仕事をクビになり、同棲中の恋人にも裏切られたジュールズ。
途方に暮れていたところ、高級アパート「バーソロミュー」の求人情報を知る。
そこで3ヶ月暮らせば、月に4千ドル、3ヶ月で1万2千ドルの報酬がもらえるというのだ。
渡りに船と、入居を決めたジュールズ。
しかしバーソロミューには、奇妙な居住条件があった。
他の住人の詮索や邪魔は禁止。夜は必ずアパートに戻ること。友人も家族も招き入れてはいけない。
それでも他に行くあてのないジュールズは、疑問を抱きつつも暮らし始める。
ところが初日の晩から、薄気味の悪い現象が次々に起こり……。
胡散臭いアパートで起こる数々の謎現象
『すべてのドアを鎖せ』は、マンハッタンを舞台としたホラー・サスペンスです。
「鎖せ」は、「とざせ」と読みます。
ドアを全部とざす=逃げ場をなくす、ということですから、実に恐ろしげなタイトルですね。
プロローグも衝撃的で、主人公のジュールズが、流血と激痛で苦しんでいるところから始まります。
いきなりの血みどろ展開ですよ。
ジュールズはどうやら、バーソロミューから逃げてきたようで、そこに戻ることをひどく嫌がり、怯えている様子。
この段階で読み手は、
「バーソロミューって何?一体何があったの?」
と、続きが気になるはずです。
その直後、本編が始まります。何が起こったのか、プロローグの6日前から順に状況が語られるのです。
具体的には、
「バーソロミューという高級アパートに住むと、高額の報酬がもらえる」
という胡散臭い話に、主人公が乗ってしまうところからスタートします。
高級なのにタダで住めて、その上報酬までもらえるなんて、何か裏があるに決まっていますよね。
そして住んでみると案の定、起こるわけですよ、怪しすぎる出来事が次々と。
まずは深夜の不気味な物音ですが、こんなのは序の口。
配膳用昇降機が勝手に動き出したり、他の住人が突然消えたり、いわくありげなアイテムが出てきたり。
とにかく恐怖展開がジリジリと続きます。
そして5日前、4日前と日が進むたびに、怖さがどんどん増していくのです。
こんなのもう、読めば読むほどハラハラしてきて、先を読まずにはいられなくなりますよ。
そして恐怖心が十分に高まったところで、物語は後半に入り、戦慄の真相が一気に明かされることになるのです!
怒涛のスリルを主人公の目線で楽しめる
後半ではジュールズが、バーソロミューの血塗られた過去を知ります。
愕然としたジュールズは、
「一刻も早くこのアパートから出なければ!」
と焦るのですが、ここからがまた恐ろしい!
なにせタイトルが『すべてのドアを鎖せ』ですからね、そう簡単に逃げられるわけがありません。
希望が見えたと思いきや、事態が二転三転し、絶望の淵に追いやられてしまいます。
「助かるかも!」「もうダメ、助からない!」これが怒涛のように続きます。
このあたりは、本書最大の見どころですよ。
とにかくスリリングで、スピード感があり、まるでジェットコースターのように恐い展開を楽しめます。
また、ジュールズがとても良い子で、心優しく健気なところもポイントです。
不幸な境遇にもかかわらず、それに負けず前向きに生きようとしている姿には、好感が持てます。
だからこそ読者は、「この恐怖空間から何としてでも逃げてほしい」と、応援したくなります。
そしてジュールズの目線で驚いたり怯えたりしながら、共にゴールを目指せるのです。
この主人公との一体感が、物語を一層リアルに楽しませてくれます。
その後ジュールズは、プロローグにあった血みどろの状態になるのですが。
その先どうなるかは、ぜひご自身で読んで、楽しんでみてくださいね。
ビックリのオチが待ち構えていますよ!
恐怖の裏にある社会の深い闇
『すべてのドアを鎖せ』は、世界20ヵ国で翻訳された、大ベストセラーです。
著者のライリー・セイガー氏は、ジャーナリストとグラフィックデザイナーを経て作家になったそうで、その鋭い洞察力と、見る者を圧倒する表現力は、世界的に注目されています。
なんとデビュー作で、いきなり国際スリラー賞を受賞したくらいです。
本書『すべてのドアを鎖せ』は、このライリー・セイガー氏の3作目にあたります。
不気味なアパート内で、怪奇現象に恐怖しつつ謎を暴いていくという、ホラー感満載のミステリーです。
謎といっても、推理が必要なタイプのミステリーではなく、スリリングな展開を楽しむタイプです。
さすが元グラフィックデザイナー、読み手を怖がらせたり焦らせたりする表現は、超一流!
しかも文章のテンポが非常に良くてパワーがあるので、最後まで退屈することなく、一気に読ませてくれます。
そして『すべてのドアを鎖せ』は、怖いだけの物語ではなく、深く考えさせられる要素もあります。
富裕層と貧困層との格差問題です。
主人公のジュールズや、他の住人たちは、基本的に貧しい側の人間です。(だからこそ、こんな怪しげなアパートに住もうとするわけですね)
彼らは不当な扱いを受け、生活は貧しく、性格はどこか卑屈で悲観的。そのみじめな生き様が、物語の随所に描かれています。
読んでいて胸が痛みますし、「この格差こそが、悲しい歴史を生み出すのでは?」とさえ思ってしまいます。
そしてこれは、著者ライリー・セイガー氏が、本書を介して世界中に届けようとしているメッセージなのかもしれません。
息もつかせぬスリルを味わいたい方にはもちろん、格差という社会の闇が気になる方にも、この『すべてのドアを鎖せ』はおすすめです。
手に汗握る展開とダークな世界観に、あっという間に魅了されることでしょう。
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