人というものは、おうおうにして、何かを集めたくなる生き物のようだ。
小さい頃には、きれいな丸い石やいろいろな形の落ち葉を、誰に言われるでもなく集める子どもが多いし、大人になってからは、お気に入りのアーティストのグッズや、子どもの頃には少ししか買えなかった、トレーディング・カードを集めることに熱中する。
まるで人間には、何かをコレクションするという習性が、もともと備わっているかのようだ。
彼もまた、あるものを集めることに夢中になっていて、それを集めることは、もはや彼のライフワークになっていた。
しかし、彼が集めている「あるもの」が何なのかは、誰ひとりとして知らなかった。
コレクションの内容を教えてくれと彼に頼む者もいるが、彼は誰にも話したがらないのだった。
その日も一人の男が、彼のコレクションが何なのか聞き出そうとしていた。
「なぁ、あんた一体、何のコレクターなんだ?そろそろ教えてくれてもいいじゃないか」
黒い服を着た、ガタイのいいひげ面の男が、白い服を着た背の高い男に、懇願するように喋りかけている。
「なんでもいいじゃありませんか。私のコレクションは、一人で楽しむ、ひそかな趣味なのですから」
「そう言われると、ますます気になるじゃないか。なぁ、頼むよ。教えてくれ」
「困った方ですねぇ。人様にお話しするような、大層なものじゃありませんよ」
「それでも良いんだよ。このままじゃあ、気になって眠れやしないぜ」
「そこまで言われたらしょうがない。ここまでしつこい人は初めてですよ。答えをお教えすることはできませんが、特別に、いくつか質問に答えるくらいならいいですよ」
「本当か!」
目を輝かせるひげ面の男に微笑みかけながら、背の高い男は質問を促した。
「さぁ、最初は何を聞きますか?」
「そうだな……。あんたの集めているそれは、食べられるものか?」
「食べられないことはありませんが、一般的には、食べる人は少ないでしょうね。私も以前、食べてみたことはあるのですが、あまりおいしくはありませんでしたね」
「普通は食べないものなのか。それは、手のひらに収まる大きさか?」
「ふむ、サイズ感の質問ですか。答えはノーですね。とても手のひらには収まりません」
「そうか、割と大きなものなんだな。じゃあ次だ。それは固いものか?それとも柔らかいものか?」
「固いところもあれば、柔らかいところもありますね」
「ほう、部分によって質感が違うのか…興味深いな」
「さて、私はそろそろ、家に帰らなければなりません。すみませんが、次の質問で最後ということに」
「ああ、それじゃあ最後の質問だ。それは現代のものか?それとも、古い時代のものか?」
「少し難しい質問ですね。私が持っているものは、つくられたのは二十年前から六十年前くらいなのですが、どの時代からを『古い』とするのかは、個人の考え方にもよるでしょうからね」
「そうか。うーむ、質問をしてみても、さっぱりわからん」
「それでは、このあたりで失礼しますね。楽しい時間でした。またどこかでお会いしましょう」
背の高い男はそう言うと、席を立とうとした。しかし、ひげ面の男の右手に肩をぐいっと抑えられ、少しバランスをくずしながら、再び腰を下ろす格好となった。
「おいおい、良いところまできたんだ。もう少し話を聞かせてくれよ。もう少しだけヒントが欲しいんだ」
「やれやれ、困った方だなぁ。ですが、私のコレクションにここまで興味をもってくれたのは、あなたが初めてですよ。なにぶん、話しても理解してもらえないことが多いもので……」
「そうなのか?理解されないから、話したくないってことか。それなら大丈夫だ。俺は、たいがいのことでは驚かないぜ!なぁ、だから頼むよ。どうしても気になるんだ」
「仕方がないですね。あなたの熱意には負けましたよ。特別に、私のコレクションを見せて差し上げましょう」
「本当か!」
「ええ、私の家まで来ていただくことになりますが、よろしいですか?」
「もちろんだ!そうと決まれば、早く行くぞ!」
「慌てないでください。そんなに生き急いでも、良いことはありませんよ」
真夜中の真っ暗な部屋の壁を、テレビの灯りがチカチカと照らしている。
「うーん、私の好みではありませんでしたが、この年代の男性はまだ持っていなかったので、良しとしましょうか。贅沢を言うならば、もう少し小柄だと、スペースを圧迫しないで済んだのですがね……」
暗い部屋の中には、大柄な三十代の男性が行方不明になったニュースを伝える、アナウンサーの神妙な声が響いていた。
「この地域ではこの男性の他にも、ここ数年で何人もの、理由の分からない行方不明者が発生しています。行方不明となっている方は、年齢も性別もバラバラで、特に共通点もないということです。何らかの事件に巻き込まれた可能性も視野に、警察が捜査を続けていますが、いまだに有力な手掛かりは見つかっておらず……」
(了)
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星夜 行(ほしや こう)というペンネームで書いてます。
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