先日、今邑彩さんの最高傑作候補として『よもつひらさか』をについて述べましたが、今回はもう一つの最高傑作候補『時鐘館の殺人』をご紹介させてください。
『時鐘館の殺人』は6篇からなる短篇集であり、ミステリあり、サスペンスあり、ホラーありの、様々なジャンルの今邑ワールドを楽しめる贅沢な作品です。
当然全部面白いのですが、今回はその中から『生ける屍の殺人』『黒白の反転』『時鐘館の殺人』の三つを簡単にご紹介できればと思います(*´∀`*)
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1.生ける屍の殺人
楠木めぐみは婚約者の和久に会うために、軽井沢の別荘に訪れた。
和久は一流のミステリ作家であり、この別荘に一週間ほど引きこもって作品に専念している。
しかし別荘でめぐみが発見したのは、施錠されたトイレの中で死んでいる和久と、ソファに腰掛けて死んでいる見知らぬ女だった。
トイレの壁には、和久が死ぬ間際に残した「イケルシカバネ」という文字がーー。
さて面白いのがここから。
状況から見て、和久を殺した犯人は、ソファに腰掛けて死んでいた女・元編集者の涼子だったんです。
しかし、涼子の死亡推定時刻は和久よりも十二時間以上前だったのです。
おかしいですよね。それだと和久が殺された時、すでに涼子は死んでいたことになるんですから。
さらにさらに、別荘の引き出しから和久の手紙が見つかります。
その手紙には、「涼子のマンションを訪れたとき口論となり、首を絞めて彼女を殺してしまった。マンションに死体を残して別荘に逃げてきた」と書かれていたのです。
だとすると。
東京のマンションで殺された涼子の死体が、生き返って軽井沢の別荘にやってきて、和久を殺して、そこでまた息絶えたことになります。
???
そんなことがありえるのでしょうか。一体どのようなトリックを。
おお、これは魅力的なミステリだあ、とワクワク読んでいたら……まさかのラスト一行。
ヒョエー。
2.黒白の反転
16歳で映画界にデビューし、まさに人気絶頂という時に謎の引退を遂げた大女優・峰夏子。
その彼女が住む洋館に、『邦画研究会』サークルの学生たち5人がやってきた。
彼女が引退したのは、やはりあの事故が原因なのか。その噂の真相を知りたいために。
そして峰夏子は語りだす。
25歳の時に出会った若手監督・氷見とドライブ中、運転を誤りガードレールに激突。氷見だけが即死したことを。
直後、峰夏子は引退する。
理由は「氷見以外の監督の作品には出たくない」から。
やはり噂通り、2人の間には素敵なロマンスがあったのだーー。
しかーし!当然このままでは終わりません。
一晩明けた頃、学生たちの中の1人が死体となって発見されたのです。
果たして犯人は誰なのか?
というわけなんですが、これ、ミステリとしてもしっかり面白いんですけど、何よりあの後味ですよ。
ミステリとして「おお」となって、最後の最後で「ゾクッ」とイヤーな後味を残すんです。これぞ今邑彩!みたいなアレです。たまりません。
3.時鐘館の殺人
今邑さんの元にミステリ専門誌『QED』の担当者から電話が届く。
『QED』には推理作家がフーダニット物のパズルを出題し、犯人を当てた読者には賞金が出る、という「読者へ挑戦」のコーナーがある。
それに出題者として出てくれないか、と。
なんとありがたい!お金にもなるし、ちょうど350枚の長編作品がストックしてある。
喜ぶ今邑さん。
しかし担当者曰く、コーナーに載せるには100枚以内に縮めなければいけないという。
350枚の長編を100枚以内に削る?
非常に酷な話ではありますが、そう言われては仕方がありません。
しぶしぶ今邑さんは350枚の長編を100枚以内に削り、『時鐘館の殺人』としてコーナーに載せることになりました……。
さて、そんな序章をおいて、ここから『時鐘館の殺人』という作品が掲載されます。いわゆる「作中作」というやつです。
作中作『時鐘館の殺人』は、これだけでも一つのミステリ短編として十分に面白いものなのですが、これを「作中作」として扱っちゃうのが凄いところです。
しかもここからが楽しい。
『時鐘館の殺人』の「問題編」「解決編」を雑誌に掲載後、読者から一通の手紙が届きます。
今邑氏の「時鐘館の殺人」の問題篇には重大なミスがあります。つい見逃してしまうようなささやかなミスですが、面白いことに、そのミスのために小説の内容そのものがガラリと変わってしまうのです。
P.326より
なんと読者曰く、『時鐘館の殺人』の問題篇にはミスがあるという。
すると同時に、解決篇で明かされた犯人も変わってきてしまうと言います。
なので、「そのミスとは何か」「そのミスを看破することで浮かび上がってくる真犯人は誰か」を推理し、小説にして掲載しなさい、というのです。
まさに「読者からの挑戦状」です。
はたして、今邑さんはこの読者からの挑戦状を解くことができるのか……。
という話です。
ああ面白い。
この構成の巧さよ。
『時鐘館の殺人』という作中作だけでも面白いのに、それを利用してこんなにも面白くしてしまうとは。
もう最後の最後はニヤニヤしっぱなしですよ。
『よもつひらさか』と並ぶ傑作短編集!
この3編以外にも、
隣の部屋に住む夫婦の間で起きたらしい殺人に怯える『隣の殺人』、
見知らぬ女性から定期的に留守番電話にメッセージを残される『恋人よ』、
の2作品はサスペンスとしての名作でしょうよ。
今邑さんはこの手の「ゾクゾク感」が最高にお上手だ。
ほんとハズレなしの短編集なので、今邑さんの他の作品を読んだことがある方もない方も、ぜひお手にとっていただければと思います。
そして『よもつひらさか (集英社文庫)』も合わせてどうぞ。
『時鐘館の殺人』に比べてホラー強めの短篇集であり、私の中での最高傑作候補の一つです。
『よもつひらさか』と『時鐘館の殺人』、どっちも読んだらもう今邑ワールドの虜でしょう。そのまま他の作品も片っ端から読み漁っちゃってください……。


コメント
コメント一覧 (4件)
どうもでーす。
こっちのも面白そうですね!
合わせてどうぞ~と、言われたら、合わせて読むしかないですよね(笑)
今邑彩さん、ほんとにもっと沢山の作品を読みたかったです。
でも、ほんとに沢山の名作を残してくれましたよね。
どうもでーす!(´∀`*)
いやあ、こっちも面白いんですよ笑。
hitomiさんならきっと気に入っていただけるはず?!
ほんとそれです……。もっともっと読みたかったです。
新刊が発表されるたびにワクワクしたかったし、発売日にすぐに買って一気読みしたかったです。
もう新作を読めないなんて辛すぎますよねー。。
でも、そうですね。これだけの名作を残してくれましたし、何度読んでも面白い作品ばかりですから、これからも読み続けると思います。というか、絶対読み続けます!
つい先ほど読み終えました!
ほんと、ハズレがないです。
『時鐘館』は仕掛けにニヤニヤ。
作中作って他にも読んだことがありますが、また一味違いますね。
個人的には『恋人よ』が、始終「嫌だ嫌だ…やめてくれ~」とハラハラしながら読んでいましたが、まさかのオチ(゜ロ゜)!!!
他も面白く、また短編集なのでちょっとした時間に読めて大満足です。
これからも面白い作品をたくさん紹介してくださいね!
pomさんこんばんは!
この作品集、ホンッットに面白いですよね。私もめちゃくちゃ大好きです。
『時鐘館』は仕掛けには私もニヤニヤしっぱなしでした。
どれもオチが優れていますよね。短編のお手本のような切れ味があって。
気に入っていただけてようで嬉しいです!
嬉しいお言葉ありがとうございます!
これからもどんどんご紹介させていただきます!