自作ショートショート

【自作ショートショート No.51】『遭難』

まさか自分が遭難するとは夢にも思わなかった。

いや、思ったことはある。

小説や映画のように、前人未到の孤島に難破して、大自然を相手に悪戦苦闘しながらサバイバルして生き抜く妄想を。

実際には苦難の連続であろうが、どこかそういった行為にあこがれを持っているのも事実だ。

しかし、それはあくまで『外側』から見たからなのだ。

当事者と第3者とでは物事の受け取り方が全く異なる。

時間が経過してしまえばどんな悲惨な事でも笑い話にできるとはよく言うが、それは時間の経過以外にはそういった悲惨を癒す方法がないということの裏返しでもあるのだ。

そして、私はそれに直面している。

いつも通りのコースを飛んでいたのに、機械の不調でどこだかわからない地へ不時着を余儀なくされたのだ。

ありがたいことに、連絡装置も壊れてしまった。

私は全くの孤立無援状態で、これからどう生き抜くかを考えねばならない。

しかし、真っ先に心配したのは会社の事である。一応は業務中の出来事であり、突然連絡を絶ち消息も不明になったのだ。

私の身を案じる……などと殊勝な会社ではない。

逃亡やスパイであるとの疑いのもと、私ではなく会社の『財産』であるこの機体や情報を探すだろう。

理由を話したところでクビは繋がるかどうか……さほど好きでもない会社だが、職を失うのは怖い。

次に、この不時着場所のことを考えた。

文明と言えるものは一つもなく、狂暴な原住生物がばっこしている。

唸り声をあげ、互いに殺し合い、理性の欠片も見られない。

ここがどこか、帰れればわかるだろうが、それにしても二度とは訪れたくない場所だった。

原住生物たちは私を発見すると、昂奮して遠巻きに集まり出した。

その数は増す一方であり、しばらくするとより上位な存在とみられる個体が集まって来て、何やら喚きながらこちらへ訴えかけて来た。

原始的な武器を振りかざし、明らかに敵対的な意思を見せている。

この時代に全く、どういう連中なのだろうか。

社会は一応形成しているのだろうが、初手から対話でなく争いを挑んで来るとは見下げ果てたものだ。

幸いというべきか、彼らの武器では私の機体に傷をつけることはできなかった。

鍵をきっちり閉めさえすれば安全は保障されるわけだ、かといって騒音の類と振動は僅かにでも聞こえるもので、どうにも気になってしまう。

もし、奇跡が起こって侵入を許せば、私はこの原住生物によって殺されてしまうだろう。

それに、時間の潰しかたの問題も生じた。

そもそも仕事中なのだ、時間を潰せるようなものを持っているわけがない。

機体のコンピュータも壊れてしまっているし、精々本が数冊。それも一日目に読み終わってしまった。

元来、私は読書家ではないが、人は手に入らないものを無性に欲するものらしい。

食事を終えてしまえばあとはやることがなく、眠るにしても何時間でも眠れるとなるとまるでありがたみを感じない。

冗談でなく、私は発狂の恐怖におびえねばならなかったのだ。

そんな時、この原住生物はすこしばかりは気を紛らわせてくれた。

私を(機体か?)どうにかしようと試行錯誤する様は、他に刺激が何もない中で少しばかりは現実を忘れさせてくれた。

武力で解決ができないとわかったらしく、彼らは懐柔をしようと様々な貢物をするようになった。

順序が逆だろうと思ったが、その原始的ではあるが、無味乾燥な保存食とは違い新鮮な料理や貴金属などは、私にロックを外して危険を冒してもよいのではという誘惑と、それに対する葛藤という目的を与えてくれた。

それにしても、初めて見る品々だった。

それからさらに数日が経った頃、奇跡的に通信機能が回復を見せた。

私は急いで会社に連絡を取り、第1声が安否の確認ではなくお叱りと皮肉であったことに苦笑しつつ、助けを求めて帰還すべく頭を下げた。

ふざけたことに、会社は修理のスタッフを寄越すのではなく、経費削減のために説明書を送って私に修理をしろと言って来た。

ここで突っぱられればどれだけ良かったかとも思ったが、その度胸が無いことに悲しいやら嬉しいやら、私は黙々と修理に勤しむしかなかった。

修理自体は非常に簡単であったが、なんの知識もなければそんな簡単なことも出来ない己が恥ずかしかった。

帰ったら少しは機体の勉強をしようと誓ったが、恐らくは続かないだろう。すぐに面倒になる。そういうたぐいの決意だ。

そんなわけで、私は機体と共に帰還の途についた。原住生物たちの姿は少しは名残惜しさを漂わせていた。

しかし、何度見ても珍しい姿をしている。

背は低く、二足歩行で手足らしきものは4本しかない。飛行する機械も細長くつばさのような物がついている。

それとも、彼らから見れば私の方が奇妙に映るのだろうか?

彼らの3倍はある背丈に、手足は30本、乗って来た機体は銀色で円形のもの。

ごくごく普通のこの銀河系に暮らす人類の一人であるのに。

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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