自作ショートショート

【自作ショートショート No.40】『 囚人』

「クックック。今度の新入りはどんな奴なんだろうな。まぁどんな奴だろうが、前みたいにイビり倒してやるだけだけどな」

国の最果て、最高レベルの警備が敷かれる刑務所の一室で、見るからに悪そうな丸刈りの男が独り言をつぶやいていた。

男は数年前に殺人を犯し、凶悪犯だけが集められるこの刑務所に収監されたのだが、反省する様子は全く見られない。

新たに収監される新入りの囚人にキツくあたり、問題を起こしてばかりなのだ。

それに、男にとってここはある意味暮らしやすい環境だった。

自由はないが、衣食住は提供されるし、必要であれば医療を受けることもできる。

刑務所に入る前の劣悪な環境に比べれば、人間らしい生活を送っていると言えるだろう。

今日もまた、新入りが連れられて来ることになっているので、男は悪だくみをしている。

「おい、今日から収監された新入りだ。くれぐれも問題を起こすんじゃないぞ」

そう言って刑務官が連れて来たのは、いかにも普通という外見の、心優しそうな男だった。

新入りは初めての環境が不安なのか、あたりをキョロキョロと見まわしている。

丸刈りの男はそれを見るとニヤりと笑い、大きな声ですぐにその男を呼びつけた。

「おい新入り!ちょっとこっちに来い!」

「はい、なんでしょうか?」

「ここにはここのルールがあるんだ。これから毎日、俺が教えてやるから、ありがたく思え」

「わかりました、よろしくお願いします」

「おお、なかなか素直でいいじゃないか。俺の機嫌を損なうと大変なことになるからな。良い心がけだ」

「……」

「ところで新入り、お前は何をやらかして捕まったんだ?」

「私ですか?私はその……」

「なんだよ。濁すことないじゃねぇか。どうせこの刑務所に送られたってことは、何人か殺してんだろ?ここには俺を含めて、かなりの凶悪犯しか入れないからな」

「そうですね、あの、三人ほど……」

「そうかそうか!気弱そうな顔して、なかなかやるじゃないかお前!」

「いえ、そう言うあなたは、何人くらい?」

「俺か?俺は五人だ」

「五人も……、そうですか」

「ああ、そうだ。お前は無差別か?それとも計画的に?」

「えっと、どちらかといえば、計画して、です。ずっと前から機会をうかがっていて」

「そうなのか!それじゃ俺とは違うな!俺はつい衝動的にやっちまうタチだからな」

「衝動的に五人も、ですか?」

「ああ。俺はな、殺りたくなったらどうしようもなくなるのさ。目についた奴を殺さないと、気が済まないんだ。あの感覚、今でも忘れられないぜ!お前も、最中のことはよく覚えてるだろ?どんな気分だった?」

「私はその、特に何も感じなかったですね。私の場合、殺すこと自体に特別な意味はなかったので」

「意味がない?おいおい、お前は計画通りに殺したんだろ?そいつらに恨みがあったんじゃないのか?」

「いえ、私はその三人には何の恨みもありませんでしたよ。面識もないですし。だから、何も感じなかったんでしょうね」

「ふ~ん、変な奴だな。じゃあなんだって殺したんだ?俺みたいに衝動的じゃないってんなら……」

「それはですね、ここに来るためです」

新入りはそう言うと、伏し目がちに床を見ていた顔を、やっと坊主頭の男に向けた

「ここに?ここにって、この刑務所に入るために、人を殺したってのか?」

「はい、そういうことですね」

「ハッハッハ!こいつはイカレてやがるぜ!面白い奴だなお前!」

「……私は、いつも冷静ですよ」

「なにが冷静ですだ、完全に正気じゃねえぜ!刑務所に入るためだけに―ー」

「入るためだけじゃないですよ」

「あ?」

「……私には目的があるんです。そのためには、この刑務所に入らなければならなかった」

「……なに言ってんだ?」

「私はね、ある男を探してたんです。そしてその男が、この刑務所にいることを突き止めた。でもね、ここは国でも最高レベルの警備が敷かれているし、囚人は外部との関りを一切禁じられている。面会はおろか、世間で何が起きているか、その情報も遮断されているんです。」

「……?」

「だから、知らなかったでしょ?あなたのご両親とおばあさんが、ある殺人鬼に殺されたことを。」

「おい、どういうことだ……」

「殺す前は、少しは申し訳ない気持ちになるのかな?と思ったんです。出来の悪い息子が凶悪犯になったばっかりに、自分たちまで殺されてしまうご両親たちが、少し不憫だなって。でも、いざとなったら、何も感じなかったんですよ。いたって冷静でした。おばあさんは殺すつもりはなかったんですが、もう一人くらいやっておかないと、凶悪犯扱いされないかなって。せっかく人を殺したのに、この刑務所に来れないなんて、もったいないですからね。どうですか?家族を殺された気持ち、少しは分かりました?まぁ、わからないでしょうけどね」

「……」

絶句する男をよそに、新入りは言葉を続けた。

「いやあ、それにしても、さすがは最高レベルの警備体制ですね。これを持ち込むのは、とても苦労したんですよ?」

新入りはそう言うと、体から取り出した凶器を、男の首に突き差した。

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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