『体育館の殺人』に続き、裏染天馬(うらぞめてんま)シリーズの2作目『水族館の殺人』です。
このシリーズはほんと面白いですよねえ。
今回の見所としては、
・モップ、バケツ、トイレットペーパーから導き出される論理的推理
・11人もいる容疑者を一人ずつ的確に容疑から外していく過程
などが挙げられます。これがまた見事でして、ミステリがお好きなら絶対読んでおくべきなわけですね。
ぜひ堪能して見てくださいな(´▽`*)
青崎有吾『水族館の殺人』
風が丘高校新聞部が水族館の取材に行くことになった。学校新聞に地元の水族館を載せるためだ。
館長に案内されながら目玉であるレモンザメが展示される水槽の前へ到着する。
巨大なレモンザメに目を奪われる一同の前に、唐突に血煙にまみれた人が落ちてきた。
眼の前でレモンザメに人が食べられるという衝撃的な映像にパニックになる水族館。
被害者はイルカショーを務める従業員の一人だった。
人の出入りが限られた場所であり、犯行が可能な人物は11人に絞られた。
すぐに犯人が捕まるかと思った警察だったが、調べていく内に容疑者の全ての人に犯行が不可能だったことが明らかになる。
現状を打開するため苦肉の策として警察は裏染を呼ぶ。
不可能犯罪を裏染は崩すことができるのか。
鋭い観察力から導かれる推理が光るシリーズ第二弾。
理路整然と積み上げられる推理がひたすら面白い

引用『モップとバケツと、いくつかの手がかりと……あとは、古くさい論理の問題です』
P.365より
裏染天馬シリーズの面白さは、その圧倒的な論理的推理にあるでしょう。
証拠を集めて、推理するという基本が着実に描かれるだけで、小説はこんなに面白くなるのかと感心してしまいます。
叙述トリックのようなもので誤魔化すこともなく、紙面にきちんと描かれているものだけで推理を成立させる青崎さんの頭の中はどうなっているのでしょうか。
トリック自体は難しいものではありません。不可能犯罪を成り立たせるには、あまりに拙いものです。
その上で様々なことを組み合わせ不可能犯罪が完成しています。
普通は気にしないような小さな事柄でも、きちんとつなぎ合わせていけば立派な証拠になることをこの小説は教えてくれます。
裏染天馬の口から語られる推理は、淡々としていながら推理だけでそこまでわかるのという部分に踏み込みます。
読者としては自分が気づいていた部分、気づいていなかった部分、それぞれにドキドキしながら読めること間違いなしです。
シリーズならではの見所としては、前作から続くキャラクターの登場と新しいキャラクターの関係性があります。
前作から登場している人物たちのやり取りは、1作目の事件を知っているからこそ理解できるものが多数含まれています。
シリーズを通して読んでいる人は読みながらニヤニヤするようなやり取りばかり。
また、新しいキャラクターたちも個性的です。前作から続くキャラクターとのやり取りで彼らの人間性が掘り下げられているのも良いですね。
事件を通してしか知ることのできなかったキャラクターの性格の新しい一面を見ることができ、ラノベ風の面白さも取り入れられています。
推理者と学園モノのバランスを崩さない青崎さんの力量に感服です。
まるでパズルのように推理が組み上がっていくのが気持ちいい!
事件自体に目新しさは少ないのに、僅かな証拠からどんどん完成していく推理はまるでパズルを見ているような気分にさせてくれます。
その上、前作と同じように『読者への挑戦』付きで、読んでいる私達もきちんと証拠を集めて整理すれば裏染のように事件を解決することができます。
今回はスタンダードなアリバイ崩しが話の肝になっています。
推理モノでは古典的な内容ですが、そのぶん青崎さんの力量が光ります。
前作からのシリーズ物であり、登場人物たちも前作から引き続き登場してくれます。裏染天馬とのやり取りにニヤニヤするような場面もてんこ盛りです。
裏染天馬たちの完璧な推理小説組と、学園モノとして青春を謳歌している卓球部組の対比が個人的にはお気に入りです。
もちろん、前作を読んでいない人でも推理には関係ありませんので十分に頭を悩ませてください。
誰でも探偵気分を味わえて、推理も明快なところに推理小説にハマるかもしれません!
『謎の一言で彼女は態度を一変させた』
P.307
2作目と1作目で一番変わったなと思ったのはキャラクターの描き方ですね。
やはりシリーズになるとキャラに深みが出た気がしますね。
前回は謎のまま何も触れられずにいた裏染の家族関係や学校に生活している理由などがちらほら登場し始めます。
個性的なキャラクターたちに厚みが出て愛着が湧くこと間違いなしです!
アリバイ崩しという推理の王道にエンタメ性を加えた傑作

一言でいえば、推理すること自体が面白くなる傑作です。
推理小説で一番のネックである、難解な部分が少なく誰でもすんなりと理解できるトリックで不可能犯罪を作り上げています。
それを裏染天馬というダメ人間が、高校生探偵として崩していく部分は読んでいるだけでワクワクすることができる小説です。
最後までスッキリしない推理小説も多い中で、これほど読後に「なるほど」と納得できるのはありがたいですね。
ただ裏染というキャラクターが捻くれていますので、最後までスッキリとはいきません。
人間の表と裏を鋭い観察力から暴いてしまう彼は、必ず読者をはっとさせる毒を残していきます。
それまでの明るい推理部分とは違う、暗い部分をどう味わうかも一興です。
2作目ということもありキャラクター自体に深みが加わった部分も多々あります。
ぜひ1作目から通して読んでいただきたいシリーズです。
冒頭でも述べましたが、
・モップ、バケツ、トイレットペーパーから導き出される論理的推理
・11人もいる容疑者を一人ずつ的確に容疑から外していく過程
が最高です。
ぜひご覧あれ!

本当に論理性だけで勝負してますよね、このシリーズ。
理数系を嫌い論理から外れた部分が人生を豊かにすると漠然と思っていた少年時代も今は昔。
論理に収まる事にこんなに色気を感じるようになるとは思っていませんでした。
アリバイ崩しと言えば鮎川哲也氏や松本清張氏が著名ですが、読み味が全く違いますね。
そんな鮎川氏ですが、遅ればせながら先日になってようやく、あの「白の恐怖」が文庫化されている事に気付きました。
いつものアリバイ崩しではないものの、寧ろ裏染天馬シリーズに近い楽しさを孕んだ星影龍三ものの本格ミステリでした。
昔の作品も今の作品も、本格ミステリって楽しいっす!
ほんと素敵な論理ですよね。
私もこんな論理にハマるなんて思っても見ませんでした。
ですね、鮎川哲也氏や松本清張氏とは全然違いますよねえ。それでも面白いものは面白い!
え!「白の恐怖」文庫化されたんですか!知りませんでした。これは読まねば。教えていただきありがとうございます(*´ェ`*)
昔も今も本格ミステリの面白さは変わりませんね!幸せです!
推理すること自体が面白くなる←まさにそうですよね
難しいトラックや暗号なら、つい忘れてしまいそうになる「推理することの面白さ」 本当にこのシリーズには正にこれが、この言葉がぴったりだとぼくも思いました
全く話変わりますが(ごめんなさい)、ルメートルの新訳のあの一冊、先日読了し やはりルメートルはルメートルだし 終わり方もルメートルのそれを知らずして期待してた自分に気がつきました
またここでも記事になるでしょう(なりますよね?w)、anpoさんの見解も楽しみにしております彡(^)(^)
こはるさんこんばんは!
いやあ、共感していただけて嬉しいです。推理することが楽しくなるって良いことですよねえ。
おお!ルメートルの新訳もう読まれましたか!私はまだですのでこれから読もうと思います!
私も期待しちゃいますねえ。楽しみです(*´ェ`*)