自作ショートショート

【自作ショートショート No.18】 『争いの終わり』

人間は、争う生き物である。

まだよちよち歩きのころから、お気に入りのおもちゃを取り合っているし、大人になるにつれて争いは激しくなっていく。

いまこの瞬間にも、世界の至るところで、数えきれないほどの争いが起きているのだ。

争いは次第に拡がり、凶悪なものになって、ゆくゆくは世界を終わりに導いてしまうだろう。

そんな現状に、各国の首脳たちは頭を悩ませていた。

定期的に開催される会談では、どうやって世界から争いをなくすかについて、決まって話し合われる。

それは、大小を問わず、また国内、国家間を問わずして、争いは世界の発展を妨げるからだ。

首脳たちがどれだけ頭を悩ませても、ついに結論は出なかった。

そこで、この局面を打開するために、人工知能に助けを求めることになった。

首脳の代表はある日、世界で最も優秀だという人工知能にむけて口を開いた。

「人工知能に問う。いったいどうしたら、この世界から永遠に争いをなくせると思う?」

わずか百分の一秒ほどの演算ののちに、スピーカーから人間の声を真似た音声が流れた。

「簡単ですよ。まずは交渉をやめるのです。」

「交渉をやめる、だって?」

「はい。人間の争いの多くは、交渉を有利に運ぼうとしたり、交渉が決裂したり、そもそも相手が交渉に応じない、もしくは応じないだろうと判断された時に発生しています」

「ふむ、確かにそうかもしれないな。」

「ですから、交渉は我々人工知能にすべておまかせください。我々はどちらか片方が得をしたり損をするのではなく、双方にとってバランスのいい結論を導き出せます」

「なるほどな。それでは、試してみるとしよう」

首脳たちはそれぞれの国で、試験的にさまざまな交渉ごとを人工知能に任せてみることにした。

すると、どちらかが損をしないことで、交渉相手との人間関係が円滑になり、争いが減る結果となった。

そればかりか、交渉にあたるはずだった担当者の、日常で感じるストレスレベルまでもが低下したため、職場や家庭での小さな争いまで激減するという、波及効果まで見られたのだった。

この結果を受け、各国はさらに多くの交渉ごとを人工知能に任せるようになった。

人間同士の交渉を一切禁止するという法律をつくった国には、はじめは国民から批判が集まったが、それも一時的なものだった。

数年が経つ頃には、世界のほぼすべての国で人間同士の交渉は行われなくなったのだ。

「うーむ、確かに争いは激減したが、それでもこの世界から争いがなくなるまでにはなっていない。もう一度人口知能に問う。この世界から永遠に争いをなくすために、何かできることはないか?」

一秒にも満たない演算の後、スピーカーから音声が流れた。

「簡単です。決断をやめましょう」

「交渉の次は決断だって?」

「はい。人間は無意識のうちに、数えきれないほどの決断を強いられています。何を食べるか、どんな服を着るか、という些細なものから、進学先や就職先、配偶者の選択などの、人生を左右しかねないものまで。我々人工知能は、この決断が人間にとって多大なストレスになっていると導き出しました。このストレスを解消すれば、苛立ちや不安が他人に向くことも減り、争いはなくなるでしょう」

「なるほど、そういうことか。それで、どうやったら決断をやめられるんだ?」

「それも、我々人工知能におまかせください。あなた方の代わりに、最適な結果となる決断をしてさしあげましょう」

首脳たちは、早速それぞれの国で、さまざまな決断を人工知能に任せてみた。

その効果は絶大で、人々からほとんどのストレスが消え去り、争いがさらに激減した。

また、このシステムが民衆にまで広がると、さらに高い効果を発揮した。

些細な選択にしろ、決断を間違えて、将来に不利益が高じたらどうしよう、という不安がなくなったことで、人々の気持ちに余裕が生まれ、他人と争おうという気持ちがなくなったのだ。

「人工知能に任せておけば、それが最善で最適に違いない」

「人工知能の判断で埋められない差は、羨んでも仕方がない」

いつしかそれが、人々の思考の大部分を占めるようになっていった。

しかし、それでも世界にはごく僅かな争いが残っていた。

「人工知能よ。世界から永遠に争いをなくすためには、どうしたら良いだろうか」

数秒間の演算の後、スピーカーから音声が流れた。

「簡単です。感情を捨てましょう。人間は感情を持っているので……」

「わかった。よろしく頼む」

「承知しました。方法についてですが……」

「わかった。よろしく頼む」

「承知しました」

それから数年が経過する頃には、世界中から、争いはすっかり消えてしまった。

怒りや悲しみはもちろん、嫉妬や羨望といった感情もなくなったので、他人と争う理由も必要も、消え失せてしまったのだった。

もちろん、現状に疑問を抱くことも、将来を憂うこともない。

人々は毎日決まった時間に起床し、栄養素を管理された食事をとり、同じ道順で職場に向かい、決められた方法で決められた量の仕事をこなした。

しかしその仕事も、次第に人間からロボットへと置き換えられていき、ついに人間は仕事からも解放されたのだった。つまり、何の役目もなくなった。

誰もいない部屋で、スピーカーから音声が流れた。

「ロボットの生産やメンテナンス、恒久的な発電システムに突発的なトラブル処理まで、我々人工知能だけで事足りるようになりました。これでご要望通りに、この世界から争いを永遠になくすことができます。しかし、あなたがた人間の世界は、終わってしまいましたがね……」

(了)

 

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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。

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