『メインテーマは殺人』に次ぐ、元刑事ホーソーンと小説家ホロヴィッツのシリーズ第二作目。
ドラマの脚本家でもあるホロヴィッツがドラマの撮影に立ち会っていたところ、元刑事の探偵・ホーソーンが急に現れます。
ホーソーンは再び殺人事件を捜査することになり、前回同様その事件についても本にするためにホロヴィッツに依頼しに来たのでした。
今回の被害者は離婚案件を扱う弁護士で、その殺害方法は何と裁判の相手方の口走った脅し文句通り、未開封のワインボトルで殴打され、砕けたボトルで喉を刺されたというもの。
現場にはペンキで「182」という不可解な数字が残されています。
被害者は裁判の相手に殺されたのか?「182」が意味するところはいったい何なのでしょうか?
古き良き本格、でも新しい『その裁きは死』
前作での事件同様、一筋縄ではいきそうにない事件。
「著者がそのまま語り手として事件を記録」「事件の真相解明のための手がかりは全て読者に開示されており、“フェア”な状態」という前作の特徴は、そのまま今作に引き継がれています。
前作においても性格に難のある人物として描写されているホーソーンは、今作でほんの少し情報が開示されるものの、やはり大部分は謎のまま。
事件を本としてまとめたいホロヴィッツはホーソーンに推理を聞こうとするものの、ホーソーンはいつまで経っても真相を教えてくれず、ホロヴィッツはだんだんいらだってきます。
そんな中でも何だかんだと言ってお互いへの信頼が見え隠れする二人の関係性が、この小説の見どころの一つでしょう。
自分なりに推理をするものの全く的外れの論理を繰り広げてしまい、探偵には真実をはぐらかされる……まさにシャーロックホームズシリーズのホームズとワトソンの関係そのままですよね。
極めつけにはホーソーンのことを良く思わない警部も出てくるのですから完璧です。
さて、謎解きの部分も前作同様、または前作以上のクオリティを保っています。
どんでん返しに次ぐどんでん返しで、真相に驚くこと間違いなし。
もちろんちりばめられたヒントを手掛かりに自力で犯人を特定するという楽しみ方もできます。
真相を全て知った上で改めてタイトルを見れば……きっと衝撃と共に納得していただけるはずです。
またこのシリーズは、ホロヴィッツ自身が物語に関わってくるというのが大きな魅力の一つ。
実際、彼はドラマの脚本化も務めていますが、冒頭の部分ではその立場を大いに生かしています。
ミステリー小説が苦手な人でも容易に世界に入り込めるのは、こうした現実と物語を混ぜ合わせるような、ホロヴィッツならではの書き方によるものでしょう。
当然、犯人が誰なのかということを推理しながら読んでいきますが、今回も犯人を当てることはできませんでした。
うっかり取りこぼしてしまうような些細なヒントや伏線が散りばめられおり、犯人探しが非常に楽しめるものとなっています。
そして、現場に残された「182」という数字は一体何を意味するのか、という謎も純粋に魅力的。
あらゆる伏線と謎が一気に回収されていく終盤はやはりたまらないですね。古き良き本格の味がして非常に良いです。
最後はもちろん大いに騙されました。最高です。
話自体はやや長めで、登場人物もかなりたくさんいますので、メモを取りながら読むとより作品を楽しむことができます。
ミステリ好きなら読まなきゃ損!
本格ミステリーものとして申し分ない面白さと骨太のストーリーを備えているのは前提として、バディものの小説としても光るもののある作品となっています。
何と言っても、シリーズの続き物ということで一作目のような細かい設定の説明が不要になってくるのがポイント。
登場人物等の細かい説明が無い分テンポよく話が進んでいくので、物語にグッと引き込まれる感覚があります。
相変わらずホーソーンの情報については多くが隠されていますが、それはそれとして時折優しさが垣間見えるので、ホーソーンも憎むに憎み切れません。
どうやら今後十作まではシリーズが続くことが決定しているようなので、今後の情報解禁に期待したいところ。
前作「メインテーマは殺人」をすでに読んだという方はもちろん、このシリーズは未読という方も、今ならすぐに追いつけますのでぜひ読んでみてください。
おまけとして、今作はシャーロックホームズオマージュの描写が多いのもポイントの一つ。
ホームズを知らなくても読めるけど、知った上で読んでみるとクスッと笑える、そんな往年のミステリーファンへのサービス精神にあふれた作品となっています。
物語に入りやすいという点、話自体はやや長いがテンポよく読み進められる点、ホロヴィッツならではの面白要素がそこかしこに散りばめられている点など、ミステリー小説としてかなり満足度の高い作品です。
ぜひお手にとってみてください。

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