日の下町という架空の町を舞台に繰り広げられるさまざまな人間関係を描いた連作短編集です。
告白されたものの断る理由が見つからず、自分は魔法使いだから人間とは付き合えない、と出まかせを言ってしまった女子高生。
さらに種族を超えた愛を誓う男子高校生。二人の恋の行方を軽快に描く「上京間近のウィッチクラフト」。
ブラック企業に勤めており日々辞職を願っているのに、本人の意思とは裏腹にどんどん出世してしまう「勤勉社員のアウトレイジ」。
その他「真偽不明のフラーテーション」、「コノ人ハ嘘ヲツイテイマス!!」、「不可抗力のレディキラー」、「寡黙少女のオフェンスレポート」といったユーモラスでコミカルな短編が続き、最終章の「失恋覚悟のラウンドアバウト」ですべての物語が繋がっていきます。
ただの恋愛小説では感じられないドキドキ感を楽しめる、新感覚の一冊です。
浅倉秋成『失恋の準備をお願いします』
「あなたとはお付き合いできません―わたし実は、魔法使いだから」告白を断るため、魔法使いだと嘘をついてしまった女子高生。しかし彼は、人間界と魔法界を超える愛を誓ってくれてしまい……?
フリたい私とめげない彼。恋と嘘とが絡みあい、やがて大きな渦となる!
ささやかで切実な恋物語は、大事件の予兆だった。
いずれの短編も、物語となるのはどこにでもありそうな架空の町です。
短編のタイトルにも登場する「ラウンドアバウト」とは円形の交差点のことで、それぞれの物語が交差点で行き交う人々のように交差して展開していきます。
連作短編集としてはこのような構図は珍しいものではありませんが、それぞれの物語の進み方がスピーディーで心地よく、すいすいと読み進めることができました。
物語のつながりは読書好きな方ならある程度予測できるかもしれませんが、それでもラストには衝撃を受けることでしょう。
物語の展開がスピーディーなだけでなく、地の文章やキャラクターの語り口も軽快でユーモアに富んでおり、コミックを読んでいるような気軽さで楽しめます。
シュールな笑いを楽しめるコミックやアニメが好きな方にはとくに読んでみていただきたい一冊です。
物語の軸は相手が魔法使いだったとしても何としても付き合いたい男子高校生と、嘘をついてでもその告白を断りたい女子高生がメインです。
しかし恋愛小説というよりはコメディ要素が強く、伏線も随所に張られており、普段恋愛小説は読まないという方でも楽しみながら最後まで読むことができます。
ある話で登場したエピソードやちょっとした台詞が、他の話ではまったく違う意味を持つ…といった点は、ミステリ小説好きな方も楽しめるかもしれません。
「魔法使い」という突飛なワードが飛び出ますが、魔法や不思議な出来事などは登場せず、ただただ数数奇なめぐり合わせによって導かれていく日の下町の住民たちに思いを馳せてしまうようなラストも魅力的でした。
とにかく最終章まで読んでほしい!
本作は日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞の二つの賞にノミネートされた作品です。
推理小説、ミステリ小説というよりはラブコメ要素が強いため、この賞で初めてこのようなテイストの作品があることを知ったという方も多いのではないでしょうか。
作者の浅倉秋成氏は他人の背中に幸福度が見えてしまうという特異体質の主人公を描く「ノワール・レヴナント」で小説家としてデビューを果たし、
ある高校で起きた連続自殺の真相を探る青春ミステリである「教室が、ひとりになるまで」、
サラリーマンの主人公が当時の姿のままの学生時代に好きだった同級生と遭遇する「九度目の十八歳を迎えた君と」など、コンスタントに作品を発表しています。
いずれもミステリの中に恋愛や青春といった要素を散りばめており、爽やかな読後を楽しめる作風が特徴です。
いずれも疾走感があり、ユニークな台詞の掛け合いなども見られます。
ですがラストには本作のようにしっかりと伏線が回収され、切ない後味も残ります。
今作が気に入ったら、過去の作品もぜひチェックしてみてください。