ボクは半信半疑でX君と丘を登っていた。
前を行くX君はワクワクしているのだろう、いつもよりも余計に浮いている。
時間は夜、見たところ周囲の様子におかしなところは少しもない。
ボクはやはりからかわれているのではないかと思って彼に尋ねた。
「X君、丘の上にUFOが着陸したのを見たって本当かい」
「ああ、本当さ。ようやくボクの努力が報われるときが来たのさ」
X君は宇宙のどこかにいる宇宙人と交信してきたらしい。
X君はボクらの学校でも変わり者として有名だ。
彼はいつもかばんの中にUFOの載った雑誌を入れている。
そして誰彼かまわずその信憑性を語りだす。そうしなくては気が済まないのだという。
彼は当然クラスで浮いていたけれど、友達の少ないボクはすぐに彼と友だちになった。
だからといってボクも宇宙人の存在を信じているわけじゃない。
だけどクラスの中で一人ぼっちなのは嫌だった。UFOはいわばボクとX君の友だち契約書なのだ。
苦労して登った丘の上は真っ暗だった。七色の光を放つ円盤は見当たらない。
ボクは裏切られたような、ホッとしたような気持ちでX君の肩を叩いた。
「きっと何かと勘違いしたんだよ。残念だけど今日はもう帰ろう」
「いいや。ボクは確かに見たんだ。あきらめるもんか」
X君はゴソゴソとお腹のあたりをさするとライトを取り出した。そしてそれを点灯させては消すことを繰り返す。
「これまでもボクはこれで宇宙人と交信してきたんだ。きっとこれなら彼らも応えてくれるはずだよ」
まさかとは思ったけれど、少しすると向こう側でも光が点滅し始めた。光源はどうやら奥の森の中らしい。
X君は興奮して手足をやたら振り回し、合図を送り続ける。
彼の話の真実味が増して、ボクは急に恐ろしくなった。
「本当に宇宙人なのかな」
「そりゃそうさ。この合図はボクと彼らで作ったオリジナルなんだ。他の奴には理解できっこない」
「じゃあ、本当に宇宙人なら、彼らはボクたちを襲ったりしないかい。雑誌で読んだんだ。宇宙人はボクらの星を侵略しようとしてるって」
「大丈夫大丈夫。ボクと彼らにはもう友情が出来ているんだから。でもそんなに怖いなら、あくまで有効希望って合図送ってあげるよ」
ライトをカチカチとするX君は自信満々だった。
ボクは彼がどんなに宇宙人に詳しいか思い出した。
そうだ、X君の言うことなら間違いない。
宇宙人のような彼ならきっと宇宙人とは気が合うのだろう。
そう思うとボクは全く怖くなくなってしまった。
代わりに宇宙人とはどんな奴だろうという興味が湧いてきた。
だから、X君が森の中で宇宙人と会うつもりなので一緒に行かないかと誘われたときにはすぐに頷いた。
そのときは全く安心していて、これでボクらはクラスの人気者になれるだなんて考えも頭をよぎった。
暗く静かな森の中をしばらく歩くと開けた場所に出た。
宇宙人はどこにいるのだろうと周りを見ようとした途端、まばゆい光が迸った。
突然のことに少し驚いたけれど、目が明るさに慣れてくるとボクたちはもっと驚かなくてはならなくなった。
雑誌の通りの七色の円盤が目の前にあったのだ。
それはX君の想定すら超えていたようで、ボクたち二人は言葉を発することも出来ずただただその美しい物体を見つめた。
その感激はすぐそこまで何者かが近づいているのに気づかないほどのものだった。
「おい、宇宙人殿のご登場だぞ」
先に我を取り戻したX君に声をかけられて、ボクはそのとき初めて宇宙人を見た。
ボクは失礼にならないように笑顔を作りつつ、興味のままに彼を観察した。
彼が成体なのかは不明だけれど、大きさはボクらと同じくらい、二足歩行するのも一緒のようだ。
違うのはその大きな丸い頭と全体的にずんぐりした格好だ。
雑誌の宇宙人はもっとすらりとしていて賢そうだった。
こいつはなんだかちょっと可愛らしい。これならボクでも友だちになれそうだ。
だけど彼の発する音には困らせられた。
キンキンと響いてなんとなく不快な気分になるのだ。
さすがのX君も若干笑顔が強張っているようだ。が、ボクの視線に気づいて彼は強がりを言う。
「君、そんな顔をしちゃいけないぞ。大事なのは多様性だ。どんなこともまずは受け入れることが大事なんだぜ」
「わかってるって」
そんなやりとりを交わしていると、宇宙人は彼の腕らしきもので銀色の曲がった筒を持った。
ゆっくりとそれをボクたちに向ける。X君は歓喜した。
「きっと彼、ボクたちに友好の証をプレゼントしてくれるつもりなんだ。ありがたく受け取ろうじゃないか」
X君は感謝を表すために、六本の腕を宇宙人に絡めようと伸び上がった。
それがボクらの伝統的な方法なのだ。ボクもこの歴史的瞬間に感動していた。
次の瞬間、大きな音がしてX君が倒れた。何が起きたかわからなかった。
もう一つ大きな音がした。お腹に激痛が走ってボクも倒れ込んだ。
痛む場所に触るとそこには大きな穴が開いていて、手は緑色になった。
血だ。ボクたちは攻撃を受けたのだ。誰の仕業だ? まさか。
ボクは体を捻り、あの丸くてずんぐりした可愛らしい奴を見た。
彼の持った筒からは白い煙が出ていた。彼は筒を捨てると丸い頭を持って上へ引き抜く。
ボクはハッとした。中から出現したそれこそ、雑誌で見た宇宙人だったから。
ずんぐりした体から抜け出し、宇宙人はそのすらりとした姿で地面に降り立った。
頭の部分はつるつると平板で小さな目が二つ、ボクたちのような長い口や頭の半分を占めるような大きな目は無いようだった。
彼はしばらくぼうっと佇んでいたけれど、急にボクたちを見て何か音を発した。
その音はさっきほど嫌なものではなく、低く落ち着いた音だった。
彼は再びボクに銀色の筒を向けて大きな音を出した。もう痛みは感じなかった。
ボクは途切れる意識の中で、宇宙人の体にあるマークに気づいた。
それは黒の四角の中に水色の円、青い惑星が描かれたマークだった。
前に本で読んだことがある。
あれは確か「地球」という名の星だったか……。
そう思いながら、僕はゆっくり目を閉じた。
(了)
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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。
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