一見ありふれた殺人事件が、主人公の登場によりまるで「ファンタジー」と化す、エモーショナルなミステリー作品となっている本作。
今年で30周年となる「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」の最新作となっていますが、前作との繋がりもないので本作から読んでも全く問題なく楽しむことができます。
精緻なロジックと鮮やかで品の良い文章、物語性豊かな世界観が読者を魅了し続ける作者・有栖川有栖さんが放つ、人間の優しさと哀愁が感じられる本格ミステリーとして話題を呼んでおります。
コロナ渦の中でお互いがお互いを思う気持ちや「どこで間違えてしまったのだろうか?」とハラハラする展開はとても中毒性があるため、謎解きをしながら本格的なミステリを読むことができるというのが一つの魅力となっています。
しかし登場人物たちは互いに矛盾や謎を抱えていて、一見平凡に見える事件から受ける彼らの印象も一致しません。
物語の前半では登場しなかった新たな事実が後半で明らかにされるなど、読み進めていく中で予想の斜め上をいく叙情的な展開が待ち受けています。
最後まで読んだ時点で明かされる事件の意外な真実、そしてそこに至るまでの物語の流れに、読者は大いに驚かされることになるでしょう。
読み進めるうちに本格ミステリーの渦に呑み込まれていく
『奇妙な風習が蔓延したかのごとく、誰もが顔の下半分を隠している。』の一節から、物語はコロナ禍の現代であるとすぐにわかる序章。
推理作家・アリス(有栖)が外出自粛を徹底しながら執筆活動をしていたものの、コロナ禍で調子が狂ってしまい執筆活動が捗らず、気分転換のために近場へ旅に出るところからはじまります。
ミステリーは〈この世にあるものだけで書かれたファンタジー〉と捉えているアリスが、旅先で新聞社に勤務する因縁の記者にバッタリ会い「男が殺された事件があります。死体が見つかったのは5日前です」と話し掛けられるシーンから徐々に不穏な空気になり、これから真相究明の渦に巻き込まれることを予感させます。
そして捜査が進むにつれて「事件を惑わすジョーカーは誰なのか…」という謎に、読者はハラハラさせられるというわけです。
登場人物によって異なる事実の受け止め方や認識のズレ、明らかにされる事実に、読者は次々と翻弄されていくことになります。
本格ミステリーの渦に呑み込まれながら、話に振り回されるような楽しさを感じられるでしょう。
旅情サスペンスとしての楽しさとエモーショナルなミステリーの雰囲気
アリスと共に推理する物語の主人公・臨床犯罪学者の火村先生は数々の難事件を解決へと導く名探偵。
しかし今回は珍しく「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」という帯の文言通り、事件の鍵を握る不気味な「ジョーカー」の存在に惑わされるという設定も、本書の印象を決定づける大きなカギの一つ。
じっくりと様々な証言を得ながら少しずつ着実に事件の真相へと近づく過程は、直球寄りの変化球的なトリックを暴く火村先生と、エモーショナルな犯人の動機を紐解くアリスの名コンビのテンポの良い掛け合いを楽しみながら読み進める形になるため、本格推理ミステリーの面白さをより際立たせます。
舞台は関西地方となっており、その土地ならではの電車の名前や地区名など登場しながら船に乗る描写などがあるため、読み進めると一緒に旅をしている感覚もあり、旅情サスペンスとしても楽しめること間違いなしです。
タイトルさながら「夕陽」が背景としてしばしば提示される展開は、日々の喧騒から逃れて綺麗な夕焼けを眺めたくなることでしょう。
こういった雰囲気をミステリーと同時に味わえる“旅情サスペンス推理ミステリー”としての魅力が、本書には詰まっているといえます。
旅情サスペンスを兼ねた本格ミステリーならコレ!
大人気シリーズの30周年に相応しい最新作として、新刊が出されることとなった本作。
発売されたばかりですが、すでに本格ミステリーファンの趣向を詰め込んだ傑作として絶大な評価を得ており、本格ミステリー好きはもちろん、旅情サスペンスを堪能したいという方にとってはもはや必読のミステリー小説と言っても過言では無いでしょう。
火村先生&アリスの多重推理と緻密な捜査、人間関係に主眼が置かれ丁寧に掘り下げる展開は過去の繋がりに深みを与えある種のファンタジーを感じられるため、謎が解明されていくと共にエモーショナルな余韻に驚かされることになります。
ミステリーとしての軸はブレずにラストは全体を通した謎を解き明かしながら、一緒に旅をしているかのような雰囲気・臨場感が見事なため、ミステリー小説に興味が無くても引き込まれるほどに、本書は“旅情サスペンスものとしての面白さ”も十分に兼ね備えているということができるのです。
ミステリー好きの方、旅情サスペンスものに興味が湧いた方、ただただ読み応えのある本格ミステリーを読みたい方など、ミステリーや読書が好きな方は読んで損はないハズ!
新刊が出版されたこのタイミングで、ぜひ一読してみてください。
いつも楽しみに拝見してます
このサイトのおかげで出会えた本も多数で感謝の気持ちでいっぱいです
しかしながら、しばらく前から紹介文の使い回しが気になります
多忙な中の更新であろうとは察せられますが、そこまで無理して更新されなくても良いのではないかと思ってしまいます
失礼な書き込み申し訳ありません
はま様、こんばんは。
anpo39です。
ご指摘ありがとうございます。
確かに、読み返してみても、不自然な使い回しが目立ちますね。
ご不快な思いをさせて本当に申し訳ございません。
今後は文章の使い回しにも気をつけながら、更新していきたいと思います。
申し訳ございませんでした。