ジャック・トレガーデンは旧友の依頼で図書館の蔵書の改訂をすることになります。
数年ぶりに再会した旧友は見違えるようにやつれ果てており、ジャックはその理由を聞き出します。
友人は亡くなった妻が亡霊の影に悩まされていたことを明かします。友人はジャックに、亡霊が示す古文書の解読をするように頼みました。
果たして亡霊の意図は何なのか、本当に亡霊は存在するのか、謎が謎を呼ぶ「図書館の怪」。
亡くなった妻が持っていた詩集を手にすることで奇妙なできごとに巻き込まれていく様子を描く「六月二十四日」、
グリーンマンと呼ばれる奇妙な存在を目撃したことで不思議な世界へ誘われる青年を描く「グリーンマン」、
先祖の土地を奪い返すために成功した男が再び手に入れた土地で起こる不気味な出来事を描く「ゴルゴダの丘」の四篇が収録されています。
『図書室の怪 (四編の奇怪な物語)』
作者のマイケル・ドズワース・クック氏はミステリー作家でも小説家でもなく、ミステリー小説やその作家を対象とした研究者です。
エドガー・アラン・ポーなど有名なミステリー作家の研究に関する書籍は発表していましたが、自身が小説を出版するのは今作が初めてです。
今作はミステリー小説というジャンルではないものの、歴代のミステリー作家たちの影響を大いに受けた作風となっています。
不気味な亡霊や土地の噂、世代を超えて受け継がれる怨念など、ホラーテイストもふんだんに盛り込まれています。
ホラーではありますがどこか気品があり、全体を通してクラシカルで上品な物語ばかりです。
特に表題作「図書室の怪」はまさにポーのような雰囲気たっぷりのゴシック&ミステリで、著者の書物愛が随所から伝わってきます。
ミステリー小説の創成期を駆け抜けた作家を研究しているクック氏ならではの奥ゆかしい物語の雰囲気を楽しむことができるでしょう。
舞台設定やキャラクターの設定も古い作家の影響をかなり受けているので、2020年に出版された小説とは思えないほどのクオリティに仕上がっています。古典的な作品が好きな方にもぜひ読んでみてほしい一冊です。
一方で読みやすく翻訳されているので、古い海外小説は翻訳の文章に抵抗があるという方でも読みやすくなっています。
「図書館の怪」、「六月二十四日」は学者が主人公で、クック氏自身をモデルにしているような雰囲気もあります。
古い書物や建物への愛が感じられ、作者のそれらに対する考えも垣間見える内容になっていました。
歴史的背景の説明や土地の描写なども細かく、当時のイギリスのことを知らなくてもゆっくり理解しながら読み進めることができます。
クック氏は前述の通り古典ミステリーや怪奇小説の研究をしています。
学術書は既に二冊発表していますが、フィクションは今作が初めて。
ですがいきなり日本でも翻訳され、ミステリー小説ファンに注目されています。
古典的な題材を取り入れ、時代や舞台なども当時の雰囲気を大切にした作風が、古典ミステリー、怪奇小説ファンに受け入れられたようです。
フィクション作品は今作のみですが、早くも次回作を望む声も多いです。
エドガー・アラン・ポーなどの世界観に影響を受けた作品はこの世界にたくさんありますが、完全に再現しているようなものは少ないです。
しかし今作に収録されている短篇四篇はいずれもクオリティが高く、実際に当時に書かれたものだと言われたら信じてしまう方も多いでしょう。
本書を翻訳した山田順子氏の力も大きいです。
スティーヴン・キング氏の「スタンド・バイ・ミー」の翻訳も手がけた実力のある翻訳家で、現代風に読みやすく訳してくれています。
古典小説はあまり馴染みがないという方でも気軽に物語に没入できることでしょう。
古典的なホラーやミステリー小説が好きな方にはハマる短篇ばかりです。
不気味な物語が好き、読後にじっくり考察をするのが好きという方も、ぜひチェックしてみてください。
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