井上夢人『the SIX ザ・シックス』-超能力を持ち孤独に苦しむ少年少女たちに希望の光を。

超能力に憧れていた時期がありました(今も)。

超能力ってカッコいいし、強そうだし、何かの役にたちそうだし。

だから、力を手に入れることの良い部分しか考えてなかったんだ。

まさか、能力があるためにこんなに苦しまなければならないなんて、気がつきもしなかった。

 

井上夢人さんの『the SIX ザ・シックス』は、望んでもいないのに特殊な力を手に入れてしまった、少年少女6人の物語。

 

【ラバー・ソウル】井上夢人さんのおすすめ小説7選

『the SIX ザ・シックス』

 

『あした絵』
『鬼の声』
『空気剃刀』
『虫あそび』
『魔王の手』
『聖なる子』

の6編収録。

1.『あした絵』

小学二年生の少女・遥香(はるか)には明日起きる出来事を予知する能力があった。

未来予知。

誰もが欲しがるであろうその能力は、遥香にとってはとても怖いものだった。

学校にも行けなくなってしまった。

唯一の救いは、絵を描いて夢中になることだった。

 

そんな少女の面倒を見ることになってしまったニートの和真。

まさか少女が未来予知の能力を持っているなんてつゆ知らず。

けどある日、少女の描いた絵と実際に起きた事件に奇妙な共通点があることを発見して……。

2.『鬼の声』

頭の割れるような音量で、何者かの「声」が聞こえると訴える少年。

声が聞こえればその場でしゃがみこみ、うるさい!やめろ!と大声を出さずにはいられず、学校へ行くことも日常生活を送ることも困難な状態だった。

少年は「自分の中に鬼が住んでいて、そいつらが悪いことをする」と主張する。

周りの大人たちは困惑。

孤独になっていく一方の少年。

児童相談所に務める佳織と阿久津は、その「声」の原因を突き止めようと奮闘する。

そして見えてきた、希望の光。

3.『空気剃刀』

2年前に施設を抜け出してから、そのまま行方不明になっている少年・健太。

気が弱く、決して自分から喧嘩を売るような少年ではなかった。

でも相手が襲いかかってきたとき、反射的に「空気で出来た剃刀」のようなものでスパスパッと切れる能力を持っていた。

彼はその能力で、自分の周りの人が怪我を負ってしまうことが怖かった。

 

それが理由で健太は施設を抜け出し、以来どこかでホームレス生活を送っているという。

わずかな目撃証言を頼りに、超能力者についての雑誌連載をもつライター・飛島は、健太とコミュニケーションを取ろうと心みるが……。

4.『虫あそび』

イジメにあっていた少年がいた。

彼はイジメた奴を懲らしめてやろうと虫を探していた(イジメた奴は虫が苦手)。

そして出会う。

虫を引き寄せ、コントロールできる能力を持った少女と。

目が慣れてくると、暗い家の中の様子が見渡せた。そこは虫だらけの世界だった。

ボロ家の中は、床も、壁も、天井も、様々な虫で覆い尽くされていたのだ。外壁にへばりついていた虫の数など、比べものにならなかった。それこそ隙間なく、重なり合って虫が蠢いている。

P.179より

少女に案内された家の中は、隙間なく大量の虫が住み着いた虫屋敷だった。

少女の悩みは、虫が嫌い、というのではない。むしろ虫が大好きで、逆に言えば虫しか友達がいなかった。

彼女がいるとことには虫が大量に集まってきて近隣に迷惑をかけてしまうので、頻繁な転居を余儀なくされてしまうのだった。

5.『魔王の手』

「魔王」と恐れられる、孤独な少年がいた。

彼は体に電気を溜め、放出できる力を持っていた。

ゆえに、誰も近付こうとはしなかった(近づくだけで、スマホなどの電子機器が壊れてしまう)。

一体なぜ、自分はこんな能力を持ってしまったのか。

悩みに悩んでいた彼だったが、ある日。ガソリンスタンドを爆発させる、というとんでもない事故を引きおこしてしまう。

 

カミナリを操る力。

漫画だったら最強クラスの能力で、憧れる子供達も多いことでしょう。

でも彼は、「魔王」と恐れられることが大嫌いだった。

そんな彼を救ってくれたのはーー。

6.『聖なる子』

どんな傷でも治してしまう少女がいた。

事実、いま、目の前で、痛かった自分の虫歯を完璧に治してくれた。

彼女の力は、今までの5人と違い、人から求められるものだった。

ゆえに、彼女の周りには常に人がいたが、まるで宗教の教祖様のように崇められる存在にある。

これも一種の孤独だった。

バトルものではなく、救いの物語。

超能力を持った子供達が集まる連作短編集、と聞くと、最後はみんな集まって悪者能力者と対決!いえーい!みたいな物語を想像するかもしれません。

でも今作は、そういったアクションものではありません。ド派手な展開もありません。

孤独な立場に置かれた少年少女の救いの物語なのです。

だから、共同ペンネームであった岡嶋二人時代の作品とは大きく違っているのですが、井上さんの優しさの部分がフォーカスされた温かい作品になっています。

唯一文句をいうなら、続きが読みたいってことですよ。毎回良いところで終わるんですわ。

どのお話も読後感がよく、なんだかこっちまで幸せにな気分になれるから仕方ないんですけどね。やっぱりラストはもっと読みたいって気持ちにさせてくれる。

まだまだこれから!って感じなので、今後彼らがどのように生活していくか、いつまでも見守っていたいんですけどねえ。続編は出ないのでしょうか。

 

また、能力者が語り手となったお話は一編もなく、すべて第三者の視点で描かれているのも大きな特徴でしょう。

人と違うものを持っていると、それだけで周りから変な目で見られ、仲間外れにされて、「普通の生活」を送れなくなってしまう。

これは超能力に限ったことではありません。

でも一人でも「理解者」が現れたなら、彼らにとって大きな救いとなるのです。

その能力を理解し、受け入れることができる仲間たちと出会うことが何よりも大切なことなのです。

そうつまり、孤独なのは彼らが能力を持っているからではなく、自分とは違う人を差別してしまう周りの人のせいなわけです。

普通の人はと違ったものを持っている人に出会っても、差別せず理解できるように接することができる、そういう人間に私もなりたい。

 

ちなみに、この中で私が一番ほしい能力は、どんな傷も治すヒーリング能力です。

大量の虫だけは勘弁してください。

【ラバー・ソウル】井上夢人さんのおすすめ小説7選

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です