ああ、そうだ、これが道尾秀介さんだ。
と、読み終わったあとしばらく余韻に浸ってしまった。
本書『透明カメレオン』は、道尾さんの作家生活10周年を記念して、あらゆる情熱を注ぎ込んで書いた作品。
単行本で読んでいましたが、先日文庫化したのをキッカケにもう一回読みました。涙腺がやられました。
すでに道尾さんの作品が好きなら必見の一冊です。
道尾さんの作品をあまり読んだことがない方にも手にとってほしいです。
道尾秀介『透明カメレオン』
主人公となるのは、ラジオパーソナリティの恭太郎。
冴えない容姿ですが、彼は人を魅了する素敵な声の持ち主だった。
見た目と良すぎる声のギャップのせいで一時引きこもりになったが、ラジオに救われたことをきっかけに、その声のおかげもあって今や人気ラジオパーソナリティとなった。
そんな彼は、行きつけのバー「if」の常連客で、他のお客さんの話を面白おかしくしてリスナーに届けている。
ある大雨の日、一人の美女が、ほとんど放心状態でバーにやってきて、「コースター」と呟いた。
言われた通りコースターを渡すが、興味を全く持たず、そのままバーをフラフラと出て行った。
一体なにがあったというのか?
「あたし気付いちゃったんだけど」
手を下ろし、綺麗に手入れされた親指の爪をピンク色の唇で挟み込みながら、彼女は続けた。
「あの子……殺した、って言ったんじゃないのかな」
P.29より
ドタバタな始まり、ワクワクの中盤
さて、そんなことをキッカケに、恭太郎を含めた「if」のメンバーは、謎の美女が提案する「殺人計画」を手伝わされることになります。
弱みを握られ言われるがままに協力をするのですが、彼女の指示が意味不明。一体彼女はなにがしたいのか。その目的が全く見えてこない。
それはつまり、どんどん物語にのめり込んでしまうってことです。
次どうなるの?早く真実が知りたいよ!と心が悲鳴をあげています。ページをめくる手が止まらない止まらない。
道尾さん曰く、「作家になってから初めて自分のためではなく読者のために書いた作品」とのことですが、確かに随所に読者を楽しませるような場面が多く見られます。
序盤から中盤まではドタバタコメディで先が全く読めないのですが、中盤以降、伏線が回収されていきだんだんと目的が明らかになっていく構成はさすがの道尾さん。
ワクワクさせるのが本当にお上手ですよねえ。
そしてラストの
道尾さんといえば、最後にどんでん返しを仕込んでくる作品が多くて、毎回どんな一発を放ってくれるのかを期待させます。
今回もわかってた。なんかラストに仕掛けてくるんだろうなーって。このままじゃ終わらせないだろうなーって。
で、やっぱりあった。最後のたたみかけるように明らかになっていく真相。
これは、どんでん返しとかそういうものではなくて、
「ああ……そういうことだったんだ……」
と、衝撃の前にどうしようもなく涙が溢れ出てきてしまうような、そんな最後なのです。
これが道尾さんなんだよなあ。
読み終わったと、『透明カメレオン』というタイトルと「if」というバーの店名にも胸を打たれた。
帯に書いてある『驚愕と感涙のラストが待つ、最強のエンタメ小説!!』っていかにも大げさな感じだけど、嘘じゃない。
おわりに
そう、この物語はラジオパーソナリティの恭太郎だからできたこと。
テレビと違い、出演者の姿が見えないラジオは「言葉」の持つ力がとても強く感じられるから。
私は、最後の恭太郎の言うことが心にぶっ刺さりすぎて心肺停止しかけました。涙ですぎて脱水症状にもなりかけました。
なにが「声だけ」素敵なラジオパーソナリティですか。
声だけじゃなくて、中身も心もすごい素敵じゃないですか。恭太郎、ありがとう。
嘘をつくことは悪いことなのか。
この作品を読めば、世界を平和にする嘘も存在すると認めざるを得なくなる。
そんな、温かい作品です。
あのときこうしていたら。ああしていたら。そんなことは考えても仕方がない。行動の結果なんて誰にもわからない。選択自体が間違いだったわけじゃない。それなら、いまをつくり変えるしかない。
P.429より

コメント
コメント一覧 (4件)
透明カメレオン!!
もちろん大好きですよ~私も。
彼らの真実を知ったとき、泣きました(*σ´ェ`)σ
優しい嘘ですよね。
これは、私も道尾作品でも結構上位ですね。
でも次の、サイコパスな新作も早く読みたいです!!
いやーですよね。hitomiさんなら絶対大好きなやつだと思っていました。
これで泣かないわけがない。
読後のなんとも言えぬ余韻。
ほんとに名作です。
それにしても次のサイコパス作品が気になって仕方ありません!!
どうなるんだ!!期待しちゃうぞ!(*´∀`*)
たしか、スケルトンキーっていうタイトルで、今連載してるみたいですよー。
楽しみですよね!!!
うわー!連載読みたいけど単行本出るまで我慢しますー。一気に読みたい派ですー(ノω`*)