魔法のスパイスなる発明品が発売された。
魔法を名乗るだけあり、その効能はすごい。
例えどんなに不味い料理であっても、魔法のスパイスをかけるとあら不思議。
なんと三ツ星シェフも驚きの絶品料理に変わってしまうのだ。
当初は広告も特になく、ひっそりと発売された魔法のスパイス。
発売から一ヶ月後、魔法のスパイスは口コミで爆発的に売れるようになった。
メーカーからはあっという間に在庫が切れてしまい、品薄で騒ぎになるほど。
転売で価格が十倍になるくらい、魔法のスパイスの効果は画期的で好評だった。
魔法のスパイスの登場により、世の中は大きく変わった。
料理が不味いと夫や姑から責められていた主婦は、魔法のスパイスのおかげで周りを見返すことができた。
飲食店ではより安価においしい料理を提供できるようになり、利益が倍増した。
国際的に問題視されていた食糧不足に至っては、通常なら不味くて食べられない食材に魔法のスパイスを使用し、今まで廃棄されていた食材を世界中に配布することで、解決の糸口を見つけた。
世の主婦から社会問題まで。魔法のスパイスはあらゆる悩みを解決してきた。
それはまさに、神がもたらした奇跡の発明と言えるだろう。
だが、世の中には光があれば闇もある。
当然、魔法のスパイスにも闇の部分――問題点が存在した。
魔法のスパイスはどんな料理でも絶品に変えてしまう。
そう、それが例え腐って傷んでいる料理であってもだ。
どんなに腐っていても、魔法のスパイスをかければ絶品料理に早変わり。
これで問題が起きないはずがない。
世間では、魔法のスパイスが原因の食中毒事故が多発した。
特に飲食店では劣悪な食材を使った店が増えたため、被害は拡大。
ついには死亡者まで出てしまう事態になってしまった。
当然、この事件をマスコミが報道し、事件は大きな話題に……ならなかった。
なぜなら、魔法のスパイスを発売したG社が、報道にストップをかけたからだ。
G社は魔法のスパイスの売り上げを使い、各テレビ局に大規模な広告を出していた。
つまりテレビ局はスポンサーからの圧力に屈して、食中毒事故の報道ができなかったのだ。
ローカルテレビの中には事件を報道した局もあったようだが、そういう番組のスタッフは全員左遷されることになった。
このような状況で、魔法のスパイスに異議を唱えられる者は、もはや存在しなかった。
G氏は魔法のスパイスを発明した、開発者のひとりである。
もともとG氏が経営するG社は小さな会社であった。
しかし今ではマスコミだけでなく、政治家までもがご機嫌伺いをするような、世界的大企業に発展している。
G氏は私生活でも魔法のスパイスを愛用している。
G氏は毎晩、自身の豪邸に一般の主婦を招いていた。
それもただの主婦ではない、料理が下手だと世間で評判になっている主婦である。
料理下手な主婦に食事を作らせ、それに魔法のスパイスをかける。
そうして美味しく作り変えられた料理を楽しむのが、G氏の趣味だった。
だが、この趣味がG氏の命取りになる。
その日も家事が下手な主婦に食事を作らせ、魔法のスパイスの効力を楽しんでいたG氏。
「うっ!」
ところが食後、G氏は突然倒れてしまう。
実はこの日招かれた主婦は、ある事情を抱えていた。
魔法のスパイスが原因の食中毒事故――それによって、この主婦は大切な夫と息子を亡くしていたのだ。
マスコミに圧力をかけ、事件を無かったことにし責任を逃れたG氏。
この主婦はG氏に恨みを持ち、復讐する機会を伺っていたのだ。
つまり、G氏がこの日食べた料理には、毒が入れられていたのである。
だが、本来この毒は異臭がするため、混入していても確実に気づかれる代物だった。
そう、本来は。
しかし料理にはたっぷり魔法のスパイスが使われていたので、毒の異臭まで消えてしまったのだ。
オマケにG氏は、この日の料理を美味しいからと、三回もおかわり。
当然毒の摂取量は三倍になり、G氏はそのまま命を落とした。
自らの発明した魔法のスパイスに殺される、皮肉な結末を迎えて。
(了)
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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。
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