『探偵は教室にいない』第二十八回鮎川哲也賞受賞作の「青春」が良い。実に良い。

第二十八回鮎川哲也賞受賞作、川澄浩平さんの『探偵は教室にいない』が発売となりました。

七河迦南 さんの『七つの海を照らす星』、青崎有吾さんの『体育館の殺人』、市川憂人さんの『ジェリーフィッシュは凍らない』、今村昌弘さんの 『屍人荘の殺人』などなど、鮎川哲也賞受賞作は好みの作品が非常に多いのですが、今回もまた良きミステリでございました。

『探偵は教室にいない』は4編からなる連作短編集で、「青春」の要素をふんだんに盛り込んだ少年少女たちの物語を描いております。

そう、これは青春物語なのです。

ガチガチの本格ミステリも好きですが、このような青春小説も大好きなわたしにとっては最高の一冊でした。

どんなお話が収められているのか、簡単に見ていきましょう。

1.『Love letter from…』

海砂真史(うみすなまふみ)には、鳥飼歩(とりかいあゆむ)というちょっと変わった幼馴染みがいる。

幼馴染みと言っても、かれこれ9年あっていないのだが。


ある日、真史の机の中に一通のラブレターが入っていた。

しかしこのラブレター、差出人の名前がどこにも書いていない。一体誰がこのラブレターを書いて机の中に入れたのか。

さて、これを誰に相談すべきなのか。

まず親友のエナのことが頭に浮かんだが、あまり負担をかけたくないし、必要以上に事を大きくしたくない。

できるなら私の日常から距離があり、ある程度信用することができ、頭のキレる人物がいい。

そんな時思い浮かんだのが、幼馴染みの鳥飼歩だ。

なぜ机の中に入れたのか

「僕は学園ラブストーリーに明るいわけじゃないが、ラブレターって大抵靴箱に入っているものじゃないか? 過剰に異性から好かれる美男美女の靴箱が大量のラブレターで雪崩を起こすとか、お菓子が入っているとかもあるよな。あんなところに食べ物を入れる衛生観念のなさは理解できないが」

P.50より

さすがは鳥飼歩。着眼点が違う。

なぜ「靴箱」ではなくリスクの高い「机の中」にラブレターを入れたのか。

そこから導き出される真実とは。

感想

はあ、なるほど。こういうオチになりますか。

胸が締め付けられるような想いです。

一話目から見事に心を奪われてしまいました。

そしてこの作品の方向性もしっかりわかりました。

よくある「日常の謎」のようで、他の作品では味わえない特別な読後感。

この一話目だけでなぜ鮎川哲也賞受賞作に選ばれたのかがよくわかります。

文章、構成、キャラクター、どれをとっても素敵でした。

2.『ピアニストは蚊帳の外』

友人であるバスケ部の京介が、合唱コンクールのピアノの伴奏を担当することになった。

実際演奏しているところを見させてもらったが、とっても上手くて感動した。

しかしある日、京介は伴奏はやらなくなったと言い出す。あんなに上手かったのに、なぜ。

本人は「本番直前にバスケで突き指して弾けなくなったらクラスに迷惑かけるから」と言っているが、本当だろうか。

他に何か秘密を抱えているのではないだろうか。

気になった真史は鳥飼歩に相談を持ちかける。


最後の一言が特に印象に残る短編でした。しびれます。

「なぜ伴奏をやらなくなったのか」という非常に些細な謎をここまで読ませる物語に仕上げるとは。

良い青春してますなあ。

3.『バースデイ』

田口総士には他校の彼女がいる。

その彼女が学校に相談にやってきた。

どうやらここ1週間、総士が彼女と会いたがってないらしい。

他に好きな人ができたのか、いやそれはない。総士は感情がダダ漏れの人物だし、そんなことする奴ではない。

しかし、私は見てしまった。雨の日、総士がうちの学校の女の子と相合い傘をしているのを。

そんな奴だと思っていなかったのにと、真史はショックを受ける……。


ザ・青春。青春に恋愛要素は外せないですなあ。

「一体なぜ総士は彼女と会いたがらなかったのか」という些細な謎。

でも彼女たちにとってはこれ以上ないくらい重要な謎です。

そんな謎ですら鳥飼歩は話を聞くだけで解いてしまう。

すごい奴です。

4.『家出少女』

父親と喧嘩して家出した海砂真史。

友人のエナに電話したが、今自分がどこにいるかを言う前にスマホの充電が切れてしまう。

友人たちは集まって考える。

彼女は今どこに一人でいるのだろうか。


これもなんだか甘酸っぱい青春だなあ。と。

さっきから「青春だなあ」しか言ってないですが、だってそうなんだもの、仕方がない。

純粋な感想

「よくある学園モノの日常の謎」だと思って読み始めたのですが、いや、これは全然ほかの作品とは違いますね。

超論理的推理だとか、大どんでん返しだとか、怒涛の伏線回収だとか、そういうものはありません。

ええ、ないんです。

正直最初は超本格ミステリを期待していたのでーー、特に最近は『ジェリーフィッシュは凍らない』『屍人荘の殺人』といった本格が連発していたのもあって、「なんだ、日常の謎かあ」なんて思ってましたすいません。

これは本格ミステリとは別方向の良い作品です。

いずれも読んでよかった、と思える不思議な読後感を残す短編ばかりで、これはしばらく心のに残りますね。

帯には「謎と出会い、わたしたちはすこししだけ大人になる」と書いてありますが、これは青春ミステリであり、純粋な青春小説なのです。

少年少女たちが「少し大人になる瞬間」を見事に描いているわけですよ。

本当に些細などこにでもあるような謎がテーマなんですけど、作品に登場するキャラクターにとってはかけがえのない謎であり、とても大切なものなんですよね。

ああ、これはうまく言葉にできないなあ。

探偵役のキャラクターもクセがあって良いですが、主人公を含めた他の登場人物も実によくて、「みんな大好きだあ!」って言いたくなる感じ。

良いよなあ、青春。羨ましいなあ。

青春好きな方、ぜひ読んでみてください。

 

2 Comments

こはる

いわゆる最近の本格の流れとは違うミステリー….. が、この紹介を読むと箸休め的なイメージで読むと大ダメージ受けそうですねこれは!

記憶に新しい青春ミステリーだと真っ先に思い浮かぶのはやはりかがみの弧城ですが、それとはまた違う匂いがプンプンしますw めっちゃ楽しみです彡(^)(^)

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anpo39 anpo39

ですね!最近の本格の流れとは違いますが、これはこれで良い青春ミステリでした。
どの短編もなんとも言えぬ読後感が残ります。
『かがみの弧城』とも全く違うタイプの青春で、やはりこの作品でしか味わえない特殊な物でした。
鮎川哲也賞受賞作は間違いなしに面白いので、ぜひじっくり噛みしめるように読んでみてください!(*´∀`*)

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