加納朋子『空をこえて七星のかなた』- 読めばきっと心が洗われる、星が繋ぐ7つの連作短編集

小学校を卒業した翌日、父親に唐突に誘われて石垣島に旅行することになった七星。

去年までは母親も一緒だったが、今は父娘の二人だけ。

あまり気分が乗らない七星だったが、やがて石垣島での意外な人物との出会いから、この旅行の真の意味が明らかになり―。

「星」にまつわる7つの物語を、温かく、切なく、感動的に紡いでいく傑作短編集。

各物語には確かな繋がりがあり、最終話でひとつの壮大なストーリーとなって美しく輝く。

読み終えた時、優しさで胸がいっぱいになる一冊です。

目次

とびきりの爽快感と感動を味わえる7話

『空をこえて七星のかなた』は、「星」を中心に繰り広げられるロマンたっぷりの短編集です。

全7話あり、家族の物語だったり、青春ドラマだったり、SFだったりとテイストが異なっており、それぞれに違った味わいがあります。

また各話が独立しているように見えて、実は繋がりのある連作短編集だというところも特徴。

物語ごとに舞台も主人公も違っているので、最初のうちは繋がりが見えないのですが、最終話になるとハッキリとわかるようになります。

それまでの全話において、ある人物が中心にいたということを。

気付いた時の衝撃と爽快感はとてつもなく大きく、それだけでも『空をこえて七星のかなた』は読む価値があると断言できます。

見どころや読了後の感動も多く、「読んで良かった」と心から思える作品です。

各話のあらすじと見どころ

『南の十字に会いに行く』

12歳の少女・七星が、父親・北斗に連れられて、石垣島に旅行に行く物語です。

母親は「去年はいたけど今はいない」ので、父娘の二人旅となります。

最初はノープランのように思えた旅行ですが、徐々に大きな目的があったことが明らかになり―。

思春期で、父親に対してちょっと斜に構えている七星と、頼りないけど愛情いっぱいの北斗の、不器用な親子関係が見どころ。

『星は、すばる』

小4の美星は、旅先で出会った王子様みたいな子と「一緒に宇宙飛行士になろう」と約束し、その夢を大事にしています。

でもある日、クラスメートのコータが振り回した枝で目を負傷し、夢を閉ざされてしまいます。

責任を感じたコータは、自分が美星の目の代わりになろうと日常の様々なことをサポートするのですが、美星はコータを許せず、意地悪ばかり言ってしまい……。

少年少女のピュアでほろ苦い物語。

大きな後悔と責任感から献身的に尽くすコータの姿に、涙腺が緩みます!

『箱庭に降る星は』

高校の弱小文化部3つが合併してできたスペースミステリー部が、生徒会の副会長と共に、学校内のトラブルを次々に解決していく物語。

ラノベタッチでありながら骨太ミステリーで、読み応えがあります。

副会長が、眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能のパーフェクト超人なのに、情にもろいお人好しなところが素敵!

『木星荘のヴィーナス』

慧子の祖母が営む賃貸アパート「木星荘」に引っ越してきた、従兄のお兄ちゃん。

モデルのKanaeのファンらしいのですが、実はお兄ちゃんの前に住んでいたのが、まさにそのKanaeで……?

もしも一般人の身近にスーパースターがいたら?というドキドキハラハラの物語。

美人で頭も性格も良いKanaeさんが眩しいです。

『孤舟よ星の海を征け』

大勢を乗せた宇宙船が、小惑星と接触!

大混乱の中、船内の人々は愛する人を何とか脱出させようと苦心します。

少年カイトも、父親がコールドスリープ状態で逃がしてくれたおかげで生還し、ドクター・マイアのもとでリハビリを始めます。

しかしこの事故には、実は衝撃的な真相があり……。

涙なしでは読めないSF傑作です!

『星の子』

第一話の七星が、中学生になって再登場します。

俳優の娘・水輝と知り合い「お互い有名人の娘」ということで友達になります。

実は七星の母親も、ある分野における有名人だったのですね。

その真相が明らかになると共に、これまでの物語との繋がりも見えてくるので、クライマックスへと向けて胸が高まっていきます。

『リフトオフ』

これまでの登場人物たちによる、オールキャスト大団円!

あらゆる伏線がきっちり回収され、美しいまでのハッピーエンドを迎え、読了後は心がポカポカになること間違いなし!

大きな余韻と満足感とに浸ることのできる、ラストにふさわしい物語です。

最高の読後感を味わい、前向きになれる傑作

上の方でも述べたように、『空をこえて七星のかなた』には7話全部に軸となる人物がいます。

その人物は大きな夢を抱いていてたぐい稀な才能を持つものの、叶えるためには大変な努力が必要でしたし、越えなければならない数々の思いもありました。

それを応援しサポートしていたのが、七星や北斗、美星といった各話の主要人物たちなのです。

そして最終話でついに夢が叶い、その人物が幸せそうに旅立って行くところを、全員で見送るわけですね。

つまり『空をこえて七星のかなた』は、一人の人物が夢を追い、実現させるまでのサクセスストーリーを見守ってきた人々の物語と言えます。

応援する側の視点で物語が進行していくため、読み手も自然に応援する気持ちになり、だからこそ夢が叶った最終話では、本心から「良かったね!」と祝福できますし、嬉しさでいっぱいになります。

個人的にはその人物だけでなく、美星が夫と幸せそうにしている様子もすごく嬉しく思いました。

しかも夫くん、眼科医なのですよ。良かった、本当に良かった……!(感涙)

また、夢を持つことの素敵さと厳しさ、培ってきた人間関係の尊さが押し寄せてきて、「自分も頑張ろう!」という気持ちになれるところも素晴らしいです。

とにかく読後感が最高に心地よい作品なので、ぜひたくさんの人に読んでいただきたいです。

きっと心が洗われ、素敵な未来へと進むための糧になるでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。主に小説全般、特にミステリー小説が大大大好きです。 ipadでイラストも書いています。ツイッター、Instagramフォローしてくれたら嬉しいです(*≧д≦)

コメント

コメントする

目次