自作ショートショート

【自作ショートショート No.42】『世紀の大発見』

レガ氏は考古学者を生業としており、フィールドワークとしてこれまで数えきれないほどの発掘調査に携わってきた。

しかし世紀の大発見などなかなかあるものではない。

いつか歴史を覆すような発見をしたい、そう思いながら今日も退屈な発掘作業を行っていた。

「人骨?」

彼が見つけたのは人骨だった。人骨そのものはこれまで幾度となく見つけたことのあるレガ氏だったが、埋まっている地層が問題だった。

「あ、ありえない。ここに人骨があるわけがない」

その地層は人類誕生以前とされているものだった。もしこれが人骨であるなら、歴史を変える大発見となる。

レガ氏の経験から言って、その人骨はどう考えても最近埋められたものには思えない。

レガ氏の額にじわりと汗が滲む。ひょっとしたらと人骨が見つかった周辺を探してみるが、他にそれらしき骨は見当たらない。

「こ、これは、もしかすると歴史を覆す大発見なのでは」

ゾクゾクと体の震えが止まらない。武者震いなのかそれとも——

彼はそっと周囲を伺い、その人骨を懐に隠した。

手柄を奪われたくなかったレガ氏は、人骨の発見を誰にも告げなかった。自分でこの謎を解明したいと思ったのだ。

様々な文献を読み漁った。しかし謎を解くための手掛かりは何一つ見つからない。

この道の権威にそれとなく話も聞いた。しかし何も得られるものはなかった。

ただ一点、文献の中に気になる記述を見つけた。それは悪魔召喚に関するものだった。

「悪魔召喚か……」

彼は謎を解明するためならどんな危険も冒す覚悟でいた。

たとえ悪魔に魂を売ることになっても、答えを得られるなら構わない。

「——よぉ、何か用か?」

悪魔は本当に現れた。召喚の儀式を行いながらも半信半疑のレガ氏だったが、驚きよりも先に謎の解明に一歩近づいたことを喜んだ。

「オレ様とどんな取引をしたいんだ?」

悪魔の問いかけに、彼はごくりと唾を飲む。

「私は真実を知りたい。過去に何が起こっていたのか確かめたいんだ」

レガ氏が言うと、すると悪魔がニヤリと笑う。

「だったらお前に過去へ遡る力を与えよう」

「過去?」

「そうだ。自由に時間が移動できるぞ」

「そ、そんなことができるのか?」

「できるさ」

悪魔がぱちんと指を鳴らす。突然レガ氏の体が光りだした。

「な、なんだこれは?」

彼は慌てふためく。光はすぐに消え去った。

「い、今のはなんだ?」

レガ氏は悪魔に聞く。

「時間移動の力が宿った証さ」

これが、とレガ氏は自身の体に目を向ける。特に変わったところはない。

「取引成立だ。あとは行きたい過去をイメージすればいい。それで時間を飛べる」

悪魔の言うとおりに、彼は例の人骨を発見した地層時代を思い浮かべた。すると彼の目の前に黒い穴が出現する。

「これは?」

「時空移動の穴さ」

レガ氏が黒い穴を覗き込むと、一気に体が吸い込まれた。

「うわああ」

気付くと彼はだだっ広い空間を漂っていた。眼下には穴に飛び込む前の光景が見えている。

「移動している。移動しているぞ!」

レガ氏は思わず叫んだ。ついに人骨の答えを知る時が来たのだと、気持ちが昂る。

それからどれくらい飛んだであろうか、レガ氏の体感では数日は経ったように感じられた。

だがいつまで経っても目的の時代に着かない。眼下に広がる光景も見慣れたものだった。

はて、どういうことだとレガ氏は疑問符を浮かべる。「——そうそう言い忘れてた」

そこへ悪魔の声が聞こえてくる。

「時間を遡るには、同じだけの年月がかかるぞ」

「なに?!」

「一年遡るなら、移動には一年かかる。十年前なら十年だ」

レガ氏が行こうとしているのは一億年前。つまり一億年の時間がかかることになる。

「そんな……」

絶望する彼の耳には、悪魔の高笑いがいつまでも鳴り響いていた。

あれから幾ばくの時が過ぎたのか、レガ氏には見当もつかなかった。

気の遠くなるほど長い時間、時空の穴の中を漂っている。不思議と腹は減らない。

ただ年は取る。時空の穴に入る前にはなかったシワが手には浮かんでいた。

「あっ、あぁ」

声もしわがれていた。数十年くらいは経っているかもしれないとレガ氏は思う。それでもまだ目的地には程遠い。

「一億年、いや……」

時間移動する前、彼は四十歳だった。八十歳、九十歳、百歳になった時、自分はどうなってしまうのだろうかという恐怖感をレガ氏は常に感じていた。

「目的地に着く前に私は……」

恐ろしい結末を想像した彼はぶんぶんと頭を振る。嫌なことは考えないようにしようと、彼は人骨の謎に思いを馳せた。

ついにレガ氏は一億年前の時代に辿り着いた。だが彼には喜びも感慨もない。それも当然。

百年も経たないうちに彼は寿命を迎え、あとは物言わぬ体のまま時空を移動していたのだ。

レガ氏の体は一億年もの長い年月をかけて白骨化していた。その骨は一億年前の時代に取り残された。

それから一億年が経ち——

「こ、これは?」

人骨が掘り起こされる。その骨を見つけたのはレガ氏。

レガ氏が見つけた人骨の正体、それは一億年前に移動した彼自身の骨だったのだ。

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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