タイトルから感じられる難しさとは裏腹に、読んだ人が口をそろえて「読みやすい」「読書を趣味としていない自分でも気付けば読み終えていた」と言わせてしまう珠玉の短編集、それが伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』。
そんな魅力的な本書をご紹介していきます。
逆ソクラテスのあらすじ
5つの短編の登場人物はなんとすべて小学生。これは伊坂先生初の試みです。
この5つの話すべてに当てはまるのは、先入観やミスリード、思い込み、勘違い・・・日常の中に潜む善悪など。
キーワードは「いじめ」「教師いじり」「虐待疑惑」「SNS」「スポーツ」等どこにでも転がっている題材。
そこに小学生の時に経験したイベントがうまく組み合わさっていて、大人が読むと懐かしい感じに、子供が読むとあるあるネタとして自然と読み進められる。
小学生が体当たりで大人を巻き込みながら、もがいて学んでいきながら進んでいく、スピード感と小学生ならではの行動力や元気さを感じながら楽しめる一冊となっています。
1.『逆ソクラテス』
本書の表題ともなっている作品。
担任からピンクの服を着ていただけで「女みたいだ」と言われ、それがきっかけでクラスメートたちから馬鹿にされてしまった少年、草壁。
主人公の加賀もそのうちの一人だったが、転校生でやってきた安斎から、きちんと自分の意見を言う事、「僕はそう思わない」という事を教わる。
「自分が正しいと思う事を押し付ける」教師と「草壁をできる生徒にしてやろう」と画策する生徒たちのバトルが始まったのだ。
ポイントは、『何が正解なのか何が間違いなのか自分がわからなくなってしまいそう』な位逆に引き込まれてしまう部分。
何かじんわりと胸の奥に感じさせられる作品でした。
2.『スロウではない』

運動会のリレーで2つのチームを作ることから始まる。
Aチームは足の速い順の選抜チーム、Bチームはくじ引きで選ばれるチームだったのだが、足の遅い司と、高城かれんという転校生が来るまでクラスで小さくなっていた村田花、そして他2人が運悪くクジを引いてしまう。
司の友人と高城が4人のリレー練習に付き合うのだが、クラスで自分が一番だと威張っている渋谷という女子が引っ掻き回してきて・・・。
ポイントはリレーという競技。バトンを回していくところが、それぞれの人間関係模様をつなげ、疾走感あふれる作品に仕上げる良いスパイスとなっている部分が大変読みやすい理由に繋がっています。
かつての自分の失敗を省みながら新しい自分として生まれ変わる事、大人の私たちが見習わないといけないと考えさせられます。
3.『非オプティマス』

授業中に缶ペンケースを落として気の弱そうな新米、久保先生を困らせようとする騎士人(ないと)。
いつも生徒を叱ることもなく、無関心でやる気のないように見える久保先生の姿をみて、保護者がきている授業参観で恥をかかせようと画策する騎士人。
そんな久保先生には秘密があり、その中には叱らない理由も隠されていた・・・。
ポイントは「落とし物」。いやがらせをするアイテムであったり、過去に後悔する出来事のキーアイテムだったりします。
久保先生は、過去にどんな「落とし物」をしてきたのか、またそこからどのように生きてきたのかが引き込まれていく点です。
4.『アンスポーツマンライク』

小学生時代のミニバスケチームの仲良し5人組だった歩、駿介、剛央、匠、美津男は大人になっても交流があった。
しかし、当時試合で残り20秒にシュートを入れれば逆転勝ちになるタイミングで駿介が思わず相手の足を引っかけてしまい、アンスポーツマンライクファールを取られ負けてしまう。
そんな苦い経験をした後、コーチの磯憲が癌で入院していたため皆でお見舞いに行く。
その帰りに、匠が通り魔に気付き、5人は無事に通り魔を取り押さえることに成功。
そしてさらに数年後彼らはまた再会するのだが・・・試合はまだ続いていたのだ。
ポイントは、「アンスポーツマンライク」という一見マイナスの言葉(スポーツ用語)が、最後には違った意味で聞こえてくるところが読了後の腑に落ちる感じにつながるところ。
さらに、次のストーリーである「逆ワシントン」と実は・・・読むと妙にゾクゾクする伊坂ワールドをお楽しみください。
5.『逆ワシントン』
主人公の謙介は腹痛で休んでいた靖にプリントを届けるべく、友人の倫彦と一緒に靖の家に行った。
家に行くと出てきたのは靖の父親なのだが、この父親は靖の母親と再婚した新しい父親。
その父親の態度がおかしかったことで、もしかして靖は虐待されているのかもと考える。
そこで謙介と倫彦はゲーセンでなけなしのお金でドローンを飛ばし、虐待の事実を覗き見しようとするが・・・。
ポイントは、この作品の中でたびたび出てくるワシントン。先入観やミスリード、思い込み、本当の嘘つきは誰だったのかを考えさせられる話です。
そして最後の電気屋さんのシーンでつながる、「アンスポーツマンライク」な結末とは・・・読んでからいい意味で混乱できます。
伊坂幸太郎『逆ソクラテス』の口コミ【読者の感想】

ではここで、この作品に寄せられた口コミをご紹介します。
『まず、タイトルに惹かれます。一体、何が逆なのかがとても気になります。
そして、読んだ後に思わずそのタイトルの絶妙さに脱帽しています。
青春の群像劇のようでありながら、その根底には哲学を感じる。そんな作品です。』
『大人にはもちろん、小さなお子さんにも読んでほしい著書です。
タイトルにあるソクラテスの文字から哲学的な小難しさが漂う作品に感じられました。
しかし、話の内容は難しくないいので、テンポよく読み進めることができると思います。』
『長編が苦手な私にとっては5つの短編形式は非常に入りやすかったです。
小学校で起きる諸々の問題に対する葛藤、解決、身近でに感じとにかく非常に読みやすい。
読み終わるとスーッと心地よい風がココロをすり抜けていく、そんな素晴らしい一冊でした。』
読みやすさと深さに感動したという声が多かったです!
普段本は読まないけどたまには、という方にも是非おすすめですね。
読了後の謎がありつつもすっきりとした味わいが癖になる
どの話も一度はあるある、と共感できる感情の詰め合わせなところが、本が苦手な人でも次から次へと進んでしまう理由なのだと思う素敵な本です。
日常からミステリーの入り口が広がっていると思うと自分の普段の生活ももはやミステリーなのかも、とわくわくさせてしまうような作品たちが次々とページをめくるたびにやってきます。
そして、小学生のころに感じていた小さな感情の動きがとても丁寧に描かれています。
さすが伊坂ワールド!と感激できずにはいられません。
あの日の誰しもが持っている「落とし物」を取り戻す感動小説のようである・・・そんな頭もお腹もいっぱいになれる素敵な作品たちです。是非読んでみてください。
