自作ショートショート

【自作ショートショート No.49】『ある怪盗の悲劇』

どんな時代、どんな国にも、他人から金や物を盗むことを生業にする、迷惑な泥棒が一定数は存在するものだ。

そんな泥棒の中でも、世界的に価値のある絵画や装飾品などを狙う大泥棒のことを、人々は怪盗と呼ぶ。

この国でも、Kと呼ばれる怪盗が巷を騒がせていた。

怪盗Kは大金持ちが抱えている資産価値の高いお宝を専門に狙っており、これまでの被害総額は実に数十億円にものぼっていた。

彼の手口は、いつも同じだ。

その卓越した変装技術で関係者になりすましては、やすやすと施設に入り込み、何食わぬ顔でセキュリティを突破して目標を盗み出すのだ。

現場に決まって残される犯行声明が無ければ、彼の犯行が気づかれないままになることさえある。

そのくらい、高い技術と独自の美学を持った人物なのだ。

そんな怪盗Kは、国内有数の資産を誇る名家に代々伝わる巨大な宝石を、次の標的に定めていた。

「あの屋敷の責任者は、老いぼれた先代に変わって、奴の長男が勤めているんだったな。長男は毎週金曜日に、決まって屋敷の外で夕食をとるはずだ。その隙を狙うとしよう」

怪盗Kは、月明かりのほとんどない新月の夜に、宝石が保管されている屋敷に忍び込んだ。

今日も変装は完璧で、声色さえ自由自在な彼にとっては、あまりにも楽な仕事だった。

「おや、旦那様、確か今日は外でお食事のはずでは?」

「ああ、大事な物を忘れたんでな。取りに帰ったところだ」

「さようでございましたか。失礼いたしました」

屋敷の使用人と対峙しても、怪盗Kは一切動揺することなく、事前に調べ上げていた口調で、いとも簡単に窮地を乗り切って見せた。

「あれ、兄さん?」

宝石のある部屋を探そうとしていた怪盗Kを呼び止めたのは、彼が変装している男の弟だった。

「おお、お前か。どうした?」

「どうしたって、兄さん、今日はいつもの店で夕食じゃなかったっけ?」

「ああ、ちょっと忘れ物をしてな。それを取ったらすぐに向かうさ」

「そっか……あ、そうだ兄さん」

「なんだ?」

「前に話してた、宝石のセキュリティの件なんだけどさ、ちょっと一緒に、宝石の部屋を見てもらえないかな?急ぎで相談したいことがあって」

「う~む、急いでいるんだが……」

怪盗Kは、想定していなかった状況に、その明晰な頭脳をフル回転させた。

「(いくら変装が完璧とはいえ、相手は弟だ。会話などから、ボロが出てしまうかもしれないことを考えると、一刻も早くコイツから離れるべきだが)」

「(いや、しかし宝石の部屋に案内してくれるというのは、願ってもないチャンスだ。部屋の場所だけは掴めていなかったからな、どうする……)」

ほんの一瞬言葉に詰まりながらも、怪盗Kはいつもの調子で言葉を続けた。

「まぁ、あの宝石のセキュリティに関する話なら、何より優先する他ないな。いいぞ、今から見ようか」

「ありがとう、兄さん!助かるよ!」

そして怪盗Kは弟の道案内によって、すんなりと宝石が保管されている部屋の前に着いた。

弟が慣れた手つきで厳重なロックを解除すると、見るからに頑丈そうな、分厚い扉が開いた。

その向こうには、広い部屋の真ん中に設置されたガラスケースの中に、目標の宝石が鎮座していた。

「それでね、兄さん、見てほしいっていうのは、これなんだけど……」

「どれどれ?」

弟は、部屋の入口近くにあるもう一枚の扉に手をかけ、ゆっくりとそれを開けた。

「!?」

怪盗Kが見たのは、今まさしく自身が変装している、この屋敷の長男の、無残にも変わり果てた姿だった。

「……どういうことだ、長男はいま、食事に―」

―ガチャン!

目の前の状況に混乱する怪盗Kが音のした方に目をやると、先ほど通ってきた重厚な扉が閉じられ、その手前では弟が拳銃をこちらに向けて立っていた。

「……お前、怪盗Kだろ?」

そう言った弟の顔は、口元だけがにやりと笑っている。

「……いつから気づいていたんだ」

「最初から、かな?だってさ、兄さんはついさっき、確かに俺が殺したんだ。心臓が止まったのを何度も何度も確かめたから、間違いなく、ね。でもさ、屋敷の中を歩いてたんだよ、死んだはずの兄さんがさ。いやー、さすがに見た瞬間は焦ったさ。まさか生き返った?とかね。それほど、お前の変装は完璧だった」

「……」

「でもさ、そんなはずないんだよ。人間は、一度死んだら生き返らない。だから思ったんだ。この兄さんは、最近世間を騒がせている変装の名手、怪盗Kだろう、ってね。だから、ちょっとエサを撒いてみたのさ。宝石の部屋に行けるとなれば、それは怪盗Kにとって、願ってもないチャンスだろうからね。それに……」

「?」

「本物の兄さんなら、俺の頼みを聞くなんてことは、絶対にありえないんだ。皮肉だよね、親父の跡継ぎ争いで、汚い手ばかり使って俺を貶めたクソ兄貴のおかげで、お前が怪盗だと見破ることができたのさ」

「そうか……おめでとう。あんたは、この怪盗Kを捕まえた英雄として、警察から表彰―」

―バァン!

「捕まえる?バカじゃないの?お前を警察に突き出したら、俺が兄貴を殺したことがバレるじゃないか。それに、せっかくいろいろと細工して、兄貴の死を偽装しようとしてたのに、お前が来たせいで計画は練り直しだよ。まずは、こいつを目撃した使用人を消さないと……」

ブツブツと独り言を続ける男の足元には、うり二つの死体がふたつ、転がっていた。

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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