アフィリエイターをしながら探偵事務所を営む暗黒院真実(あんこくいんまこと)。
その助手で、翠色に輝く左目を持つ女子高生・小鳥遊唯(たかなしゆい)。
ある日二人は、フィールドワークのためにN県の山奥に訪れたが、途中で日が暮れてしまう。
困っていたところ、蛇守と名乗る現地の男性に案内され、洋館「蛇怨館」に宿泊することに。
その夜二人は、この地にまつわる昔話を聞かせてもらった。
かつて飢饉が村を襲った時、村に毎月一度、手足の生えた大蛇が現れるようになったらしい。
村人はそれを捕え、首と手足とを斬り落として殺し、焼いて食べることで飢饉を乗り越えた。
飢饉が終わると蛇は現れなくなったが、代わりに今度は森の中で毎月、首と手足のない変死体が見つかるようになったという。
ただの昔話だと思っていたが、聞いた翌朝、まるでこれを再現するかのように蛇守家の主人が殺されていた。
頭部と両手両足とを持ち去られた肉塊となり、蛇の死骸と一緒に横たわっていたのだ。
果たしてこれは、蛇神様の祟りなのか、それとも人間の手による殺人事件なのか。
暗黒院と小鳥遊は、真相を掴むべく調査に入るが―。
イタすぎる探偵と毒舌美少女
『その謎を解いてはいけない』は、探偵・暗黒院と、左目だけ生まれつき翠色をしている女子高生・小鳥遊が、数々の奇怪な事件を解決していくミステリーです。
翠色の目というと、作家・相沢沙呼さんの「城塚翡翠シリーズ」に登場する美少女の霊媒探偵・翡翠を思い出しますが、小鳥遊は全く違うタイプです。
翡翠はフワッとした妹キャラですが、小鳥遊は見た目こそ可愛いものの性格はシニカルで、歯に衣着せぬ毒舌でツッコミまくるキャラ。
一方探偵の暗黒院も、名前こそカッコいいのですが、中身はコテコテのオタクです。
黒いマントに身を包み、片目にだけカラコンを入れて、「すべてを見通す眼」とか「我が眼に宿りし力」とか、いかにも中二病くさいことを言っているイタい独身28歳です。
ちなみに暗黒院真実という名前もただの自称であり、本名は田中友治と、いたって普通。
このイタすぎるアラサー探偵と、毒舌美少女の小鳥遊が、行く先々で様々な事件に遭遇しては、すったもんだの末に解決していくというのが、『その謎を解いてはいけない』の大筋です。
キャラ設定からわかるように、シリアスなミステリーでは決してなく、ツッコミどころ満載でユーモアに溢れるライトなミステリー。
それでいて、不気味な怪異絡みの殺人事件が起こったりトリックがあったりで、本格ミステリーの様相もしっかりと見せてくれるので侮れません。
連作短編集となっていて、全5話ありますが、第4話と第5話は前編と後編という扱いなので、実質全4話ですね。
それぞれに趣向が凝らされていて、事件のパターンが異なっているため、最後まで飽きることなく楽しめます。
人の黒歴史を暴く探偵
『その謎を解いてはいけない』の一番の見どころは、なんといっても事件の真相ではない部分を暴くところです。
探偵モノと言えば、普通は探偵が事件を調査し、真相を見抜いて、犯人との決戦を経て解決に向かわせる、という流れですよね。
でも『その謎を解いてはいけない』の探偵は、とてもイタ~いオタクであり、お世辞にも優秀とは言えませんし、探偵らしい正義感も持ち合わせていません。
そのため彼が暴くのは、事件の真相ではなく、関係者たちの黒歴史。
本来ならば犯人の正体や犯行手口を言い当てなければならないところが、そこはスルーして、代わりに人の恥ずかしい過去を探り出しては、「あなたはあの時、あ~んなことをしていましたよね」的に暴露しまくるのです。
これ、やられる側はたまったものじゃないですよね。
誰しも若気の至りだったり、流されたり欲に負けたりで、人生の恥部と言える過去のひとつやふたつを持っているものです。
それを暗黒院は、Twitterのアカウントハックなどで調べ上げ、関係者たちの前で大暴露!
徹底的な「辱めタイム」で、犯人を含む登場人物たちをどんどんやり込めていきます。
あまりに恥ずかしい過去が列挙されるので、読みながら可哀想になって、「もうやめてあげて~」って言いたくなるくらいです。
でも面白いから、ついどんどん読み進めてしまう(笑)
もちろん肝心の事件の真相もしっかり明かされますよ。
でも、ウエイトは黒歴史の暴露の方が上というか、読者の興味はそこにこそ引っ張られるのですよね。
ということで『その謎を解いてはいけない』は、単なるコメディ系ミステリーではなく、恥ずかしい過去に悶える人々の様子が見どころの、ちょっと陰湿だけれどそこが面白い作品と言えます!
サブカルネタも楽しめる変わり種
『その謎を解いてはいけない』の作者・大滝瓶太さんは、理系のロジック満載のSF作品や、エッセイ、コラムなどで知られる作家さんです。
それが本書は全く毛色が違っているので、大滝さんのそれまでの作品や著作物を読んだ方は面食らうかもしれません。
でも読み続けずにはいられない強い吸引力がありますし、大滝さんの新たな一面が見れて、改めてファンになる方も多いかも?
また『その謎を解いてはいけない』には、主人公の暗黒院を始め、いわゆるオタク系の人物が多く登場します。
全身黒ずくめの暗黒院とは対照的に白ずくめだったり、魔法少女ファッションで身を固めていたり、格闘ゲームを極めた武道家だったり、それぞれ実に個性的。
元ネタとなるアニメやゲームのセリフなども出てくるので、わかる人が見れば思わずニヤリとしてしまうことでしょう。
こういったサブカルチャーネタを堪能できるところも、本書の大きな特徴ですね。
とにかく様々な部分で面白さを感じることのできる、目新しいタイプのミステリーです。
ぜひ読みながら、笑ったりツッコミを入れたり、オタクネタにウンウンうなずいたりして、楽しんでください。
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