青春ものでもあったり、読者への挑戦があれば、ユーモアな倒叙ものもある。

バラエティに富んだ贅沢な一冊。読まなきゃ損です。

 

にしても、今作を見る限り、青木さんは『Y駅発深夜バス』や『九人病』などのホラーな雰囲気を漂わせるミステリがお得意なのではないかと思いました。

わたしの好みの問題もあるでしょうが、ホラーを取り入れることで一段と物語に魅力が感じられるようになります。

これからもどんどんホラーでミステリな作品を出してくれたらなあ、と思う今日この頃でした。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • こんにちは。
    書き込みは初めてですが、いつも本選びの参考にさせて頂いています。
    これ、かなりの傑作ですよね。ミステリランキングでの取り上げられ方も地味でしたし、アマゾンでのレビュー等も少ないのですが…。
    オーソドックスでミステリの核たる部分では骨太なんですが、決して堅苦しくはない。このバランス感覚が絶妙ですよね。
    私の読書量は大層なものではありませんが、昨年の短編ミステリではこれがダントツのベストでした!

    • tamaさんこんばんは!
      いつも見ていただけているとのことで大変嬉しいです!ありがとうございます。
      そうそう、そうなんですよ。これ大傑作なんですよ。
      なんでこんなに話題にならないのか不思議でしょうがないんです。
      おっしゃる通りミステリとしての質の高さ、ストーリーの巧みさ、後味の苦さ、どれをとってもツボです。
      私も昨年の短編ミステリ(連作以外)の中でしたら一位です。共感していただけて嬉しいです!(*´∀`*)

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