建築家兼探偵の蜘蛛手のもとに、助手の宮村が「鶴扇閣事件」の記録を持ってきた。
連続窃盗犯のオクトパスマンが入手したボイスレコーダーの内容を文書化したものだという。
それによると「鶴扇閣事件」は、過去に南紀の洋館「鶴扇閣」で起こった猟奇的な連続密室殺人事件だった。
大学生が合宿していたところ、嵐で館から出られなくなり、さらに火災が発生したらしい。
後日現場からは、白骨化した4体の遺体が発見されたが、奇妙なことにどの遺体にも首がなかった。
さらにその後、海底から同じく白骨化した遺体が引き上げられたが、こちらには首があった。
警察は、この人物が犯人であり、4名を殺害した上で館に火を放ち、事故あるいは自殺によって海に転落したのだと推測。
しかしオクトパスマンが事件の詳細を記録したボイスレコーダーを所持していたことから、オクトパスマンこそが犯人ではないかという疑いが浮上してきた。
オクトパスマンは無実を主張しており、そこで蜘蛛手が真相を探ることになったのだ。
オクトパスマンは本当に無実なのか、「鶴扇閣事件」にはどのような真相が隠されているのか。
鬼才の探偵・蜘蛛手の推理が光る、シリーズ第六弾!
過去の事件とボイスレコーダーの謎
『友が消えた夏 終わらない探偵物語』は、連続窃盗犯オクトパスマンの無実を証明するために、「鶴扇閣事件」を蜘蛛手が改めて推理するという本格ミステリーです。
「蜘蛛手シリーズ」は、建築物絡みの難解な事件が起こるところが特徴ですが、今作「鶴扇閣事件」もやはり超難解。
状況からして厄介で、なにせ大学生が泊まる館が嵐で閉ざされて、しかも火災まで起こり、現場で4体もの遺体が発見され、その全てに首が無かったというのです。
まとめると、クローズドサークル+火事+バラバラ殺人+連続殺人の4段コンボということですね。
この段階でかなり複雑だと分かりますし、しかも過去の事件ですから、起こりたてホヤホヤの事件と比べると痕跡などを非常に見つけにくいはず。
それに加えて、オクトパスマンですよ。
全く別の事件で世間を騒がせているオクトパスマンが、なぜか「鶴扇閣事件」の被害者が遺したボイスレコーダーを持っていたという不可解さ。
いかにも事件に関与してそうなのに、でも本人は無実を主張しているから、また不思議。
このように様々な案件が複雑に絡み合った状況なので、読者は序盤から情報を整理しながら読む必要があります。
しかもその情報も、一癖も二癖もあるというか、そのまま信じるのは危険というか、いわゆるミスリードや叙述トリックが絶妙に含まれているので、全く油断できません。
読めば読むほど、先入観によって推理が間違った方向に進みやすくなるんです。
難解さが魅力の「蜘蛛手シリーズ」の中でも今作は特に高難度であり、込み入った本格ミステリーが好きな方には、かなり楽しみながら読めると思います。
目まぐるしく切り替わる二つの事件
「鶴扇閣事件」だけでも複雑なのに、実は今作ではもうひとつ、「タクシー拉致事件」も並行して語られます。
こちらは名古屋のタクシー運転手による連れまわし事件で、被害者の女性は記憶障害を患っている上、何者からかの謎の電話や自室への侵入にも悩んでいます。
「鶴扇閣事件」ほど凄惨ではないものの、やはり見事な複雑っぷりであり、警戒しながら読むことが大事です。
流れとしては、序盤からしばらくはこの両事件の様子が交互に語られます。
どちらも「同じ日にち」に発生しており、午前5時、午前6時30分、午前6時50分といった感じで、時間を追いながら小刻みに状況が説明されている感じです。
両パートがかなりめまぐるしく切り替わるので、情報がこんがらがらないように読むことが大事です。
それでもやはり、十中八九はミスリードに引っかかると思います。それくらい周到に罠が張られているのです。
そして終盤になってから、蜘蛛手によって一気に謎解きが行われます。
かなり終盤なので、お待ちかねの真打登場という感じで、ここからはますます面白く読めます。
特に、全く別物だと思われた二つの事件を、蜘蛛手が見事に繋げて解き明かしていく様は圧巻!
「まさかコレとアレとが繋がっていたなんて!」と、読者はビックリしつつ、絶大なカタルシスを味わえます。
複雑な事件だったからこそ、次から次へときれいに説明がついていく過程が、たまらなく快感なのですよね~。
ところが!
名推理でスッキリしたと思いきや、さすが「蜘蛛手シリーズ」、物語はここでは終わりません。
なんとエンディング後に、もうひとつとんでもない爆弾が炸裂するのです。
かなりの衝撃を味わえますので、エンディング後になっても油断禁物モードのまま読み進めてください。
読者の予想を大きく裏切る挑戦状
とにかく複雑で、様々な要素を詰め込んである上、ミスリードもところかまわずねじ込んで、読み手を積極的に袋小路に迷い込ませようとしてくる作品ですね。
門前さんからの「見抜けるものなら見抜いてみろ!」という声が行間から聞こえてきそうなくらい、読者への挑戦状的なカラーを強く感じました。
また、真犯人の動機がかなりぶっ飛んでいるところも、今作の特徴です。
あまりにも独りよがりというか、被害妄想が過ぎるというか、斜め上すぎて全くの予想外であり、犯罪者心理として興味深かったです。
そして、なんといってもあのラスト。
エンディングを迎えたと思った途端、青天の霹靂的に新たな事件が発生するとか、良い意味で読者の予想を裏切りすぎです(笑)
一体蜘蛛手は、宮村は、どうなってしまうのか、その先が気になって気になって、今すぐ続きを読みたい気分です!
ということで、『友が消えた夏 終わらない探偵物語』は、注目すべきポイントが非常に多い作品でした。
シリーズのファンの方はもちろん、難解推理小説がお好きな方にも、ぜひチャレンジしてほしい一冊です。
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