あの怪人二十面相と少年探偵団が、脚本の巨匠・辻真先の手で戻ってきた!
舞台は終戦直後、焼け野原の広がる東京。
買い出し中の小林少年は、輪タク内での密室殺人に遭遇した。
被害者は、闇市でブローカーをしている伊崎。
しかし小林少年は、その死体が替え玉であり、逃亡した運転手こそが伊崎本人であることを見抜く。
そしてその数日後、財閥の四谷の邸宅に出入りする伊崎を目撃。
しかもそこには、なんと怪人二十面相からの予告状が届いていた。
伊崎の正体は?
四谷との関係は?
そして怪人二十面相の目的とは?
小林少年は単身、事件の調査と解決に挑む―!
空襲で半壊した明智探偵事務所
『焼跡の二十面相』は、かの江戸川乱歩の少年探偵団シリーズをオマージュした小説です。
著者は辻真先さん。
アニメや特撮の脚本家であり、推理小説家としても著名な方です。
『名探偵コナン』や『ルパン三世』の脚本も担当されました。
この辻真先さんが、江戸川乱歩の少年探偵団を執筆されるとは!
これだけでもう、乱歩ファンも、コナンファンも、ルパンファンも胸が高鳴り、読んでみたい気持ちを抑えられないのではないでしょうか。
もちろん中身も、期待を裏切ることなく抜群に面白い!
まず設定ですが、戦後間もない東京で、明智探偵事務所に小林少年が一人でいる状態です。
明智小五郎は不在。戦時中に召集されて、まだ戦地から戻ってきていないのです。
少年探偵団の他の団員はというと、疎開などで散り散りになったまま。
そのような中、小林少年は疎開もせず、たった一人で事務所を守っていました。
空襲で半壊した書斎や座敷で、芋の茎を食べて飢えをしのぎながら、明智小五郎の帰りを待っているのです。
なんと健気な小林少年!
その痛ましい頑張りに、ファンはズキューンと胸を撃たれることでしょう。
そして明智小五郎が戦地に赴いているという設定も、これまたエキセントリックで、興味をそそられます!
小林少年と〇〇〇が夢の共演!
明智小五郎が不在なので、小林少年は冒頭から孤立奮闘します。
密室殺人事件や、怪人二十面相からの予告状に、たった一人で立ち向かうのです。
中村警部の協力もありますし、明石と名乗る子爵の協力も得られるのですが、基本的には小林少年の頑張りが描かれます。
そう、『焼跡の二十面相』は小林少年を主人公とした物語なのです。
本家の少年探偵団シリーズでも主人公でしたが、どちらかというと明智小五郎の弟子という立ち位置でした。
おいしいところは、真打登場とばかりに明智小五郎が持って行くパターンです。
ところが『焼跡の二十面相』では、小林少年が終始大活躍します。
風船爆弾のトリックを見破ったり、宝の隠し場所を記した暗号を解いたり。
その強さ、凛々しさ、賢さには、テンションが上がりますよ。古くからのファンでしたら「立派になったなぁ」と、しみじみすることでしょう。
さらに面白いことに、本書では小林少年と二十面相が一時休戦し、手を組むことになります。
それほど真の敵は、強大で手ごわいのです。
しかもそこに、かのフランスの大怪盗も参戦するというビックリ展開!
その後、満を持して明智小五郎が帰還します。
立派に成長した小林少年が、敬愛してやまない名探偵と、稀代の怪盗たちと、夢の共演をするわけですよ。
これだけのメンバーが集まれば、片付かない事件などないでしょう。
物語は最高の盛り上がりを見せ、華やかなフィナーレへと向かいます。
いやもう、たたみかけるような騙し合いや急展開が続き、最後まで目が離せません。
この息もつかせぬ痛快な流れは、さすが脚本の巨匠、拍手喝采です!
読者をニヤリとさせる要素がたっぷり
辻真先さんの『焼跡の二十面相』はオマージュ作品であり、本家はもちろん、江戸川乱歩の少年探偵シリーズです。
そちらでは実は、二十面相は戦時中から戦後しばらくの間、活動していませんでした。
辻真先さんは、
「この空白期間にも、二十面相なら何かをしていたはずだ」
と考え、本書を著したそうです。
まさかあの少年探偵団シリーズの新たな物語を、令和の時代になって読めるとは思ってもみませんでした。
オマージュではあるものの、構成や文章のテイストは本家に限りなく似せてあり、「江戸川乱歩の新作」として読んでも違和感はありません。
ただし、辻真先さんらしいエンターテイメント性は、かなり出ています。
『大金塊』や『黄金仮面』など本家のネタが盛り込んであり、読者を随所でニヤリとさせてくれます。
また終盤には、なんとマッカーサー元帥が登場し、実はある人物の変装なのですが、その展開にも読者は度肝を抜かれることでしょう。
このように『焼跡の二十面相』は、辻真先さんならではの遊び心が満載の作品です。
あちこちに「読者を騙そう、ビックリさせよう」という罠が仕掛けられているため、読み手は騙されながらも、それがむしろ快感で、最後まで一気読みしてしまいます。
本家の少年探偵団ファンの方はもちろん、辻真先さんのファンの方にも、新規の読者にも、文句なしにおすすめの一冊です。
約260ページと比較的短めですので、小品を気軽に楽しみたい時、数時間でサクッと読み終えたい時などに、ぜひ!
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