『消人屋敷の殺人』って。
もうタイトルからして、完全に買わせにきてますよね。
悔しいですが、このタイトルを出されては、読まないわけにはいきません(嬉)。
深木章子(みき あきこ)さんといえば『鬼畜の家 (講談社文庫)』や『衣更月家の一族 (講談社文庫)』などのイヤーなミステリでお馴染みですが、
今回は良い意味で、いつもの深木章子らしくない王道本格館モノのようです。
やったあ!( ´∀`)
深木章子『消人屋敷の殺人』
昔から、この地を支配していた日影一族の棟梁・日影秋水の居場所として建てられらた「日影荘」。
東京から車で5時間あまり、Q半島の海面にそそり立つ絶壁の上に佇むこの日本家屋は、古くから「消人屋敷」と多くの人に呼ばれてきた。
日影一族が勢力を保っていた明治の始め、明治政府に対して反乱を企て、邸内にこもっていた一族が、なんと二十人近くも煙のように消失してしまったという。
反乱軍のメンバーが建物に逃げ込んだところは目撃されているのに、周囲を取り囲んだ追っ手が踏み込んだ時には、邸内はもぬけの殻だったと。
その後、数週間に渡って監視されていたが、猫の子一匹出てこなかった。
地下室があることも考えられたが、そんな大勢の人間が数週間も生きていられるような技術が当時あったとは思えない。
仮に邸内のどこかで集団自殺していたとしても、それだけの人数なら腐敗臭くらいしてくるはず。結局、死体は見つからなかった。
しかも噂はそれだけでなく、ちょうど日影荘がある辺りで、 空を飛んでいる男を目撃した漁師がいたという。
さらに、日影秋水という人物は、人を驚かすようなイタズラや発明が好きだったらしく、日影荘にもなんらかの仕掛けがあるんじゃないか、との噂もあり……。
集められた客人たち
幸田真由里様
非常に重要な件でお話があります
九月二十日の午後二時に日影荘までおいでください
微妙な問題が絡んでいます 他言は無用に願いします
P.50より
そんな「日影荘」には現在、覆面作家の黒碕冬華(くろさきとうか)という人物が住んでおり、その黒碕から「日影荘に来てくれ」と招待状を受けた三人の人物が屋敷に集められます。
しかし、実際に行ってみると、黒碕冬華は「そんな招待状は出していない」という。
一体どういう事?と、家政婦も含めみんなが混乱しているところに、待ってました!と言わんばかりに土砂崩れが発生。
外部との交通手段が絶たれ、彼らは日影荘に取り残されてしまうのです。
さらに、明らかに人為的に電話線が切断されてしまう(そばに枝切り鋏とハシゴが転がってた)。
完璧なまでの、「嵐の山荘」の出来上がりです!
そして、
誰もが混乱する中、
皆の目の前で、
一人の家政婦が、
消失した。
深木章子さんならではの本格もの。
日本家屋という特殊な舞台、その屋敷で消失した大勢の人、空を飛んだ男、謎の招待状によって集められた人々、土砂崩れによって引き起こされたクローズドサークル、明らかに人為的に切断された電話線……
……oh、なんという王道な舞台でしょう。
しかし、ここは深木章子さん。
これだけ王道な舞台を整えておいて、普通の館モノではなく「深木ミステリ」だったのです。
作中でも述べられていますが、今回の土砂崩れは完全に自然の力によるもので、外部との交通手段がなくなったのは「偶然」なのです。
そんな状況の中、犯人は、明らかに人為的とわかる手段で電話線を切断した。
つまり、これから殺人が起きますよ、と相手に言っているようなものです。
特定の人物を殺害したいだけなら、わざわざ警戒心を高めることなんてしないでしょう。
それにもし、あらかじめ殺人を計画していたのだとしたら、土砂崩れが起きなかった場合どうしていたのでしょうか。
しかも「嵐の山荘」という状況は、内部の人間の犯行であるという可能性を高める事でもあり、犯人にとってはデメリットも多いはず……。
そんな、なぜ?にも注目です。
「現に、我々がこれだけ警戒しているんだ。どんな殺し方にするにせよ、犯行は格段にやりにくくなっているはずだ。犯人が確実に我々を殺したいなら、ヘタに細工を弄するより、素知らぬ顔で実行する方が得策に決まっている。」
P.205より
さて問題の、メインとなるあのトリックですが、すでに深木章子さんの作品を多く読まれている方は気がつく事ができたのではないでしょうか。
良い意味で深木さんらしい、アレが炸裂します。
逆に、深木章子さんの作品をあまり読まれていない方なら、大チャンスです。「おおお!これが深木さんかあ!」と、驚愕できます。
トリックだけではなく物語の読ませ方も巧く、終盤に入ってから「ええー!アレがアレだったのー!」と驚き、さらにまさかの展開にニヤリ。
そしてその他の、消失した家政婦の謎や、空を飛ぶ男が目撃された噂の真相などは、「うそでしょ!笑」というバカミス感に溢れていて、私は結構好きです( ´∀`)
もちろん屋敷の「見取り図」もありますので、それを見ながら真相を楽しみましょう。
おわりに
先日の『屍人荘の殺人』や『謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)』など、質の良い館ミステリが最近連続しています。
嬉しい。
『消人屋敷の殺人』なんて「いかにも」なタイトルですし、新本格30周年を意識してこの作品を書かれたのでしょうか。
だとしたら、なお嬉しい。
普段タイプの違うミステリを書かれている作家さんが「本格を意識して書いた作品」って好きなんですよねえ……(ノω`*)
コメント
コメント一覧 (4件)
昨日見かけて買ったばかりです。
今は、同じく昨日買った屍人荘の殺人を読み終え、盤上の向日葵を読んでいる途中です。他の小説にしようかと思いましたが、このブログを読んでいて内容が非常に気になってきたので、読み終わったら、すぐコチラを読んでみようと思います♪
リョウさんこんばんは!
やっぱりこのタイトルを見かけたら買っちゃいますよねえ 笑。
『屍人荘の殺人』に『盤上の向日葵』!良いですねえ!どちらも非常に面白い作品でした。
消人屋敷の殺人も良いミステリでしたので、ぜひぜひ楽しんでいただけたらと思います(*´ω`)
アレが炸裂!
多分私が想像してるのと、あってるかな、、
人が消えるだなんて、覆面作家なんて、
なんて、心ひかれるキーワード。
ふっふっふ。そうなんです。アレが、アレで。
hitomiさんの想像と、はたしてあっているのかどうか気になる所です。
ほんと魅力的なキーワードしか出てこない作品でした(゚∀゚*)