白井智之『東京結合人間』一行目から時間が止まる……独自の世界観と本格推理に浸る

有栖川有栖氏や、道尾秀介氏の推薦を受け「人間の顔は食べづらい」で、デビューした若手推理作家、白井智之さん。

まだ28歳の彼が描く二作目『東京結合人間』が文庫化しました!

最初のページを開いた瞬間、来る場所を間違えてしまったかも……とUターンしたくなりつつも、なぜか最後まで引き込まれ読んでしまう不思議な世界。

特殊設定好きなミステリ派の方は、必見の一冊です。

目次

「東京結合人間」あらすじ

冒頭でも触れましたが、「来る場所間違えました、すみません」と謝りたくなる1ページ目。

そこに並んでいたのは、

「大樹の締まった肛門に、千香の人差し指がゆっくりと押し入ってきた」

(引用7P)

という文字。

ここだけ読むと、主人公が特殊な性癖の人間なのかと感じますよね。

ですが、実はそんな展開ではなく「東京結合人間」の世界では、人と人とが生殖を行う際に、男女のどちらかが相手の肛門から入り込み、人間同士が「結合」する必要があるのだとか。

 

この設定、思い浮かぶ発想が凄いですよね。

「まあ、そういう世界なら仕方ない……」

と読み進めて行くと、件の二人に結合による問題が生じます。数千組に一組程度で起きる問題、それは結合後に【嘘がつけなくなる】ということ。

この嘘が付けない「オネストマン」ばかりを集めた映画撮影を行うべく、7人の「オネストマン」らが旅立った孤島で殺人事件が起こります。

嘘が吐けないはずなのに、なんと!すべての「オネストマン」が殺害を否定。

後半は、この真実がどこにあるのかを探る、本格ミステリーになっていきますので、初見で諦めることなく読み進めてみて下さいね。

嘘がつけない者しかいない孤島での殺人

「東京結合人間」の見どころは、やはり孤島での殺人事件が起きる中盤以降です。だからといって、前半部分を読み飛ばしてしまうのはNG。

ちゃんとつながりのある物語になっていますので、「グロい描写は苦手……」という方もちょっと頑張って中盤を目指しましょう。

本格的な推理小説へ変貌してからは、多くのミステリーを読み慣れている方も納得な展開に。7人の「オネストマン」の中に、2人の「ノーマルマン」が存在しており、その人物を暴く様相となります。

登場人物それぞれに、考え方があり、さらにその中に犯人が含まれているかも……と想像すると、何が正解なのかが分からなくなり、混乱する頭をなんとかなだめながら読み進めていきましたよ。

白井智之さんにしかできない世界観

序盤のとんでもない始まりから、中盤のグロ系描写を通り向け、後半まで……読了していやー、驚きました。

それまではただの変態ではないかと思っていた白井さんの印象が、天才へ変わります。

ここまで細かな伏線を用意し、きちんと物語に仕立てあげる。

しかも、また28歳なのに!!

彼の頭の中身は一体どうなっているんでしょうか?

結合している人間もいる、していない人間もいる、結合できない人間もいる。

そんな中、結合可能な人間は、誰とでも、どんな瞬間でも結合することができてしまう……。

1巡目からこの常識を頭に叩き込むことができる人は少ないのではないでしょうか?

「嘘、そうなるの?」

と理解を終えてから、2巡目に入ると色々な面で納得がいきます。

トリックに粗削りな部分が無い訳ではありませんが、それらを差し引いても他の作家さんでは簡単に描くことのできない世界観。

ここのところ、定番ミステリーの心地よいぬるま湯に浸かっていたのですが、そこから放り出され、ドロドロとしたマグマに飛び込まされた、そんな心境になったのでした。

総評

正直、好き嫌いの分かれる作品ではあるかと思います(これだけぶっ飛んでいれば仕方ない)。

ですが、有栖川氏、道尾氏だけでなく、綾辻行人氏までもが押している才能を、存分に感じることができるミステリーだとも言えます。

現時点でさえ、白井さんが今後描いていく物語の一つ一つが、日本のミステリー界を変えるのでは? という予感がしているほど。

これから彼がどう化けていくのか、さらに力をつけて行ったらどんな作品が生まれるのかへ、興味を示さずにはいられないのです。

結合人間は一般人とは違う四つの目、各四本の手足という異形のため、実写化は難しいですが、より物語を楽しむためのマンガ化はあるかもしれませんね。

それにしても、私だったらそんな結合人間が普通に歩いている世界で、当たり前に生活する自信はありません。しかも彼らも昔は普通の生殖方法で繁殖していたそうで……近未来がこんな世界だったら辛いなぁ。

結合は辛いし、見た目は大変だし、でも愛する人との子どもは欲しいし……。

そんな葛藤から、「結合」が当たり前の世界へどう移り変わっていったのかにも興味がありますね。

この世界を舞台にして、続編的ミステリーが発表される可能性もありそうです。

リアルの世界で積極的に、

「東京結合人間良いよ~、読むべきだよ~」

と勧めたら、アブナイ人間だと思われそうでとてもできませんが、実際には読む価値アリだと、ここでこっそり伝えておきます。

新進気鋭の白井さんが描くありえない世界へ、どっぷり浸かってみて下さい。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 結合人間、このワードだけ見ると真っ先にイメージされるのは 暗黒館のようなシャム双生児ですが、またそれとは違ったものなんですねえ

    そもそもこの作家さんの名前が初見でした、が、かの大御所達が絶賛 綾辻さんのお墨付きとあれば、むしろ知らなかったのが恥ずかしいぐらいですw

    先日、本格の新しいの紹介してもらいたいですーと言いましたが、孤島ものミステリー、しかもまだそんなに知名度高くないものであれば、こんなありがたい紹介はないですw 早速週末本屋に行ってみます彡(^)(^)

    • ですねえ、このぶっ飛んだ設定は唯一無二ですね。。。
      孤島モノはもう絶対よまなきゃですよね!笑
      孤島ってだけでありがたいです。
      ぜひぜひ白井智之ワールドを体験してみてください!(*´∀`*)

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