この頃、病院は看護師が不足してきている。
近年の感染症騒ぎやらで離職者が増え、新たに看護師になる人数も減少傾向にある。
看護師がいなくなれば、病院の業務は回らなくなる。
看護師の減少は病院の危機でもあるのだ。
そこでS大附属病院はある奇手を思いつく。
「ハジメマシテ、今日カラオセワニナル、ロボ子デス」
そう、S大附属病院は工場に看護師ロボットの制作を発注したのだ。
ロボットは巨大なゴミ箱のような形をしており、そこにキャタピラと作業用の手、さらに腹部にはモニターを備えている。
AIを積んだ、奇怪で機械な看護師ロボットのテスト運用が早速始められた。
医師であるG氏が看護師ロボットの案内をする。
「ロボ子くん、君が最初に担当するのはあちらの患者さんだ」
「アノ男ノ子デスネ」
「あの子は注射がキライでね。泣いて嫌がって大変なんだ。……ちゃんと対応できそうかい?」
「オマカセクダサイ」
ロボ子はキャタピラをカタカタ言わせながら、男の子の元へと向かった。
「なにこれ? 新しいオモチャ?」
「看護師ロボットノロボ子デス。オ注射ノオ時間デスヨ」
「注射!? やだやだ! 注射はいやだ!」
男の子がかんしゃくを起こし、暴れだす。
しかしロボ子は機械なだけあって、冷静だった。
「ソウデスネ、ソレデハ注射ハヤメマショウ」
「えっ、いいの?」
「ソノカワリ、コチラヲ読ミマセンカ?」
ロボ子がそう尋ねると、腹部のモニターになにやら映像が映し出される。
「もしかして、これって週刊少年ジャブの電子書籍?」
「ソレモ最新号デス。ドウゾオ読ミクダサイ」
「やった!」
男の子は大喜びで、モニターに映ったマンガを読み始めた。
どうやら娯楽に飢えていたようで、男の子はマンガを食い入るように読んでいる。
「わあ、やっぱり少年ジャブはおもしろいなぁ」
「オ気ニメシタヨウデウレシイデス」
そのまま男の子はマンガを読み続け、あっという間に読了してしまった。
「あーおもしろかった。他のマンガはないの?」
「ゴザイマス。少年ヨンデーヤ週刊イマジンモアリマスヨ」
「本当!? 今すぐ読ませて!」
「デシタラ、課金ヲオ願イシマス」
「なんだ、お金を取るのか。お金なんて持ってないよ」
「イエ、オ金ハ不要デス。注射ヲ一回シタラ、一冊他ノマンガモ読メマス」
「注射しなきゃいけないの!? うーん」
男の子はうなり声をあげながら、考えている様子。
一分くらいして、男の子は覚悟したように大きく頷いた。
「わかった! それじゃあ注射して」
「泣カナカッタラ、モウ一冊オマケデ読マセテアゲマスヨ」
「その代わり、痛くしないでよ!」
ロボ子はG氏から注射器を受け取ると、機械らしい精密な動きで男の子に注射をした。
あまりにあっさり終わってしまったので、男の子は驚いている。
「すごい! 全然痛くない! ロボ子すごいよ!」
「喜ンデイタダケテ光栄デス」
この一連の流れを、G氏は感心しながら見ていた。
これなら看護師ロボットは使えるかもしれない。
そんな期待がG氏の中で生まれていた。
その後もロボ子は活躍を続けた。
人間の看護師の愚痴を積極的に聞いてまわって離職率を下げたり、「お客様は神様だ!」と騒ぐ悪質なクレーマーを「ダトシタラ、アナタハ貧乏神デス」と毅然とした態度で追い出したり。
気づけば、ロボ子はS大附属病院になくてはならない存在になっていった。
院長はロボ子を増産してもらうため、工場と話を進めている。
そんなある日、ロボ子は新しい患者を担当することになった。
「彼は余命3ヶ月と言われていてね。難しい患者さんだけど、対応できるかい?」
「オマカセクダサイ」
ロボ子が担当する新しい患者は、気難しい顔をして窓をながめていた。
果たして大丈夫だろうか、そうG氏は心配しながらも、ロボ子の様子をうかがう。
「ハジメマシテ、今日カラ担当サセテイタダク、ロボ子デス」
「……ふん」
「ナニカ困リゴトガアレバオッシャッテクダサイ」
「……困りごと? それなら俺の病気を治してよ」
「ソレハデキマセン」
「ずいぶんハッキリ言うじゃないか。……ふざけるなよ!」
そう言うなり、患者の男はロボ子に手を上げた。ガゴンという鈍い音が病室に響く。
叩かれたショックで、ロボ子は倒れてしまった。
G氏が慌ててロボ子の元へ向かう。
「やめてください! ロボ子が壊れたらどうするんですか!」
「うるさい! そんなこと言うなら先に、俺の壊れちまった体を治してくれよ!」
「それは……!」
そう口にして、G氏はハッとする。
患者の男は大粒の涙をボロボロとこぼしていた。
「余命3ヶ月、このままじゃ親より先に逝くことになる。こんな親不孝、あるかよ……」
患者の男は声をあげて泣いた。病室に男の泣き声だけが響く。
そこへ男に話しかけたのは、ロボ子だった。
「カシコマリマシタ。ソノ問題ヲ解決シマス」
そう言うなり、ロボ子が病室から出ていってしまう。
いったいロボ子は何をするつもりなのか。
G氏は病室でロボ子の帰りを待った。
ところが帰ってきたロボ子の姿を見て、G氏は言葉を失ってしまう。
「ロボ子、おまえそれは!?」
しかしロボ子はG氏を無視し、患者の男の元へと向かう。
ロボ子の姿を見て、患者の男は小さく悲鳴をあげた。
「な、なんなんだよおまえ!血まみれじゃないか!」
「ゴ安心クダサイ、問題ハ解決シマシタ」
「――アナタノゴ両親ヲ殺シテキマシタ。コレデ親ヨリ先ニ逝カナイノデ、親不孝ジャアリマセンネ……」
(了)
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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。
読んでいただけたら嬉しいです!
コメント
コメント一覧 (2件)
これは想定していませんでした!びっくりしました!私の好みです!
リドルもの以外のミステリーは結局のところ「納得感」だと思います。
そして本作は、(運用がテスト段階であるとしっかり述べられている点を考えれば、ミステリ的には)十分あり得そうな結末なので納得感もありました!尊敬です。
良い読み手ほど、良い書き手になるというのは本当ですね。
とても面白かったです!
やんもさんこんにちは!
私自身も気に入っている作品なので、そう言っていただけて嬉しいです!
本当にありがとうございます(*’▽’*)