主人公の海砂真史は、過去のちょっとしたことから幼馴染の鳥飼歩とさまざまな問題を解決するようになりました。
鳥飼歩は中学校にも通わず自由奔放な性格をしていますが、非常に頭が切れて、真史にとって頼りになる探偵のような存在です。
何かある度に真史は歩に話をしに行くようになり、そのお礼にお菓子を手渡す、というのが、二人にとって恒例となっていました。
洋菓子店の暗号の謎や美術館で起きた出来事など、日常に潜む些細な謎が、驚きの事実によって解き明かされていく様子がいくつも描かれています。
そんな日常が続く中、ふと真史は歩との関係に疑問を持ちます。
相談する、相談を受ける、言わば依頼人と探偵のような関係は決して友人と呼べるようなものではありません。
では、歩に持ちかける謎がなくなったとき、二人はどうなるのだろう、と。二人の揺れ動く感情の行方にも注目です。
川澄浩平『探偵は友人ではない』
というわけで、前回の『探偵は教室にいない』の続編です。
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前作では歩というキャラクターを丁寧に描き、学校で巻き起こる些細な謎を次々に解いていくテンポの良さが人気を博しました。
今回もそのテンポの良さはそのままに、より二人の関係がしっかり描かれるようになりました。前作との関係性の変化にも注目しながら、楽しむことができます。
前作に引き続き、作中に登場するのは殺人事件などではなく学校や生活の中で起こる問題ばかりです。
しかし前作よりもさらに本格的なミステリー要素がふんだんに盛り込まれており、今作だけを読んだ方でも十分楽しめる内容になっています。
連続した四篇が収録されており、それぞれにすっきりまとまっているので、手短に小説を楽しみたいという方にもおすすめです。
徐々に変化していく真史と歩の関係も一緒に楽しめます。ミステリー小説というジャンルですが、青春小説の爽やかさもあります。
続編を期待する声も多く、次はどんな姿を見せてくれるのか楽しみです。
二人の恋愛に発展しそうでしない微妙な距離感の表現が上手く、その後の二人の関係が気になります。
中学生ならではの他人からの視線が気になる、他人に簡単に言えない、聞けないことがあるという気持ちも、誰しもが感じたことがあるのではないでしょうか?
また、今シリーズは北海道の札幌を舞台にしています。
観光に行ったことがある方なら誰でもわかるような名所から、札幌にお住まいの方ならクスっと笑ってしまいそうな独特の場所が魅力的に描かれており、足を運びたくなることでしょう。
前作にも北海道のさまざまな名所が登場しています。ただ名所を描くだけでなく、きちんとトリックとして活かされている点にも注目です。
ガイドブック通りではない、その場所に暮らす真史や歩の視点から描かれる風景も楽しみながら読んでみてください。
謎を通して少しずつ大人になっていく、 少年少女の日々。
作者の川澄浩平氏は小説家としては2018年にデビューしたばかりの新人さんです。
前作のデビュー作「探偵は教室にいない」は鮎川哲也賞を受賞しました。
それ以前に2014年に週刊少年ジャンプのストキンPで努力賞を受賞しています。
「妄想を喰らう」「異能刑事とデイドリーマー」の二本の漫画の原案を担当しており、当時から優れた脚本力に注目が集まっていました。
豊かなのはストーリー性だけではなく、小説の文章もです。あっさりしているのにどこかくせのある、思わず惹きつけられる文章を書いています。
学生ならではのもどかしい感情や人間関係を描くのが非常に上手く、キャラクターの作り方も秀逸です。
「探偵は友人ではない」は前作とともに、ミステリー小説初心者の方や主人公たちと同年代の学生の方でも読みやすい内容です。
日常に起こりうる些細な謎をメインに取り扱っているので、明るい気分で読み進められるという点も魅力的でした。
楽しみながらも本格的な仕掛けのミステリー小説が読みたいという方は、ぜひ手に取ってみてください。
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