主人公の警部サム・べリエルは、連続して起きている少女失踪事件の捜査をしていました。
少女の目撃情報があった民家へ突入するベリエルたちですが、室内にはもう誰もいません。
もぬけの殻の地下室は迷路のような構造になっており、穴倉からは異臭と血液がにじみ出ていました。
その後、ベリエルは三つの事件の犯行現場に一人の女性が写りこんでいることに気づきます。
この女性を追ううちに事件に公安が絡んでいることがわかり、今度はベリエルが尋問を受ける立場に。
そして驚くべき真実が次々に明るみに出ます。
その事件の全貌に、読者は必ず騙されてしまうでしょう。
アルネ・ダール『時計仕掛けの歪んだ罠』
一見するとよく見かけるミステリー小説ですが、非常に綿密に練られたプロットには驚かされるばかりです。
作品は四部構成で、一部は事件を追うベリエルの視点で物語が進みます。
第二部はベリエルとある人物との尋問の内容がメインです。
尋問のシーンは取調室のみで進められていきますが、緊張感のあるやり取りが続き読んでいて飽きることがありません。
ベリエルの静かな観察力が冴え渡り、ある一つの事実から物語が急展開します。
そして第三部、第四部ではペースがガラリと変わり、一気に真相に近づきます。
主人公から見えていることだけが事実ではなく、何を信じれば良いのか、どこから何を疑えば良いのか、読んでいて戸惑いを覚えることでしょう。
事件解決のために必要な情報が少しずつ出てくるので先が気になってページをめくる手が止まりません。
普通のミステリー小説だと思って読んでいると重要な事実を見逃すかもしれません。
また、この作品では少女の連続失踪事件をメインに取り扱っていますが、主人公の成長の物語も描かれています。
暗い過去に立ち向かう主人公たちの人間ドラマに胸が熱くなることでしょう。
「時計仕掛けの歪んだ罠」というタイトルの通り、時計が重要なアイテムとなっている点もポイントです。
主人公の持ち物にもよく注意して読みすすめてみてください。
ラストには驚きの人物が真犯人であることがわかります。
そして続編を匂わせる結末に期待が膨らみます。
今作は2020年の夏に日本で翻訳、出版されたばかりですが、早くも作者の次回作が楽しみです。
スウェーデンが物語の舞台となっており、北欧ならではの問題についても触れられています。
スウェーデンを始めとする北欧の作品は、近年映画や小説として日本にも多く輸入されてきています。
独特のシリアスな展開が好みだという人も少なくありません。
北欧の文化や空気感を楽しみたいという方はぜひチェックしてみてください。
作者のアルネ・ダールは、スウェーデンのミステリー小説界の新星として大注目されています。
チームで捜査して事件を解決していく様子を描いたミステリー小説はスウェーデンでは少なく、ダール氏がその手法を持ち込んだことはスウェーデンのミステリー小説界にとっては衝撃的なものでした。
多くの名作を生み出しスウェーデンでは大人気の作家ですが、日本では過去に一冊のみが翻訳されたのみです。
その一冊はシリーズものの第一弾ですので、今作をきっかけにダール氏を知った方はもどかしい思いをするかもしれません。
今作のヒットを機に、過去作の翻訳も期待されています。
ですがこの「時計仕掛けの歪んだ罠」はこれまでのダール氏の作品の中でも群を抜いて完成度が高く、スウェーデンだけでなく世界中で高く評価されました。
緊迫感のある心理戦、周到に張り巡らされた伏線、興味をそそられる登場人物などなど……。
とくに主人公のベリエルは、警察官としては破天荒で今後の立場も非常に危うい状態でラストを迎えます。
自分の過去を乗り越えたベリエルたちが今後どのような活躍を見せてくれるのか、今作以上の衝撃的な内容を楽しませてくれるのかなど、続報を楽しみにしておきましょう。
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