海外ミステリー小説

『閉じ込められた女』- フルダの心の闇を描き出すシリーズ完結編

雪が吹き荒れるアイスランド、真夜中の農場に一人の男がやって来た。

ハンティングの途中で迷ったらしく、農場を営む夫婦は吹雪の中に放り出すわけにもいかず、やむなく家に泊まらせることにする。

ところが男は、隙を見て家の中を探り始めた上、ナイフまで持っていた。

危険を感じた夫は男に立ち向かい、妻は恐怖で地下室に逃げ込むが、そこにあるのは絶望だった……。

同じ頃、女性警部のフルダは、女性の失踪事件の捜査をしていた。

「ガラスの天井」を突破するためにも、何とか手柄を立てたいフルダだが、自身の家庭内の問題にも頭を抱えており、任務に集中できずにいた。

そんな時、新たに殺人事件の捜査を任命され―。

大人気の北欧ミステリー「フルダ・シリーズ」の完結編!

シリーズ随一のサスペンス

『閉じ込められた女』は、「フルダ・シリーズ」の第三弾です。

年代を逆行する形式になっており、一作目『闇という名の娘』ではフルダは64歳、二作目『喪われた少女』では49歳でした。

今作『閉じ込められた女』では40歳なので、一作目から見ると約25年前ですね。

ずっしりとした重さが魅力のシリーズですが、今作では重さに加え、怖さも際立っています。

背筋の凍るようなサスペンスが展開され、過去の作品以上にヒヤヒヤし、一瞬たりとも目が離せません。

物語は、アイスランド東部の農場で起こった殺人事件に、フルダが派遣されるところから始まります。

発見された死体はひとつではなく、死後かなり経過していたというのですから、何やらグロテスクな予感がします。

不気味さを漂わせたところで、場面は2ヶ月前に遡り、その農園で何があったかが語られます。

真冬の夜、夫婦でひっそりと経営する農園に一人の男が迷い込み、夫婦を追い詰めて殺害するのです。

吹雪や不審な訪問者、ナイフ、疑心暗鬼、地下室と、不安を掻き立てるような要素が満載です!

シリーズの今までの物語と比べると、サスペンス味が強く、とにかくスリリング。

そしてこの事件の2ヶ月後、フルダが捜査に来てからは、さらに衝撃の展開が始まります。

予想とは全く異なる真相が明かされ、読者は最初からミスリードに嵌っていたと気付き、愕然とすることでしょう!

フルダが抱えていた悲痛な思い

『閉じ込められた女』には、農場でのサスペンス以外にもうひとつ、「フルダの家庭問題」という大きな柱があります。

一人娘のディンマが心を閉ざし、夫のヨンも向き合ってくれず、フルダがひどく悩んでいるというエピソードです。

ディンマとヨンについては、一作目と二作目である程度語られていたため、読んだ方は彼らが最終的にどうなるのかご存知だと思います。

そして今作では、そこに行きつくまでの過程が、事細かに語られます。

ディンマが引きこもる様子、夫が無関心を貫く様子が丁寧に描かれ、フルダがいかに苦しんでいたかが痛いほど伝わってきます。

そのため読むことで、一作目と二作目のフルダの気持ちや言動に「そうだったのか!」と合点が行くようになります。

フルダがなぜあれほど孤独を恐れていたのか、なぜ事件に私情を持ち込むことがあったのか、その悲痛な思いが根本から理解できるようになるのです。

また、フルダの家庭問題と農場でのサスペンスは一見全く別物のように見えますが、実は「子を思う親の狂気」という点でリンクしています。

農場での犯人が選択した手段、辿る末路は、そのままフルダに当てはまる気がしてなりません。

そして、今作でのこの流れが二作目の礎となり、一作目の衝撃のラストに繋がるのです。

そういう意味で、今作『閉じ込められた女』は、一作目と二作目を読んだ方は必見!

シリーズ全体の味が数倍にも膨らみ、より強い読後感を残すこと間違いなしです。

死は罪か、それとも救いか

吹雪の真夜中の訪問者や、夫の無理解と無関心、娘の反抗的な態度など、文字通り身も心も追い詰められるような展開がずっと続く作品です。

登場人物の誰もが最後の最後まで報われることがなく、読めば読むほど陰鬱とした気持ちにさせられる、正真正銘のイヤミスと言えます。

でもこの暗さがあるからこそ、『閉じ込められた女』は読み手を強く惹きつけるのです。

深い闇に心を溶け込ませ、暗い思考を悶々と続けることは、時として心地よいものです。

本書にはそういう魅力があり、暗さに病みつきになる方や、つい陶酔してしまう方も多いと思います。

そしてこの魅力は、「フルダ・シリーズ」全体に共通します。

日々の喧騒の中で、しっとりと心を落ち着けたい時、静かに瞑想に耽りたい時などには、このシリーズは打ってつけです。

個人的には、本書のテーマは「死の選択」だと思っています。

極限状態で、自分あるいは誰かの「死」を選ぶことは罪になるのか、それとも救いになるのか。

とても重いテーマですし、おそらく人それぞれ答えが違うという意味で、真の答えには誰も辿り着けないでしょう。

しかしフルダは、このシリーズ三部作を経て、自分なりの答えを出しました。一作目のラストがそれにあたります。

あまりに衝撃的なラストで驚いた方も多いと思いますが、本書を読めば、あれがフルダにとって「これで良かった」と思える選択であったことがわかります。

できれば本書を読んだ後でもう一度、二作目、一作目と遡って読んでみることをおすすめします。

そうすることで、シリーズへの理解がより深まり、さらに大きな感動に包まれることでしょう!

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