1987年のアイスランド西部、フィヨルドを旅行するカップルのうち、女性が別荘で死亡していた。
レイキャヴィーク警察のリーズルは、彼女が持っていたセーターから父親の犯行とみなし、強制的に逮捕した。
10年後、亡くなった女性と親しかった4人が、彼女を偲ぶために無人島エトリザエイに向かった。
ところが2日後、その中の1人、クラーラが崖から転落死しているところが発見された。
女性警部フルダは現地に向かって捜査をするが、これが事故による転落死ではなく、他殺だということが判明。
誰が何のために犯したのか、そして10年前の事件との関連は?
前作に増して深い闇で読者を飲み込む、シリーズ第二弾!
読めば読むほど闇が深まる
これほど重く、寒く、寂しい北欧ミステリーが、他にあるだろうか?
『喪われた少女』は、そのくらい闇の深い物語です。
舞台は、前作『闇という名の娘』の15年前で、フルダは現役バリバリの49歳です。
とても優秀であるにもかかわらず、やはり「ガラスの天井」で不当な扱いを受けています。
そしてフィヨルドで最初に起こる事件では、無能な警察が、被害者の父親を強制的に逮捕します。
その父親は、判決を待たずに獄中で自殺。
さらに10年後、被害者の友人が孤島の断崖絶壁で、謎の転落死。
周囲の人々は、それぞれに嘘や秘密を抱えており、真相が隠されたまま、負の連鎖が進んでいく……。
このように『喪われた少女』は、ページをめくるたびに闇が広がり、どこまで行っても救いがなく、読めば読むほど陰鬱とした気分になっていきます。
でも、それこそが北欧ミステリーの醍醐味!
前作の暗さや重さに魅了された方は、今作ではさらに没頭し、どっぷりと浸かって読んでしまうこと間違いなしです。
見どころとしては、やはり真面目で仕事熱心で不器用なフルダの生き方でしょうか。
社会が男性優位であるがゆえに、フルダは有能でありながらも日の目を見ることができず、それでも努力を続けます。
同僚からの協力も思うように得ることができず、孤独に捜査を続け、苦渋をさんざん味わいながら真相を掴んでいくのです。
その悲痛な姿に読者は心から同情し、応援したくなります。
ミステリーとしては比較的シンプルで、難しい謎解きもなく、読みやすいです。
その分、ダークな雰囲気を存分に楽しめます。
フルダの出生の秘密が明かされる
『喪われた少女』では、中盤でフルダが父親探しの旅に出ます。
実はフルダは、アイスランド人の母親とアメリカ人の父親との間に生まれたハーフです。
かつて米軍がアイスランドに駐屯していた時に、兵士だった父親がアイスランド人の母親と関係し、フルダが生まれたのです。
その後米軍は引き上げ、父親もアイスランドを去り、フルダは父の顔を知らないまま母子家庭で育ちました。
そして母も亡くなり、孤独になったフルダは父親に会いたくなり、はるばるアメリカまで行くわけです。
手掛かりは名前と出身地のみ。それでもフルダは諦めずに、父親を捜し歩きます。
このエピソードからは、フルダの寂しさがひしひしと伝わってきます。
フルダは仕事熱心で、事件の関係者にとても親身になるのですが、それはこの寂しさゆえなのでしょう。
孤独の切なさ、やるせなさを知っているフルダだからこそ、辛い思いを抱えている人々に対して、つい一生懸命になってしまうのです。
同僚の助けも得られず、たった一人で懸命に捜査する彼女の姿は、一種の悲劇です。
そしてエピローグでは、さらに酷な真実が暴露されることになります。
本当に『喪われた少女』は、最後の最後まで闇がまとわりつく物語です。
もちろん、そこが魅力なのですが。
一作目と二作目、読む順番は?
ラグナル・ヨナソン氏の『喪われた少女』は、「フルダ・シリーズ」の二作目にあたります。
一作目の『闇という名の娘』の15年前という設定ですから、時代の流れ的に、「先に二作目を読んだ方が良いのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
ですが個人的には、一作目から読むことをおすすめします。
というのも、一作目にはフルダの「人生の結果」が描かれているからです。
フルダは今回大活躍しますが、それにより出世できるかどうかは、一作目を読んだ方であればご存じのはず。
そしてその「結果」を知っていれば、今回のフルダの努力や苦労に、より心が揺さぶられると思うのです。
つまり一作目を先に読んでおけば、二作目『喪われた少女』を、より深く味わえるということです。
父親探しの旅も同様で、一作目にフルダが父親について少し触れている部分があるのですが、それを先に読んでおけば、旅のシーンが胸にさらに染み入ること間違いなし。
このように『喪われた少女』には、終点を知っているからこそ堪能できる部分が多いです。
二作目から読んでも物語の理解はできるようになっていますが、せっかくですから作者の意図通りの順番で読んで、大いに感動しましょう!
また今作には、アイスランドのエトリザエイ島という孤島が出てくるのですが、これは実在する島であり、Googleマップで写真やストリートビューを見ることができます。
『喪われた少女』を読む際には、まずは検索してみてください。四方を海に囲まれた閉塞感や、垂直に切り落としたような断崖の恐ろしさが、リアルに伝わってくると思います。
絵的なスリルが物語をさらに面白く読ませてくれますので、ぜひお試しを!
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