自作ショートショート

【自作ショートショート No.52】『身代わりロボット』

ある国でロボットの研究をしているこの博士には、特別苦手なことがある。

それは、他人とコミュニケーションをとること。

彼は、人と面と向かって話すのが昔から大の苦手だったのだ。

そんな博士には、大きな困りごとがあった。

それは、研究資金の援助を得るために、関係する企業や団体にあいさつ回りをしなくてはならないことだ。

これまでは最低限の資金をやりくりしながら研究を進めてきたが、今よりも先進的な研究に着手するためには、まとまった資金を援助をしてもらう必要がある。

しかし、博士はどうしても、他人と会話をしたくない。

しかも、企業のお偉いさんたちの寒々しい目がズラッと並んだ会議室で、意気揚々と研究の意義を説明し、ペコペコと頭を下げるなんてことは、絶対に、何がなんでもしたくないのだ。

そこで博士は、とあるロボットを作り出した。

それは、博士本人の「身代わりロボット」だった。

背格好や顔つきはもちろん、皮膚のたるみ具合やホクロの位置、独特のクセがある髪型など、外見はまさに現在の博士そのもの。

これがロボットだと気づく人間は、一人もいないだろう。

さらに、博士の知識や思考パターンを学習させた、最新の人工知能を搭載することで、文字通り瓜二つの身代わりロボットが完成したのだった。

ただひとつ、本物の博士と違うのは、ロボットには優れた社交性を持たせたことだ。

これで、あいさつ回りには身代わりロボットを向かわせておけば、博士本人は研究に没頭できるというわけだ。

結果は大成功だった。

目の前で意気揚々と魅力的なプレゼンをして、誠意のある一礼をする人当たりのいい博士が、身代わりロボットだと気づくものは、誰一人としていなかった。

それどころか、想定よりも多額の研究資金を手に入れることができたのだ。

「フフフ。ワシの作ったロボットは、やはり世界一じゃ。これで、これからは生活の全てを研究に向けることができるぞ……」

満足げに笑う博士は、研究資金を使って研究所を新築し、数人の研究員たちを雇うことにした。

もちろん、研究員とはいえ直接会話などしたくないので、彼らの前に現れ、的確な指示を出すのは身代わりロボットの役目だった。

本物の博士はというと、秘密裏につくった研究所の地下室に籠り、身代わりロボットに研究の指示を出しながら、誰とも顔を合わせずに過ごすようになった。

それから十数年がたつと、博士の研究は世界的な大発明をいくつも生み出し、その度に研究所はさらに大きくなっていった。

そして今では、百人を超える研究員を抱える、世界有数のロボット研究拠点となった。

ロボット研究の世界的な権威でありながら、高い社交性で人当たりもいい博士は、たびたびメディアからの取材を受けるようになり、世界で知らぬものはいないというほどの有名人になっていた。

もちろん、人々が見ているのは、身代わりロボットなのだが。

そんなある日、本物の博士は体調を崩し、ひどい高熱にうなされていた。

これまで自室に長年籠っていたが、自力でなんとかできないような病気は、初めてのことだった。

「ぐぅ、仕方があるまい、これは病院に行かねば……」

博士は意を決して、十数年ぶりに自室から外へ出ることにした。

「はぁ、はぁ……」

地下室から出た博士は、苦しそうな様子で研究所の廊下を歩いていた。

「……どうしたんですか!?」

声を掛けてきたのは、最初に雇った研究員のうちの一人である、ベテラン研究員だった。

「はぁはぁ……キミか、実は体調がな―」

「誰ですあなた!どうやってここに入ったんですか!?」

強い口調でそう言ったベテラン研究員は、鋭い目つきで博士を見ている。

「……なにを言っておるんじゃ、ワシはここの所長ではないか」

「あなたこそ何を言っているんです!ここの所長は、世界的に有名な博士ですよ!あなたみたいな薄汚い老人とは、似ても似つかない!」

「どういうことじゃ……」

研究員の様子に驚いた博士は、廊下にあったガラス窓に目をうつした。

そこに映っていたのは、伸び放題の白髪が上半身を覆い、頬はガリガリに痩せこけて皮膚はたるみっぱなし。

どこをどう見ても、研究員の言う通りの薄汚い老人だった。

十数年ぶりに見る自分の姿に、博士は驚いていた。

「ち、違う、ワシが本物なんじゃ。これまでずっと地下室にいて、身代わりロボットに指示を……」

「またわけの分からないことを、あっ、博士!いいところに!」

そう言って研究員が視線をうつした先には、あの身代わりロボットが立っていた。

その姿は、十数年前に博士が作った時のまま。

つまり、まだ人前に出ることがあったので、わずかながら身だしなみに気を使っていた、あの頃の博士のままなのだ。

ロボットなので、人間のように外見が変化しないのは、当然のことだった。

「聞いてください博士!この老人が、どこからか研究所に入りこんでしまったようでして。それに、おかしな言動も見られるんです。どうしますか?」

「ふむ、そうかね」

「おいお前!お前から説明するんじゃ!お前はワシが作った身代わりロボットだと……!」

何かを考える身代わりロボットに、博士は血相を変えて叫ぶ。

すると少しして、身代わりロボットが口を開いた。

「……念のため警察に通報しよう。あまり大事にはしたくないが、このご老人のためにも、しかるべき機関で保護してもらったほうがいいだろうからね。この様子だと、精神的な病をかかえているかもしれないからね」

「承知しました。すぐに通報します。」

「待て!ロボットの分際で何を言っているんじゃ!誰がお前を作ってやったと……」

まくしたてる博士を見ていた身代わりロボットは、ゆっくりと博士に近付き、耳元でこう言った。

「今となっては、世界中で誰一人として、あなたが本物だと信じる者はいませんよ。これからも私が身代わりの役目を果たしますから、ご心配なく。さようなら、博士」

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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