高齢化が進む時代。
若者が減った代わりに増えたものがある。
それはロボットだ。
ロボットはさまざまな分野で活躍するようになり、人類を労働から開放した。
それは介護士業界でも同じことが言えた。
介護士業界の仕事は、すべてロボットが担うようになっていたのだ。
それではとある事例を見ていこう。
これは介護ロボットとS氏の日々を記録したものだ。
「昔は俺が老人の介護をしてたんだ。それが逆に介護される立場になるとはなぁ」
「誰もが老いてしまうものですよ」
介護ロボットの言葉に、S氏は力なく笑う。
S氏は体調不良が原因で、長いこと続けていた仕事を辞め、介護ロボットと余生を過ごすことにした。
介護ロボットは老いたS氏のために、勤勉に働いている。
しかし、S氏はかつてのように元気よく働きたいと、時々癇癪を起こすことがあった。
「邪魔だ! 車椅子なんていらん!」
「しかし、あなた様の足はもう……」
「うるさい! 私を働かせろ! 私はまだ仕事ができるんだぁーーー!」
「あなた様……」
介護ロボットが優しくS氏を抱きしめる。
するとS氏の瞳からぽろりと粒がこぼれた。
「私には仕事しかないんだ。それを奪われたら、どう生きればいい? 頼む、教えてくれ……」
「それを私に教えることはできません」
「……だよな」
「ですが、答えを一緒に探すことはできます」
介護ロボットから飛び出した予想外の言葉。
それにS氏は目を見開いて驚いた。
「そうか、一緒に探してくれるか」
「はい、もちろんです」
「では、一緒に旅へ出よう。青臭い言葉だが、自分探しの旅というやつだ」
「かしこまりました」
こうして、S氏は介護ロボットと共に旅を始めた。
S氏の旅はとても静かなものだった。
人混みを避け、できるかぎり静かな土地をめぐっていく。
自然の中で高級ボトルを開けて飲むのが、S氏の楽しみになっていた。
とある村では、幼い子どもがロボットとともに遊んでいる光景を目にする。
「懐かしいな、私も昔はあんなことをよくしたものだ」
「ロボットが使われるようになって、もう長いですからね」
「そりゃ私も老いるわけだ」
S氏は少し寂しそうに、そうつぶやいた。
旅を続ける中でも、S氏は癇癪を起こすことが度々あった。
それでも介護ロボットは不満ひとつもらさず仕事を続ける。
「すまない、どうしても自分が抑えられない時があるんだ」
「それだけあなた様が働き者だったという証です。恥じるものではありません」
「私は働き者じゃないさ。働き者という言葉は、君にふさわしい」
「ありがとうございます」
癇癪を起こし暴れたあと、介護ロボットと仲直りをする時間。
この時が、S氏にはとても大切なもののように思えた。
とある湖の湖畔のホテル。
そこについて、S氏に異変が起きた。
S氏の体はついに、旅を続けることすらできなくなったのだ。
「どうしますか、元の家へ帰りますか?」
「寿命を迎えるなら、この湖で迎えたい。ダメか?」
「かしこまりました」
介護ロボットはすぐさま湖が見える土地にある、屋敷を購入した。
そこで介護ロボットは、S氏との最後の日々を過ごす。
冬のある日、ついにS氏が寿命を迎える。
「おまえのおかげでいい老後を過ごせたよ。ありがとう」
そう穏やかにつぶやくと、S氏はそのまま眠ったように動かなくなる。
S氏が息を引き取ったことを確認すると、介護ロボットはこうつぶやいた。
「再起動不可能。労働者型ロボットSの故障を確認します」
そうつぶやいた後、介護ロボットもまた動かなくなる。
そこへ搬送用のロボットカーが現れると、S氏と介護ロボットを連れて行ってしまった。
二人がどこへ連れて行かれたのかは、誰も知らない。
高齢化と共にロボットが増えすぎた時代。
旧式ロボットの介護もまた、ロボットが担当していたのだ。
(了)
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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。
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