自作ショートショート

【自作ショートショート No.39】『セールスマン』

閑静な住宅街を、スーツ姿の男が歩いていた。

男はあたりをキョロキョロと見まわしながら、一軒、また一軒と家を眺めては、首をひねりながら隣の家に向かって歩いていく。

どうやらこの男は、手に持ったバッグの中身を買ってくれそうな客を求めて、チャイムを鳴らす家を物色しているようだった。

「おお、ここは良さそうだ。今日のターゲットはここにするか」

男は、住宅街の大通りから一本外れたところにある、一軒の家に狙いを定めた。

全体的に周りの家々よりもやや古びていて、庭は雑草が伸び放題。

こんな様子で管理が行き届いていない家は、大抵住人が一人暮らしの老人で、子どもたちも寄り付いていないことを、経験から男は知っていた。

しかも、ここは比較的地価が高い人気エリア。

つまり、相談相手はいないが金は持っているという、商品を売りつけるのには最適なお客様が暮らしているのだ。

男は、セールストークには説得力が必要と、手鏡を取り出して身だしなみを確認し、短く息を吐いてチャイムを押した。

「ごめんくださいませ!」

「はいは~い」

男が明るく声をかけると、家の中からすぐに高い声が聞こえてきた。

「はいはい、どちらさま?」

扉が開くと、そこには上品でやさしそうな老婦人が、男を見上げていた。

「はじめまして。わたくし、とてもお得な商品をご紹介して回っているものでして……」

男は、礼儀正しくペコリと頭を下げ、にこやかな営業スマイルで、ハキハキとしゃべり始めた。

「あら、そうなの?」

「ええ、さようでございます。お客様にぴったりのものもご用意してございます」

「ええと、どうしようかしら……。私、もうそんなに欲しいものはないのだけど……」

「いえいえ、お話を聞いていただくだけでも結構ですので。ご紹介が終わりましたら、わたくしはすぐにおいとましますので」

「そうね、まぁお話を聞くくらいなら……」

「ありがとうございます!」

男は、営業スマイルを絶やさないようにしながら、自然な流れで玄関の中に入り、後ろ手に扉を閉めた。

「早速なのですが、今日限定で大変お得な割引がある商品がございまして、そちらをご総会します。こちらのネックレスなのですが……」

男はそう言うと、慣れた手つきで手袋をつけ、小型のジュエリーケースからきらびやかなネックレスを取り出した。

「あら、素敵ね」

「さすがお客様、お目が高い!こちらはかの有名ジュエリーデザイナーがデザインを務めた逸品でして、世界に五本しか存在しない希少価値の高いネックレスでございます。最高級のプラチナと小ぶりながら透明度の高い超高級ダイヤモンドをふんだんに使用しておりまして……」

男は、この商品がいかに素晴らしいものなのかということを、まくしたてるような早口で説明し続け、老婦人の思考力を疲れさせる作戦に出た。

「お客様はとても信頼できるお方ですので、特別に試着していただいて構いません。ささ、一度首にかけてみてくださいませ、ささ、ささ……」

あっけにとられる老婦人をよそに、男はネックレスを手早く首にかけ、バックから取り出した手鏡で試着の様子を見せた。

「思った通り、とてもお似合いでございます、お客様!この商品はあまりに高貴なデザインでして、それなりの格がある方にしか似合わないのです!いやぁ、私もこの仕事をしてしばらくたちますが、ここまでお似合いの方は見たことがありません!」

男は美辞麗句を並べ立て、おおげさに老婦人を褒めた。

「とてもキレイだけれど、私にはこれを着けて行くところもないし。それに、先ももう長くないろうから、持っててもねぇ」

「いえいえ、お客様!もちろん装飾品としてご着用になるのもいいですが、資産価値もとても高いものですので、お家に置いておくだけでも価値が下がることはありません!それに……」

男は、もう一押しだと判断し、今がチャンスだとか、これを逃すと買いたくても買えないとか、金の価値は上がっているとか、お孫さんに受け継ぐこともできるとか、考え着くすべての売り文句を並べたてた。

「そこまでおっしゃるなら、いただこうかしら」

「ありがとうございます!お客様!それでは契約書を……」

「あらごめんなさい!私ったら、お茶のひとつも出さないで。ちょっと待ってね」

老婦人はそう言うと、一度家の奥に消えて、おぼんの上に湯呑みを乗せて歩いて来た。

「わざわざありがとうございます!いただきます!」

男は、さっさと契約書にサインさせてしまおうと、一気にお茶を飲み干した。

「……あのね、私、五年前に主人を亡くしたの」

「そうですか、それは寂しいですね……。ささ、こちらの契約書にサインをーー」

老婦人の言葉に素っ気なく返しながら、契約書を取り出そうとした男は、突然めまいを感じ、その場にへたり込んだ。

「!?」

「……あら、こんなに早く効くのね。主人はね、とても心優しい人だったの。ある日、あなたみたいに感じのいい若者がね、同じように訪問販売に来たの。とても熱心に説明してくれる若者を信用した主人は、何の価値もないガラクタを高額で買わされてしまったのよ。裏切られたショックで寝込んだ主人は、この世を恨みながら息を引き取ったわ。」

「それからね、私は決めたの。主人みたいな思いをする人を減らそうって。庭を荒れ放題にしてるのも、あなたたちみたいな人を呼び込むためよ」

「あら、まだ少し動けるのね。でも無駄よ。扉はもう開かないわ。あなたたちって、とにかく玄関に上がり込んで、扉を閉じればこっちのものだと思ってるでしょ?だから、逃げられないように細工してるの」

「あなたは細身だから、何とか私だけでも処理できそうでよかったわ。この前きた人は、大柄だったから、玄関で解体しなきゃいけなかったの……」

(了)

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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