『その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)』、続編『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)』など、ちょっと変わったミステリがお得意の井上真偽(いのうえ まぎ)さん。
そんな井上さんの『探偵が早すぎる』が実に面白い。
この探偵、事件が起こる前にトリックを見破り、犯人を特定してしまうんです。
「人の死なないミステリ」ならぬ「人を死なせないミステリ」なわけです。
『いやちょっと待って、事件が起きてもいないのにトリックを見破れるわけないでしょう!』
と、思ったのなら、もう井上真偽さんの術中にはまっているという事です。
井上真偽『探偵が早すぎる』
父の死により莫大な遺産を相続した女子高生・一華。
その遺産を狙い、一族があらゆる方法で一華を殺害しようとする。
しかし、一華の使用人が雇ったのは「事件を未然に防ぐ」究極の名探偵だった!
というあらすじの連作短編集。
基本的に犯人視点の「倒叙ミステリ」です。
とにかく、早すぎる
一華をどうにかして殺害しようと、一族がいろいろ攻撃を仕掛けてくるのですが、全部探偵に阻止されちゃうんですよね。
まだ犯人は「トリックすら仕掛けていない」のに、どの人物がどのような方法で一華を殺害しようとしているかを見抜いてしまうんですから。
意味がわかりません。
ですから一華ちゃんは、自分が狙われた事にも気が付けません。当たり前です。一華ちゃんにとっては何も起きていないのと同じなんです。
いや流石にそれは無理でしょう、トリックを仕掛ける前に見抜くなんて、と思ってましたが読んでみるとなるほど。ちゃんと論理的に推理している。
誰も気がつかないほんの些細なミスを見つけ、 犯人とトリックを特定させる流れは鮮やか。
洞察力が凄いというか、発想力が異常というか、「そんなのわかるかい!」ってツッコミを入れたくなりますね。
さらに犯人に「なぜこの殺人計画が見抜けたか」を論理的に説明してメンタルをボコボコにしたあとで必殺「トリック返し」でダメ押し。
犯人さん、どんまいです。
しかし憎めない敵の一族
本作が面白いのは、敵のキャラクターが良いから、という部分もあります。
一華を狙う一族は、悪い奴らなんだけど、なぜか憎めない。
コメディチックで漫画に登場するようなキャラばかりなんですよね。
『ふっ、アイツがやられたか。しかし、アイツは我ら一族の中でも最弱……。』
みたいなノリの一族です。
基本的に犯人視点なので、つい犯人を応援したくなりますし、「もうちょっと真面目にやってよ!」と言ってしまいたくなる殺害方法もちらほら。
特に「斜め廊下の殺人」、なんだそのクオリティは。だがそこがいい。
遺産のために一華を殺害しようするなんて最低ですが、それでも憎めない変わった一族の面々です。
下巻からはもう、行動する前に自分でトリックとか説明しだしちゃいますからね。
「ここでアレを行い、このトリックを使ってターゲットを仕留める。これなら完璧だ。はっはっは!」
みたいな。
あかん、それ死亡フラグや……。
でも最初に言わないと、せっかく作ったトリックを誰にも知られる事なく解決されちゃいますからね。かわいそうなので言わせてあげましょう。
見どころ

探偵はどの時点で犯人が一華を殺害しようとしているかがわかったのか?、つまり、犯人はどこでミスを犯したか?を考えながら読むとより楽しいですよ。
わかるはずありませんけど。
上巻ですでに何人かの犯人はしっぺ返しを食らっていますが、まだまだこれからが本番。
下巻ではさらなる強敵(ボスクラス)が登場し、最後まで気の抜けない展開になっています。
遺産を巡って少女を殺害する一族のお話、なんて聞くと穏やかではないですが、結果、
ストーリーもわかりやすいし、ユーモアのあるキャラ設定のおかげで、エンターテインメント小説としても非常に楽しめる作品でした。
漫画やドラマのようにスラスラ楽しく読めるので、お気軽に手にとってみてくださいな。
上巻、下巻とありますが、一冊300ページくらいの薄さで、驚くほどにサクサク読めますのでご安心を。
一華の友達も良いキャラしているので、出番を増やして続編やってくれませんかねえ。
早い! それにつきますね。どう考えたってわかるわけない。こんな物語考えたくなんて井上さんの頭の中はどうなってるんだって思っちゃいますね。それに最後の怒涛の展開は面白かったです。こういう変化球のミステリもアリだなと思わせてくれました
いやあ、本当に早い。これ以上早くしようがないくらい早い。
エンタメ性もあるし楽しく読める。素晴らしいです。
ホントどうやったらこんなミステリ書けるんですかねえ。
井上さんにはこういう変化球を投げ続けていただきたいです!(´∀`*)