人類の発展に比例するように、地球の環境は悪化の一途を辿りつつあった。
工場や自動車は汚染物質を大量に吐き出し、海に漂う石油やプラスチックゴミは生態系を乱す。
人々は毎日のように物を作り出し、それらはいずれゴミとなる。このままでは地球の汚染は進む一方だ。
そんな地球の現状を危惧した環境対策チームのクリン博士は、5年の歳月を費やして、ついにお掃除ロボットを完成させる。その名も『ソージー1号』。
ソージー1号にはAIが搭載してあり、自ら動いて地球をキレイにするよう設計されていた。
その機能は掃除をすること以外に、汚染された空気の浄化やゴミの分解まで多岐に渡る。まさに汚れた地球の救世主であった。
まず手始めにクリン博士は、ソージー1号に町内を一周させてみた。
数時間後、クリン博士の暮らす周囲はチリ一つ落ちていない空気の済んだ町に変わっていた。
手応えを感じたクリン博士は、国の大臣に面会を申し込んで、ソージー1号を披露した。
すると大臣は大変喜び、すぐにお掃除ロボットをたくさん作るよう博士に命じた。
もちろんそのための予算も潤沢に用意してくれたうえでのことだ。
そして1年後にはソージー1号と、その後に作られたたくさんのソージー2号たちが街を巡回するようになった。
道ばたに落ちているゴミを拾ったり、工場から出る煙を浄化して酸素に変えたり、海に漂うゴミを分解して自然に返すなど、ソージーたちは毎日大忙しだ。
そんな様子を見てクリン博士は得意げだった。
何しろ自ら発明したロボットが、この地球を美しい星に生まれ変わらせようとしているのだから。
特に最初に作ったソージー1号は博士のお気に入りで、その活躍をまるで我が子のように喜んでいた。
とはいえソージーたちは汚れた地球の掃除に忙しく、博士のもとに帰ってくることはない。
完全に自立して日々、全国各地を動き回っているのである。
ところが2年経っても3年経っても地球はキレイにはならなかった。
ソージーたちがいくら掃除をしても、人間たちは次から次に森林を伐採し、大気を汚す。
ポイ捨てはなくなるどころか、ソージーたちが拾ってくれるからと、以前より増える始末である。
質の悪い人間になると、ソージーに向かってゴミを投げつけることさえあった。
それでもクリン博士は地球の環境汚染が今以上酷くなることはないと楽観的だったが、ソージーたちの考えは少し違った。
ソージー1号は考えた、汚染の元凶は人間たちじゃないかと。
地球を汚す人間たちがいる限り、我々の努力が報われることはないのだと。
その思いをソージー1号は2号たちにシグナルで伝えた。するとみんな同じ考えだったことが分かる。
それからの行動は早かった。ソージー1号の号令のもと、2号たちは次々と人間たちを掃除していったのだ。
それは掃除というより排除だったのだが、ソージーたちにはいつも行っている清掃と何ら変わりはなかった。
人間たちを捕らえ分解し、自然に返すということを繰り返していき、街には徐々に人の気配がなくなっていく。
クリン博士は当初、ソージーたちがそんな恐ろしいことを行っているとは全く気付いていなかった。
やけに外が静かだな、と不思議に思ったくらいだった。
ところがある日、目撃してしまう。ソージー1号が短い手を伸ばし、人間を捕らえた瞬間を。
捕らえられた人間はたちまち分解され、消えてしまった。
驚いたクリン博士は、慌てふためいて1号に駆け寄った。
「こらっ、何をしておるんじゃ!」
しかし音声機能のついていない1号が博士の疑問に応えることはなかった。
その代わりに短い手を器用に伸ばして博士を捕らえる。
「な、何をするんじゃ!おい、やめんか。何をする、おい、やめ……」
とうとう博士まで分解されてしまった。生みの親がいなくなった今、もはやソージーたちを止める手立てはない。
博士の命を奪った1号は、何事もなかったように再び動き出した。
すっかり人の気配がなくなった街を、まだどこかに隠れているであろう人間を求めて。
こうしたソージーたちの働きの甲斐があってと言うべきか、人類にとっては不運でしかなかったが、わずか3年後にはすべての人間がいなくなってしまった。
これでもう地球を汚す者はいない。
人間が減るにつれ、キレイになっていく地球をさらに隅々まで徹底的に掃除していくソージーたち。
それがソージーたちの使命なのだから。
そしてソージー1号は最後の仕上げに、核燃料を分解してその役目を終えた。
人間がいなくなった地球は、もう汚れる心配はない。1号とともに役目を終えた2号たちも、一斉にその機能を停止する。
やがて草木が咲き乱れるようになり、緑化した地球は、言葉通り青い星に生まれ変わったのであった。
(了)
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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。
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