とある私立高校に、白石要という転校生がやってきた。
クラスの委員長である原野澪は彼に学校を案内するものの、彼のおかしな距離の詰め方に驚愕してしまう。
『今日、家に行ってもいい?』といきなり言われたのだ。
その場は何とかやり過ごすものの、その後も異様な執着を見せる要に澪は恐怖する。
澪は自身の陸上の先輩でひそかに憧れている神原一太に相談をし、いったんは解決したかに見えたが……。
人間関係の闇が生み出すじっとりとした恐怖が、澪を、そして読者を逃げ場のない恐怖の中へと追い込んでいく!
学校、ママ友、会社の同僚……最悪の恐怖が、一見ごく普通の人間によって作り出されたものだったとしたら?
誰もが遭遇しうる恐怖に焦点を当てた、“お化けも幽霊も登場しない”本格ホラー・ミステリーをお楽しみください。
じわじわ追いつめられるタイプの恐怖が楽しめる
この本にはお化けや妖怪・幽霊といった怪異は出てきません。
そのかわりに作者が本作でテーマとしたのは、学校の生徒や団地の住人・会社の同僚といったごく一般的に生活をする普通の人たち。
皆さんは「クラスメイトに親切にしたら好かれてしまった/ママ友や会社の同僚の距離が近い」と思ったこと、またはそんな相談を聞いたことはありませんか?
本作では、そんな人間関係のちょっとした“闇”がどんどん大きくなって逃げられなくなっていく恐怖を大いに表現しています。
相手は少しずつ少しずつ“闇”を駆使して追いつめてくるので、気がついた頃には脱出不可能になってしまうのです。
怪談のような不可思議な恐ろしさは無いけれど、日常の延長のその先に本当にありそうなリアリティが、さらに読者の恐怖を駆り立てます。
数年前から根強い人気を持つ「イヤミス(読んだ後嫌な気持ちになるミステリー)」にも通ずるような、ねっとりじっとりした恐怖感がこの本の見どころと言えるでしょう。
「やっぱり幽霊より人間の方が怖いよね」と感じる人にぜひおすすめしたい一冊です。
ホラー、ミステリー、ファンタジー…ジャンルで縛れない面白さ
本作のジャンルはホラーだけではなく、“ホラー・ミステリー”という通りミステリーの要素もふんだんに含んでいます。
つまり、単なる恐怖小説ではなく、伏線と謎解きによる爽快感も味わえるのが本作のおすすめしたいポイントの一つと言えるのです。
短編集仕立ての本書を読み進める中で、闇を振りまき周囲を混乱に陥れる元凶の人物に着目し、“彼らはなぜそのような行動を取ってしまうのか?何が彼らをそうさせるのか?”といった点に迫っていきます。
さらに後半になるにつれて色濃く出てくるのが“ダーク・ファンタジー”の風合い。
闇を振りまく側の人々に対して闇を“祓う”側の人物が活躍を見せ始めます。
しかし本当に恐ろしいのは、現実には“闇”を排除してくれる都合の良い存在はいない、ということ。
誰もが周囲の人々の心の闇に内心怯えつつ、折り合いをつけて暮らしていると言えます。
本作を“ファンタジーだから”とエンタメとして消費するか、自分の身の回りの闇の延長として捉え大いに恐怖するか。
それは読者自身に委ねられています。
ミステリーの名手によるホラーが満を持して登場!
ここまで、辻村深月さんのホラー・ミステリー小説『闇祓』のあらすじや見どころについてご紹介してきました。
著者の辻村深月さんは1980年生まれで、幼い頃からの大の読書好き。
新本格ミステリーのけん引役となった綾辻行人さんの作品『十角館の殺人』に衝撃を受け、大きな影響を受けているとされています。
2004年には『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。
メフィスト賞への応募を選んだのも『十角館の殺人』と同じレーベルから出版したいという思いがあってのことでした。
その後も毎年のように文学賞受賞作・候補作を生み出す等、その実力は折り紙付きです。
そんな本格ミステリーの名手がついに長編本格ホラー・ミステリーを執筆!
実は辻村深月さんは小学生の頃からホラーにも傾倒していたという経歴があることから、今回の『闇祓』の執筆も当然の流れと言えるかもしれません。
内容は、ホラーとしてもミステリーとしても申し分のない読み応え。
誰もが一度は感じたことのある人間関係の闇をこれでもかと増幅させ、一級品のホラーに仕上げています。
辻村深月さん特有の、人間の内面や関係性を綿密に繊細に描き出す作風が好きな方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
また、この作品で初めて辻村深月さんを知った方は、『スロウハイツの神様』や『かがみの孤城』などの代表作も読んでみるのがおすすめ!
辻村ワールドにはまること間違いなしです。
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