狂気的な世界観がお好きな方、お待たせいたしました。
曽根圭介(そねけいすけ)さんのおすすめ名作ホラー『鼻』『熱帯夜』のご紹介です。
『鼻』『熱帯夜』はどちらとも3編からなる短編集となっておりまして、そのどれもが「救いがない」とか「後味が悪い」とかそんな感じのお話です。
しかも物語自体がちゃんと面白く、短編にするのが勿体無いくらいに舞台設定がしっかりしています。
ただイヤな気分になるだけではなくて、独特すぎる世界観にグッと引き込まれるんですよね。どちらの短編集もほんとに名作だと思います。
ホラー小説がお好きな方、ぜひご覧になってみてください(*´∀`*)
『鼻』
表題作『鼻』は、やはり名作です。というか「上手い」。
この世界の人々は、「ブタ」という人種と「テング」と呼ばれる下層人種に差別されています。「テング」の人々がそりゃもう酷いくらいに迫害されているんですね。
で、そんな世界の医者である”私”は、亡くなった妻にそっくりの女性と子供に出会い、転換手術をしてほしい、と助けを求められます。
しかし、この世界で転換手術をするのは違法であり”私”は悩みます。
という話の一方で。
二人の少女の行方不明事件を追う、ちょっと変わった刑事の”俺”の物語が交互に展開されていきます。
小説をよく読む方ならお察しかと思いますが、二つの物語はやがて繋がりを持ち始めます。
一体どうやって、つながっていくのか・・・ってところが見所なわけですが、最後まで読むと「うわあああ!そうくるかあ!」ってなります。
ただ、しっかり読んでいないと驚愕できないかもしれませんので、焦らずじっくりと読むことをおすすめします。
それでもわからなければ、この作品の「解説」にネタバレが載っているので、そこを読むといいかもしれません。
もちろん先に「解説」を読んではダメですよ!
『暴落』
人間の価値が全て株式市場によって決められる社会を描いたお話。
人はみんな「株」に左右されていて、良いことをすれば自分の「株」は上昇するし、悪いことをすれば自分の「株」は下がる。
この世界では自身の株が全てです。
なのでお年寄りに席を譲るのもみんな必死なんです。少しでも良いことをして自分の株を上げようと。
友達の中に悪いヤツがいると自分の株まで下がってしまうので、友達の縁を切ります。縁を切るには、その人の株を全部売ってしまえばいいのです。
もし兄弟の縁を切りたければ、その人の株を全部売ってしまえば兄弟ではなくなります。
そんな世界です。
この『暴落』は、そんな社会の中で一流の〈エリート圏〉にいた主人公が、まるで人間扱いされない〈不審者圏〉に暴落するまでを描いた物語。
設定が面白くてグイグイ引き込まれますし、なにより展開とオチも狂気じみてて実に良い!
『受難』
目が覚めたら、ビルとビルの間の狭くて汚い場所に、手錠で繋がれて拘束されていた男の話です。
もう面白そうでしょ?!
俺がいるのは、都市に無数にある空間、薄暗くてかび臭い、ビルとビルの間だ。
どのビルも壁はコンクリートがむき出しで、地面は簡易舗装すらされていない。壁際には側溝が走り、異様な色をした水が、ゆっくりと流れていた。
周囲には段ボール、錆びた自転車、壊れたテレビなどが散乱している。粗大ゴミや資源ゴミの、不法投棄場になっているらしい。
P.109より
なんでこんな場所にいるのか全く思い出せないんです。
体はアザだらけで、携帯も財布もない。手錠は固く鉄パイプと繋がれており、手首を切り落とさない限り、脱出は不可能そう。
でも、20メートルほど先には、出入りするための鉄扉があるんです。しかもその向こうには車の行き交う音が聞こえていて、人通りもありそうなんです。
ビルの解体工事の音も聞こえているので、近くに人がいることは間違いない。
なので、ちょっと安心。きっと誰かが来てくれると、最初は思っていました。
でも、二日経っても誰もこない。飲まず食わず。このままだと確実に死んでしまいます。
さすがに喉の渇きが限界。
側溝に流れる酷い色の水を飲むしかないのか・・・。
と覚悟を決めた時、出入り口の鉄扉が空いた。
というように、想いが通じたのか男の前に人が現れるんですよね。
「ああ、これで助かった」と思うじゃないですか。
でもね、これ曽根さんの作品なんですよ。そんなうまい話になるはずがありません。
最悪と言いますか、理不尽と言いますか、救いがないと言いますか、登場人物全員が”おかしい”んです。
ああ、気分が悪い……。
『熱帯夜』もぜひ!
『熱帯夜』『あげくの果て』『最後の言い訳』の3編が収められた作品集です。
まさに8月の熱帯夜、ヤクザに監禁されたボクと友人・藤堂の妻。
友人の藤堂本人は、ボクたちを人質にして金策に走る。果たして友人はタイムリミットまでに帰ってくるのか?という物語。
『走れメロス』っぽい感じですけど、もちろんあんな風にはいきません。まさかの展開に流れていき、期待通りの結末が待っています。
ブラックユーモア最高!
『最後の言い訳』はまさかのゾンビもの。
ゾンビにあふれた世界でのお話なんですが、あまり多くは語れません。でも、すごく好みのお話です。
世界観が素晴らしいのと、終盤へ向けての伏線の忍ばせ方とか展開、そしてオチが本当に見事。
この3編の中で一番好きかもしれない。
おわりに
というわけで何が言いたいのかというと、『鼻』と『熱帯夜』の二つの短編集を超おすすめするよ!ってことです。
「ブラックユーモア」とか「後味の悪い話」とか「狂気じみた世界観」とか「救いがない」とか、そういうお話がお好きな方にはピッタリ。
作家さんでいえば、平山夢明さんとか小林泰三さんの短編の世界観に近いかな?(似ているようで全然違うんですけどね)。
このブラックな感じ、好きな人は絶対好きです。
ぜひ、ご覧あれ。
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