壱岐沖に浮かぶ、かつて隠れキリシタンの島民が大量死したという孤島。
そこに見物に出かけた主人公たちが、隠れキリシタンの末裔の富豪が築いたという異形の館を舞台に、異常なロジックと奇矯なトリックが炸裂するミステリー作品となっている、凝った作りの本作。
古典的探偵小説やB級ホラー映画に詳しく、心理学の知識も豊富に物語へと詰め込む独特の作風で知られる作者・倉野憲比古氏が放つ、本格にして変格のミステリーとして話題に。
二重三重に考え抜かれた展開はとても中毒性があるため、謎解きをしながら変格ミステリー小説を読むことができるというのが一つの魅力となっています。
しかし登場人物たちは互いに矛盾や謎を抱えていて、同じ事件から受ける彼らの印象も一致しません。
物語の前半では登場しなかった新たな事実が後半で明らかにされるなど、読み進めていく中で予想の斜め上をいく展開が待ち受けています。
最後まで読んだ時点で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの異端信仰と異常心理学のペダントリーが横溢する物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
読み進めるにつれて変格ミステリーの世界観に呑み込まれていく読者
最初にページを開いた瞬間、登場人物紹介が故人のみという斬新さに驚くことでしょう。
次ページからは基督(キリスト)教・切支丹(キリシタン)用語の覚書が載せられているのですが、日本語訳で地獄・十字架・悪魔・懺悔・洗礼…と、最初から不気味な空気を漂わせており、変格ミステリーにふさわしい入り口から始まる所も、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。
序章に入る前からすでに始まっている事件を予感させるものの物語は読者の想像を裏切る展開が続くため、独特の息苦しさと狂気を堪能しながら夢中で読み進める形になります。
夷戸シリーズ第三弾となっていますが、シリーズ通してのキャラはいるものの前作を読んでいなくともわかるようになっているため、本作から読んでも全く問題なく楽しむことができます。
今作は悪魔的な所業が凄まじく、精神的虐待がもたらす悲劇の連鎖、緊迫感溢れる猟奇的な展開にハラハラドキドキの連続が続くこと間違いなしです。
読み進めるにつれて幻魔怪奇なホラーの雰囲気を強く感じ、繰り広げられる殺戮がいっそう不気味に映るため、凄惨で緊迫感のある描写に惹き込まれていきます。
特に後半の盛り上がりが凄まじく、本格的な変格ミステリーの世界観に呑み込まれていくような面白さを感じられます。
本格的な変格ミステリー小説としての面白さと異形の館ならではの独特の雰囲気
「弔い月の下にて」という本のタイトルにふさわしく、中盤を過ぎても真夜中に達しない、ゆったりとした時間経過の中、隠れキリシタンの末裔の富豪が築いたという異形の館ならではの非日常感を余すことなく使い切りながら悪夢の展開が待ち受けます。
終始狂気に満ち溢れながらも、全編に紫煙燻る愛煙ミステリーとしての側面や、過去と現在をリンクしながら発生する殺人事件は、異形の館にはじまり、異常心理、宗教、孤島、囚われの人々、亡き異形の元館の主人など、本格かつ変格ミステリーらしい設定と題材が目白押しです。
変格ミステリーとしてのツボもしっかりと押さえつつ、主人公が現代的な発想で論理的に事件へと挑んでいくため、詰め込まれた設定も胸焼けせずに読み進められる推理モノとしての面白さは抜群。
最後の40ページほどで一気に畳みかけられる展開はどんな落としどころが待っているのか予想できず、読者は最後までハラハラさせられるというわけです。
事件の裏側に秘された真実と、悪夢の詳細を徐々に解き明かすことにより新たな事実が明らかになり、ジグソーパズルがはまっていくかのように、読み進めるにつれて情報がどんどんアップグレードされていきます。
ページをめくるごとに思わず唸ってしまう展開のため、本格的でありながら独特の雰囲気も味わえる“変格ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
堂々と銘打たれた傑作変格ミステリーを読みたいならコレ!
精神的虐待がもたらす悲劇の連鎖、異形の館ならではのトリックや最後の最後まで目が離せない展開。
小説でしか味わうことができない巧みな仕掛けが散りばめられており、変格ミステリーとしての愉しさがこれでもか!と、容赦なく詰め込まれている本作。
発売されたばかりですが、すでに変格ミステリーの傑作として絶大な評価を得ており、ミステリー好きや推理小説好きはもちろん、クローズドサークルものが好きな方にとってはもはや必読のミステリー小説と言っても過言では無いでしょう。
戦前の国内推理小説を思わせるクラシカルな作風が変格をより際立たせている本作ですが、異常心理学や宗教・怪奇趣味・異端信仰・異常心理学…といったジャンルには興味を持ってこなかった方は読むのに躊躇するかもしれませんが、それはちょっともったいない!
むしろ、この本を読むことによって、変格ミステリーの楽しさに目覚めることができるでしょう。
真相を揺さぶる展開、最後に伏線が鮮やかに回収された際の爽快感、そして謎解き部分は想像を上回る深みがあるため、変格ミステリーやホラー展開に興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“本格ミステリーとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
本格ミステリー好きの方、変格ミステリー小説デビューを果たしたい方、ただただ読み応えのあるミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないハズ!
出版されたばかりのこのタイミングで、ぜひ一読してみてください!(๑>◡<๑)
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