自作ショートショート

【自作ショートショート No.56】『ダイエットサプリ』

「あーあ、また太っちゃったわ」

ポチャ美は昔から食べることが大好きだった。

特に甘い物には目がなく、食後のデザートは欠かせなかったし、それ以外にもおやつに夜食にと隙あらば口が動いていた。その結果がこれ。

いよいよ体重は百キロの大台に乗りそうだ。

「うん?何かしらこれ?」

床にだらしなく寝そべって大福片手に、雑誌をめくっていた手が止まる。

目に飛び込んできたのはダイエットサプリの広告。『1粒でマイナス1キロ』と書いてある。

「バカバカしい。こんなのうそうそ」

そう思いつつも目が離せない。続きを読んでみる。

「なになに、食事制限も運動もなし、飲んだ数だけ体重が減るですって?」

もしこれが本当なら運動嫌いなポチャ美にはうってつけの商品だ。

「まあね、私だってそりゃ痩せたいわよ」

気が付くとポチャ美は広告の番号に電話をかけていた。

数日後、届いたダイエットサプリを早速飲んでみることにする。

「えっと『1粒飲めば1キロ、2粒飲めば2キロ減る』ね」

ポチャ美は説明書を置き、サプリを手に取った。

「もうすぐ100キロだから……まずは30キロほど減らしたいわね」

手のひらに乗せた30粒を数粒ずつ水で流し込んで行く。

「これでいいのかしら?」

ポチャ美はおそるおそる体重計に乗った。針は70キロを示している。

「70……?うそ?!ほんとに減ってるわ!」

急いで鏡の前に向かった。くるりと回ってみる。しかし体型に変化はない。

「30キロも減ってるのに、体型が変わらないなんておかしいじゃないの」

もう10粒飲んで、体重計に乗る。体重計は60キロになっているが、やはり体型は元のまま。

「何よこれ!減ったのは体重計の数値だけじゃないのよ!騙されたわ」

ポチャ美は電話を手に取った。

「どういうことよ。おたくのダイエットサプリ、嘘っぱちじゃない」

「お客様、おかしなことを言わないでください。わが社の商品は正真正銘本物です」

「いい加減なこと言わないで。体型が全く変わらないじゃないのよ!」

「体重のほうは?」

「それは減ったけど……」

「でしょう。お客様は何に対して怒ってらっしゃるんですか?」

「体重だけ減っても痩せなきゃ意味ないじゃないのよ」

「と言われましても体重は減ったんですよね?」

「だからそれは……」

「わが社の商品は1粒でマイナス1キロが売りなんです」

「でもちっとも痩せてないじゃないのよ。詐欺だわ」

「お客様、言いがかりはやめてください。飲んだ数だけ体重はマイナスになったでしょう。わが社の広告に嘘偽りはごさいません」

ポチャ美はぐうの音も出ない。確かに体重は減ったのだから。

「いいわよもう!二度とおたくの商品は買わないから」

「お待ちください。そんなお客様にオススメの商品がございます。当社が独自に開発した『1粒で1キロ軽くなる』ダイエットサプリでございます」

「どうせまた嘘なんでしょ。騙されないわよ」

「わが社は嘘は申しません。飲めば飲むほど体が軽くなるサプリ、おひとついかがですか?」

結局、買ってしまった。どうせまた嘘に決まってると思いつつも、ラクして痩せられるという言葉に弱いのだ。

それにまさか二度も嘘っぱちな商品を売りつけるようなことはしないだろう。

ポチャ美は試しに10粒飲んでみた。が、特にこれといった変化は感じられない。

また騙されたのかと込み上げてくる怒りにまかせて、もう20粒飲んだ。

「わっ、軽い。体が軽いわ」

どうしたことか、明らかにさっきより体が軽くなっているのである。

これまではわずかな距離を移動するにも息切れしていたのに、今はまったく何ともない。

歩くたびに痛みのあったひざや腰も平気だった。

「騙されてたわけじゃなかったんだわ。体型はどう変わっているのかしら」

足取り軽く鏡の前に向かうが、体型は相変わらず元のまま。

「なんなのよもう!痩せてないじゃない」

そうは言いつつ、実際に体は軽く感じるのだ。

「もっと飲めば、痩せるのかもしれないわ」

ポチャ美はもう30粒ほどを一気に飲み込んだ。すると背中に羽が生えたみたいに体が軽くなる。

その場でピョンと飛び跳ねてみる。さらにくるりとターン。

「すごい!自分の身体じゃないみたいに軽やかだわ」

感動したポチャ美は体重計に乗るのも忘れて、部屋の中を歩き回った。

「そうだわ。こんなに体が軽いんだもの、運動したって辛くないはずよ」

ポチャ美は部屋を飛び出した。そして近所のお寺を目指して走り出す。

このお寺には美味いと評判の焼き芋が売っているのだが、そこへ辿り着くには300段の大階段を登らなくてはならなかった。それで焼き芋は諦めていたのだ。

「念願の焼き芋がやっと食べられるわ」

大階段を見上げたポチャ美はさっそく登り始める。

「すごい。走って登っても全然辛くないわ」

あっという間に階段の半ばまで来たポチャ美は、より体を軽くしようと容器からサプリを直接口に流し込み、さらにスピードを上げた。

「この前のサプリとこれとで随分飲んだわね。あぁ、ほんと体が軽い」

こうしてポチャ美はついに300段を登りきったのだ。

「焼き芋は目の前だわ」

ところがどうしたことかポチャ美の体は止まらない。ぐんぐん上へ登っていく。

ポチャ美の足元にもう階段はないのに。

「え?な、なんなのこれ?私の体浮いてるわ。た、助けて」

『1粒で1キロ軽くなる』サプリを知らぬ間に100粒以上飲んだポチャ美は体型こそ変わらぬが、今や空気よりも軽くなっていた。

軽くなりすぎたポチャ美はぐんぐんと天高く登っていく。

「ママー、見て。お空に大きな風船が飛んでるよー」

「あら、ほんと、それにしても変な形ね……」

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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