若年性アルツハイマーの妻を支える私立探偵チャーリーと、遺伝子操作による高い知能と身体能力を持つアシスタントのワイリック。
今回二人のもとに来た依頼は「消えてしまった12歳の娘ジョーダンを捜してほしい」というもの。
どうやらジョーダンには人の心を読み取る能力があり、実の父親によって「聖域」に連れ去られたらしい。
しかも聖域ではジョーダン以外の少女も次々に姿を消しており、FBIも監視しているところだった。
少女を拉致する目的は何なのか、聖域とはどういう場所なのか。
チャーリーはFBIと協力体制に入り、調査を進めることにするが、ワイリックは特殊能力を持つ少女たちに己の過去を重ね、複雑な心境になり――。
孤高の私立探偵チャーリーと、異能の助手ワイリックのロマンティック・サスペンスシリーズ第二弾!
サイキックでショッキングな展開
やってきました、「チャーリー&ワイリック」シリーズ第二弾!
前作は探偵モノとしての色合いが強く、富豪の失踪事件などが取り扱われていましたが、今作はサイキック&サスペンス的な展開が多く、前作とは異なるスリルを楽しめます。
なんせ拉致された少女が人の心を読むという超能力を持っていますし、他の少女たちもやはりそれぞれに特殊能力を持っているのです。
前作では異能を持つのはワイリックだけでしたが、それがもっと増えた感じですね。
しかも少女たちを拉致した組織は、「妊娠させて、新たな超能力者を出産させること」が目的だったりします。
サイキック展開に加え、倫理的にもショッキングな流れになっていき、読んでいてドキドキが止まらなくなります。
もちろんワイリックの特殊能力もすさまじく、今作では前作を上回る超人類っぷり。
自分がかつていた組織の機器を片っ端から停止させたり、銀行口座を凍結させたり、果ては透明のドローンを発明したりと、神業レベルのことを次々にやってのけます。
ワイリックいわく、今までは「できることの半分もやらなかった」らしいので、つまり今作では出し惜しみのない彼女の真のパワーを見せてもらえるわけです。
さらに新たな能力(予知能力的なもの)も発現するので、もう本当にカッコ良すぎて惚れてしまいそう!
ちょっと超人すぎるかなと思わなくもないのですが、だからこそ彼女が恋においては不器用で、チャーリーとじれったい関係のままでいることが、逆に可愛くて魅力的に映ったりします。
このようにシリーズ第二弾『翼をなくした日から』は、物語の盛り上がり的にも、ロマンスのもどかしさ的にも、前作以上の作品となっています。
前作がお好きな方なら、今作はよりテンション上げ上げで読めること間違いなし!
カッコ良すぎる主人公たちと、もう一人
ワイリックの魅力ばかり語ってしまいましたが、もう一人の主人公チャーリーももちろん素敵です。
チャーリーはとにかく愛妻家で、日に日に自分のことを忘れていく妻を献身的に支えています。
妻はチャーリーのことどころか、痛みや空腹といった当たり前の感覚さえも失い、もはや人間らしい反応を見せなくなったのに、それでもなおチャーリーは精一杯の愛情といたわりとをもって接しているのです。
妻に何かあるとすぐに駆け付けて、心の底から心配しつつ、この上なく優しい声をかけ続けるチャーリー。
その愛の深さは、感動的でありながらも痛々しく、見ていて悲しくなるくらい。
こんなチャーリーだから、複雑な境遇にあるワイリックや、拉致された少女たちにも温かく誠実に接します。
特に胸を打つのが、「君たちは被害者ではなくサバイバーだ」というセリフ。
サバイバーとは「生き残った人」という意味の言葉で、転じて「逆境に負けず強く生きている人」という意味も持ちます。
遺伝子操作の実験体にされたワイリックも、超能力者を出産する道具にされた少女たちも、普通に考えれば被害者または犠牲者的な立場ですが、チャーリーはあえて「サバイバー」と言うのです。
その言葉に、苦しみの渦中にあった彼女たちはどれほど勇気づけられたか。
もちろんチャーリーは探偵としても非常に優秀で、腕前はFBIの折り紙付きであり、その点でもめちゃめちゃ頼りになってカッコいいです。
ということで『翼をなくした日から』は、主人公二人がとにかく素敵で、読みながら何度も痺れさせてくれる物語です。
また個人的には、12歳のジョーダンもお気に入り。
やけに勇ましい少女で、敵にも憤然と立ち向かっていく様子がカッコいいですし、それでいて気の強さの裏側には「心細さを表に出すまい」という気丈さが見え隠れしているので、そこがもう可愛くていじらしくて。
これから『翼をなくした日から』を読む方は、ぜひジョーダンの活躍にも注目してみてくださいね。
もしかしたら、ワイリックやチャーリー以上に痺れさせてくれるかも?
ミステリーに秘められた絶妙なロマンス
『翼をなくした日から』は、ロマンス小説で絶大な人気を誇る作家シャラン・サラさんの「チャーリー&ワイリック」シリーズ二作目です。
ジャンルとしてはミステリーであり、サスペンスでサイキックな展開が山盛りなので、ロマンスとは程遠い作品に見えます。
でも読めば読むほど、その根底には溢れんばかりの愛があることがわかってきます。
ラブシーンこそありませんが、心と心の繋がりや、内に秘めた熱い想いがしっかりと描き込まれていて、読了後には愛しさや切なさで胸がいっぱいになるのです。
「いつかきっと愛が成就するはずだ」という期待が、読んでいるうちにどんどん膨らんでいきます。
今作でチャーリーとワイリックの関係はどこまで進展するのか、絆はどのくらい深まるのか、ここでは多くは語りません。
ぜひご自身で読んで、二人の複雑な心境や距離の縮まり方を味わってください。
きっと彼らのことがますます好きになり、今後の展開を知りたくてたまらなくなり、今すぐにでもシリーズの続きを読みたくなることでしょう。
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