「推理ゲームの勝者に聖遺物を受け渡す」──。
変わり者の富豪の発案に、世界中のカトリック教会・正教会が威信と誇りをかけて“名探偵”を送り込んだ。
アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジル、各地で選ばれたのは、推理能力だけでなくそれぞれ「特殊能力」を持った超人たち。
そして、ゲーム開始予定の朝、開催地のコテージにて主催者側の弁護士の死体が発見され、推理合戦に突入していく。
AI探偵やクロックアップ探偵、語感探偵や霊視探偵ら、強烈な能力と個性を持つ探偵たちのうち、熾烈な推理ゲームを見事勝ち抜くのは誰か?
そして『聖遺物』と真相の謎とは?
魅力あふれる登場人物たちと華麗な推理合戦が織りなす、壮大で新しいミステリ体験!
探偵たちそれぞれの個性を楽しめるミステリ
このミステリの大きな特徴は、世界各国から集められた複数の名探偵たちが推理という一点で勝負を繰り広げるという設定。
通常一つのミステリに名探偵は一人ですが、この作品では何と4人もの名探偵が一堂に会し、『聖遺物』をかけて推理し合うのです。
数人のヒーローが団結して戦う某映画の、ミステリ作品版と言っても良いでしょう。
本作の構成として、彼らの能力とエピソードを紹介する前半と、日本での推理大会の後半となっており、彼らの凄さやキャラクターを充分に理解した上で推理合戦を楽しむことができます。
それぞれのエピソードはそれだけでも短編となるほど読み応えがあるものの、軽快な書き口と設定で読む側を飽きさせません。
各エピソードを読み終わる頃には、魅力的な名探偵たちとこの物語にしっかりと引き込まれているはず。
本編全体を読み終えた時には、それぞれの“推し名探偵”ができていることでしょう。
「各キャラクターが主人公のスピンオフ作品を読みたい」という感想も数多く見受けられるほどの作品です。
披露される数々のトリックと、大風呂敷を裏切らない予想外の結末
本書には複数の名探偵たちが登場するということで、披露されるトリックの数も膨大。
いったいいくつのトリックが!?と驚くほど、フーダニット・ハウダニットの種明かしが楽しめます。
個性的な名探偵の面々が織りなす、軽快なやり取りも見どころの一つ。
文章のところどころに小ネタや注釈を挟みこむことで読者を楽しませるという作者の特徴が、個性豊かな人物たちの掛け合いという設定に見事にマッチしています。
それでいて、拡げまくった大風呂敷を綺麗にたたむということも作者は忘れません。
『聖遺物獲得のために富豪によって集められた名探偵たち』というだけで読者のハードルは上がりまくるわけですが、作者はそのハードルをやすやすと乗り越えられるほどの衝撃の末を用意しているのです。
聖遺物はいったい誰の手に渡るのか?
数々の名探偵たちのうち、ゲームに勝利して“真の名探偵”となるのは誰なのか?
聖遺物とはいったい何なのか?
たくさんの謎とトリックがあなたを待ち受けています。
最強対最強!ミステリ界のアベンジャーズ
推理力×特殊能力を持ち合わせた最強の名探偵が集められて推理ゲームを戦うという、斬新な設定から始まる本作。
設定ばかりに注目されがちですが、その読み応えというものも折り紙付き!
作者の似鳥鶏氏は1981年に生まれ、2006年に第16回鮎川哲也賞に佳作入選し2007年にデビューしてから、これまで5つものシリーズ物、10を超える短編集を発表し、たくさんのアンソロジーにも寄稿してきました。
その実力は相当なもので、“戦力外捜査官シリーズ”はテレビドラマとして映像化され、作者の代表的な作品となっています。
一方『推理大戦』はこれまで発表されてきたシリーズものには属していないので、これまでこの作者の著作を一度も読んだことのない人に対して、「初めての似鳥作品」としておすすめできる一作!
作品の特徴の一つである、小ネタがたくさん含まれた軽快な文章を読むのが好きな人が読めば、きっとこの作者の文章の虜になることでしょう。
本作を読んで作者の他の作品に興味を持たれた人は、ぜひ他のミステリ短編集やホラー短編集、シリーズ物を呼んでみてください。
特に入選作・デビュー作でもある『理由(わけ)あって冬に出る』は、筆者の母校に対する想いが込められており、必読とも言えるでしょう。
世界各地の名探偵たちが集結するという、まさに“ミステリ界のアベンジャーズ”とも言える本作。
ミステリ好き・似鳥作品好きの人にはもちろん、設定を見て気になったという人にもぜひ読んでいただきたい作品です。


